やまけんの出張食い倒れ日記

日本の料理研究家の草分け・江上トミさんの生家である熊本県芦北町の赤松館(せきしょうかん)にて、トミさんレシピのカレーライスをいただく。バターの甘くまろやかな香りにフライドオニオンがトッピングされた純和風ハイカラな味わい、そしてすべて館の周りで穫れた食材の漬物との食べ合わせが素晴らしい!

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いやもう すばらしい体験をさせていただきましたね! こんなに味わい深い純和風カレー、始めていただいて感動してしまった!

熊本県の芦北町の名所の一つといわれる赤松館(せきしょうかん)。藤崎さん一族の家なのだけれども、登録有形文化財に指定されている名家である。それはこの威容をみればわかるだろう。

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この藤崎家、かの江上トミさんの生家である。といっても料理関係者でないとあまり耳にしない人物かもしれないが、新宿区にある江上調理学院の創設者であり、NHKの長寿番組である「きょうの料理」のごく初期から講師として登場していた方である。いってみれば料理研究家の草分けだ。いまのようにポッと出でテレビやメディアに採りあげられる時代とは違い、当時は余程のキャリアがない限りNHKの講師として登壇することなどできなかった時代だということを考えると、すごみがわかる。

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館内の案内を、なんと藤崎家のご当主夫人がじきじきにしてくださった!実はこの日は閉館日だったのだが、ご厚意で開けてくださったのだ。いま僕が「きょうの料理」で連載を書いていることを伝えると「まあ、そうなの!ご縁があるわね」とニッコリしていただいた。どうもありがとうございました!

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実はご婦人、キルトやパッチワークのアーティストでもあられる!

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それも、本当にすごい作品群なのですよ、、、

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この藤崎家の、トミさんが幼少期に料理を仕込まれたという竈(かまど)を見せていただいて、なんとなくいろんなことを納得。

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大事に保存されてるこの竈、大型の羽釜をかけられる手前のものに加え、画面右後ろにあるやや小型のスペースあわせて火口が6つもある。後のは小型と言っても、通常の家からするととんでもない大きさの羽釜をかけられるサイズである。

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この写真の一番右にかかっている鍋。じつはこれダッチオーブンである! 1900年代の初期にこんなものを自宅に持っていたということか。ダッチオーブン伝道師であるクック&ダインの山口さん、ぜひ観に行った方がいいよ!(笑)

さて実はこの赤松館のはなれがカフェ「米蔵」と銘打たれている。ここでなんと江上トミ先生のオリジナルレシピのカレーを食べることができるのだ!

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このカフェを運営し、トミさんレシピのカレーを伝えているのがきもとさん。

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このカレーがですよ! ま・じ・で素晴らしい!

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手前の黄色いルーがトミさんレシピ。後方の茶褐色のルーは現代風カレー。ともにビーフカレーである。

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トミさん直筆のレシピをみるとなかなか興味深い。まずカレー粉はC&Bが一番よし、と書いている。ニンジンタマネギニンニクのみじん切りをラードまたはバターで炒め、カレー粉とメリケン粉を炒めて鶏肉のスープで伸ばしてルーを造る。ゴロンと切った牛バラ肉がメインの具材で、煮込み時にチャツネを入れると書いてあるので本格派だ。最後にフライドオニオンをのせるがそのレシピまで細かく書かれている。

まあしかしこういった和風カレーは、穏やかな味で特徴がないような、そんなものが多いのだが、、、

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この赤松館カレー、実に美味しい!

口に入れようとスプーンを眼の前に持ってきた時点で、ぷわあんとバターのまろやかな香りが花開く。あまいあまい香りである。口に入れるとそのバターのまろやかさに鶏スープの程よいうま味で彩られた美味しいルーが染み渡る。フライドオニオンの香ばしさと甘みも加わり、予想していた控えめな味ではなく、実にリッチな美味しさである!

「美味しい!」とばくばく食べていると、目の前の熊本人・ヨシダさんが「ホントですか?」と眼を丸くする。

「オレもよく食べてますけど、ちょっと味が薄いというか、インパクトがないんですけど、、、」

といいつつ口に運び、食べた瞬間に「あれっ!いつもより美味しく感じますよ!」という。なんじゃそりゃと思ったら、きもとさんがいうのだ。

「今日は本来は閉館日なので、一昨日仕込んだカレーを冷凍しておいたのをお出ししているんですよ。」

ああああああああああああああああああああああ

カレーの熟成効果じゃないですか、それ! みなさんご存じだろうが、和風のカレーは作りたてよりも数日間ねかせた方が味わいが深くなる。これは事実なんだけど、スパイスに含まれる香り成分は揮発性のものが多いので、おけばおくほど香りが抜ける。従って、インド風に近いものはできたてがいいし、和風カレーであればおいた方が美味しい。この江上トミさんのレシピは完全なる和風カレーなので、おいた方が美味しくなるというわけである!

ということは、一両日ねかせてない通常バージョンのカレーを食べたらこんなに感動しないんだろうか?いやそんなことはないだろうが、、、おそらくバターの香りは作りたての方がもっとたつんだろうな。また再訪して確認したい。

ところで、あいがけになっている現代風ルーの方も美味しいのだけれども、僕はオリジナルレシピのほうが最高に気に入りました。大阪のインデアン、デリー新川店のコルマカレー、帯広のインデアンカレー、宮崎空港のガンジスカレーに加えて、この江上トミさんレシピのカレーを大好きなランキングに入れたいと思う。

ちなみに付け合わせにいろんな漬物が出てくる。どれもこの辺の食材を使ってきもとさんがつけたというものだ。

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右は新しょうがの味噌漬け、左は梅干し。しょうがは筋ができるまえで柔らかい。

そして梅干しがまた最高。

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なぜかカレーに合う、ライトな漬け具合の梅干しなのだ。インド料理的に言えばチャツネかタマリンドかという感じ。カレーと一緒に食べるとホントに旨かったなぁ。手造りだからだよね。

短い時間だけれども、いろんな感動を覚えた芦北の名所でありました。どうもご馳走様でした!必ず再訪させていただきます。

■赤松館公式Web
http://sekisyoukan.jp/toppage.html

なお、カレーを出しているのは赤松館カフェ 米蔵(TEL0966-87-2866)ですが、営業は土・日・月のみ。営業時間は11:30~16:00です。お間違いなきよう。