僕が写真をまともに撮り始めて、まだ10年経っていない。というと驚く人がけっこういる。2005年にEOS KISS Digital Nを購入したのが一眼レフの始まりで、それまではコンパクトデジカメで撮っていたんだから、あっというまにここまで来たという感じだ。
で、僕のカメラ経験の中でのエポックメイキングといえば「ライティング」をするようになったことだろう。それは、当時週刊アスキーの連載でカメラマンとして組んでいただいていた八木澤さんが撮っているのを横目で見ているとき、「やまけんちゃん、ストロボ使うとすごくいいのが撮れるよ」と教えてくれたのだ。そこで、純正ストロボは高いのでサードパーティーであるサンパックの小さいヤツを買った。
よくストロボをカメラの上のホットシューに装着して、被写体に向けて発光させて撮る人がいるが、あれはこの世で一番、被写体を汚らしく撮る方法である。直射は顎の下などに影が出て、顔のパーツを全て平面にしてしまう。しかも発光面が小さいのでどぎつい光になってしまうのだ。
だから、少なくとも発光面をカチャカチャと天井や横の壁にむけて撮影をすると、光がそれらに反射して被写体に当たる。これだと美しく撮ることができる(もちろん壁が白色である場合)。それがストロボ使いの初級である。
その次の段階は、いよいよストロボをカメラボディから離して使うというところになる。
「やまけんちゃん、ストロボをボディから離して撮影するところから全てが始まるんだよ」
と八木澤さんは言ったのだ!
そこから先は教えられない。僕は仕事柄、たくさんの料理カメラマンの撮影光景をみることができたので、おそらく同業者には教えないよという部分もふくめ結構知識ができた。しかしそれを簡単に漏らすのは道義に反すると思うからだ。カメラマンさんが苦労してあみだした技術なんだからね。
さて、相変わらず初心者にとってもクリップオンストロボという道具は敷居が高いようで、ストロボ買うくらいならレンズを買うという人がけっこういる。でも、もったいないなあ、と思う。というのは、例えば高感度撮影が得意なカメラがあって、それでISO6400くらいで手持ちで撮影した料理の写真と、ストロボを発光させて撮った写真とでは出来がまるで違う。
もっといえば、地灯り(じあかり)とよばれる、その場にある光だけで撮影するのと、ストロボの強烈な発光で撮るのとでは、結果が大きく変わるのである。もちろんどちらにも佳さがあり、残念なところもある。ただ、どちらも撮れるようになっておくに越したことはない。
で、初心者がクリップオンストロボを買わない大きな理由が価格だったと思う。純正のハイクラスのストロボだと6万円くらいするので、そりゃ買わないよなぁ。でも、もっと安いお手軽価格だったら?
そんなのが出たのである。しかも超・高性能。 それがNissin(ニッシン)というサードパーティーメーカーのi40という製品だ。なんとお値段19980円! 最初に実物をみたのは、プロカメラマンの新藤先生のスタジオだった。あまりの小ささに驚き、「これ優秀だヨ」と先生が太鼓判を押すので、買おうと決心したのである。
ニッシンは先のサンパックと共に、純正以外のストロボを供給するメーカーだ。とはいっても、メーカーによっては純正ストロボの扱いだが、製造をニッシンに委託する、つまりOEM供給してもらうことも結構ある。僕がしばらく前までよく使っていたカメラに装着するストロボもそうだった。なんでわかるの?と思うかもしれないけど、造りが似てるからわかるんです。
上の写真の箱は、右がi40で左がDi866マーク2というモデル。Di866はフラッグシップ扱いのストロボで、ニコン用の大光量のものである。それと並べているのは、i40のサイズ感を感じてもらうため。Di866が二倍近く大きいということがわかるだろう。ニコンやキヤノンなどのカメラメーカー純正ストロボもだいたい同じような大きさだ。
でも、そんな大きいの、例えばミラーレスカメラには似合わない。だってボディよりデカクなっちゃうんだもの。それに大きいと当然重い。二灯持っていきたいという時に躊躇してしまうくらいなのだ。だって単三形の電池が4本入るんだからね。
しかしこのi40は、最大光量自体はフラッグシップ機の2/3程度だけれども、圧倒的に小さいのである!おそらく持ってみたら衝撃ですよ、マジで小さいから。
普通、小さいモデルの場合はいろんなところに妥協があるものだ。例えばヘッドの首振りは、先に書いた天井や壁バウンスの際に大事なのだが、一方向にしか廻らないとかそういう制約があることが多かった。
しかし!
i40は全方位にぐるんぐるん廻ります。使ってて困ることはほぼないと言っていい。
小型化の構造上、この発光部と電源部を繋ぐヒンジ部分の強度だけが気になるけれども、これはこれで潔い。だから二つ重ねて持っていっても全然問題にならない軽さなのである。
カメラボディなどにはプッシュピンを押して接合する仕組み。ねじ式でないのでワンタッチオペレーションが可能だ。
天井バウンスの際に、目元にすこしキャッチライトを入れたいときに重宝するリフレクターも装備。これを引き出すと、上に行くはずの光が少しだけ前に飛ぶので、被写体の眼に光が入って活き活きするのである。
発光面下部には、こんどは広角レンズを使っている時に使用するワイドパネルが。
これを引き出すと、照射範囲が広くなるのだ。これが実に大きく照射結果に影響する。
もっとも潔いのが背面ダイヤルだ。左側のダイヤルがモード、右側が光量の補正に対応している。このレイアウトを観て僕は驚いた!というのは、いままで各社のストロボは、液晶表示の非常に面倒な操作で調整を行うようになっていて、わかりにくくてしょうがなかったのだ。
それが、ダイヤルにしたとたんに簡単明瞭になる!
たとえばカメラに装着して、何も考えないで撮影したい場合は左ダイヤルをTTLというところに合わせて撮影する。そうすればカメラが判断した光量で撮影できる。液晶画面に表示される結果を見て「もうちょい明るめに撮りたい」と思ったら、右側のダイヤルのTTLと書かれている側を+1.0というようにセットすると、数字分の光量が大きくなる。これで模索すればいいわけだ。
圧巻はワイヤレス撮影だ。左ダイヤルが、上の画像のようにABCのどれかにセットされている時は、ワイヤレス発光モードになる。いまは、ミドルクラス以上のカメラにはワイヤレス発光機能が備わっていて、カメラから離しても発光させることができる。その際に、3つのグループを分けて発光させる機能がついているのが普通だ。例えばAは被写体の正面から、Bは上からやや小さな光で、というように独立した調光をするときにグルーピングが必要になる。
もうおわかりだろうが僕が駆使しているのはこのワイヤレス発光モードだ。ワイヤレスの場合、カメラボディに付属するストロボの発光をコマンダー(指示器)として、子機を発光させることが普通だ。カメラ側のストロボが非常に微弱な発光をし、その光のなかにどれくらいの光量で光りなさいちう情報を埋め込むのだ。これを子機側がキャッチしてその通りに光るというわけ。
そう書けば簡単だがこれがなかなかくせ者で、キャッチする側のセンサーがいまひとつ感度が悪かったりして、発光しないことが多いのだ。実は、このNissinの初代Di866はこのセンサー性能が実に悪かった!僕は出てすぐに購入したのだけれども、それはもうひどいもんだった。だってニコン純正のストロボとDi866を2メートル離して撮影しても、ニコンの側しか発光しないんだもん。そのストロボはもうお蔵入りとなってます。欲しい人はあげますよ。ワイヤレスではなくクリップオンで使う分にはとても高性能です。
で、その受光センサーの感度が大幅にアップしているのだ!やった! これはもう色々テストしたのだけれども、かなり厳しめの条件でもバッチリ発光してくれる。使い物になるどころではない!ようやくいい感じになりました、、、
さて一点だけ重要なことが。i40を使う際に、小さなボディのせいか、光をかなり集光して照射しているようだ。透過式アンブレラを通してみるとそれがわかる。
こんな感じで傘全体には光が廻らない。そこで、ワイドパネルを引き出して広角照射する。
今度は光が全体に廻った!
このように、ちゃんと被写体や使い方に応じて機能をセレクトする必要はある。
ちなみに、こちらはオリンパスのFL-50Rという大光量クリップオンストロボ。
こちらは光量が大きく発光面もでかいせいか、ワイドパネルなしで全体に光が廻っている。あっぱれですね。けど、でかいんだよ~
ちなみに、このi40で撮影したの、こんな感じです。
どーですか。クリップオンでこんなに撮れるんですよ。そろそろ買ってもいい頃じゃないですかね? ちなみに俺はi40を二台、マイクロフォーサーズ用とニコン用買いました。あとは一台でマイクロフォーサーズ用にもニコン用にも、キヤノン用にもなるというようなばけものストロボが出てくれれば、旅は終了という感じですな。期待してますNissinさん!
■Nissin i40 公式ページ
http://www.nissin-japan.com/i40.html
ちなみにi40はコストダウンのためか、本社Webでのダイレクト販売しかしていません。