さてロンドンでの夕食、何を食べようかと思っていたのだけれども、St.Johnに決めた。今回の旅では色んな人がお薦めレストランを教えてくれて悩んだのだけれども、昨年度中に出会って仲良くさせてもらったコンフィチュールの大家である、カリフォルニア在住のJuneTaylarが「あたし、イギリスに住んでる時に行けてない店があって、それがSt.Johnなの。もし行けたら感想おしえて!」と言われていたのだ(もちろん意訳です(笑))。
ジューン・テイラーのことについてはこちらをご参照。
■埼玉県の食の町・神川にて素晴らしき人達との邂逅。June Taylor, Aglaia Kremezi, Charlie Hallowell,そしてNancy Hachisu。今度は僕がオークランドとギリシャにいかないとな。
https://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2013/11/june_taylor_agl.html
https://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2013/11/june_taylor.html
そう言われたらいくしかないよな、ということでセント・ジョンに予約を入れるが、超人気店らしく「21:15分くらいからなんとか席が空きます」と。いいよいいよ入れるなら、ということで3人で予約したのである。
セント・ジョンというのは店のある通りの名前でもある。駅を出るといきなりホットドッグの屋台が出ているんだけど、鉄板の上でソーセージとざく切りに下タマネギを炒めている。このタマネギの香りが四方八方に飛び散ってヤバイ!俺がこの世で一番好きな野菜はタマネギなのだ!思わず買いたくなるがなんとか我慢。
そして歩き出すが、この界隈、ものすごく繁盛している飲食店が多い。地域としてはイーストエンドというのか、下町感溢れる町並みなんだけれども、それほど規模の大きくない飲食店に客がギッシリ入って、賑やかなのだ。活気があっていい!
めざすセント・ジョンはその賑やかな界隈からスポッとはずれたところにある。
ごらんのとおり、なんか街頭の灯りだけで暗い!という感じがするし、お客さんも誰もいないのか?と思いきや、うなぎの寝床のように奥に長い入り口、しかも一階はバーで二階がレストラン、そして一階も二階もぎっちりぎっちり超満員ではないか! 15分前に着いたのだけど「うーんやっぱり予定通りもう15分待って下さい」といわれる大盛況。すごいのである。
15分後、席が空き、気持ちよいサービスの人たちに訊いたり、ネットでメニューに出てくる単語を調べながらオーダー。
メニューがね、よくわかんないんですよ。豆とハムのスープ、くらいはわかるんだけどね、たとえていうと日本で内臓肉を「フエ」とか「ハツモト」とか言うでしょ。こんなの、辞書にも載ってないんだよね(笑)
飲み物はリンゴの果実酒であるシードル、でもこっちでは「サイダー」と発音する。
上品に造られたシードル、旨い!
「けどこれ、まだまだローカル色が薄いですねもっとすごいシードルありますよ」とイギリスに二年間いたことのある小林先生。
さあ最初に頼んだのは、その比較的わかりやすかったマメとハムのスープ。
なんでかっていうと、こっちではどうやらスープは日本のさっぱりしたものではなくて、ガツンとくる旨いやつが多いぞ、という直感。これがド真ん中に来た!
旨いい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
久しぶりに行間突き破る大ヒット!これは心の底から美味しい! 丁寧に炒めたソフリットにエンドウマメかソラマメを加え、そこに生ハムのはしっこや骨からとったストックで煮込んで、最後にミキサーをかけたのかな。トッピングは豚の皮をカリカリに揚げたやつだと思う。これが絶品級の美味しさですよ、ええ。
この味付けをみるにつけ、よくいわれる「イギリス料理には味がしない」という感じは全くない。ビシッと決まって豊かな味である。一人一皿ずつとったのだけれども、これは大正解でありました。
そして、この店の名物のひとつでもある、牛の骨髄のロースト。
このメニュー、僕は高校生の頃、地元の図書館のグルメ系本コーナーにあった、映画評論家の荻昌弘さんの食べ歩きコラムの本を愛読していて、そこに出てきたのである。骨髄?どんな味がするんだろう、、、そんなの食べに連れて行ってくれとも言えず、僕は仲良くしていた近所の肉屋のおじちゃんに「牛の足の骨を取り寄せてくれ」とお願いしたのだ。おじちゃん、一週間後に袋一杯の骨をくれた。けれどもその骨が関節部分のもので、随が入ってないのだ!あーあー、これどうやっても無理だわ、と落胆したことをよーく覚えている。
その後、BSE問題もあって国内では骨髄を食べることができにくくなった。とはいってもこれまで数回食べているけれども、そんなにグググッと来るほどの旨さだと思ったことはない。
しかしこの店はきっと旨いだろうとおもったのだ。そしてその期待に違わず、トロトロに溶け出る濃厚な脂を味わうことができる、実に脂ギッシュ下町ックな味わい! 森下で食べる味噌煮込みのごとき風情なのである!
こーやってほじくってパンに載せて食べます。 これ自体は脂なので、味は鈍く重い。だから塩をバリバリかけてしょっぱくして食べるのが吉なのである。
いやー嬉しい。
あと、メニューを眺めていてどうしてもわからないのが「Middle White」。ミドルホワイト!?身体の中間にある白い内臓、つまり小腸ってことか!?きっと小腸をカリッと焼いたやつだななとど邪推。もちろん検索してもそんな言葉は出てこない。
仕方が無いのでサービスの人に訊くと「ん、豚だよ!」という。ここで「ああああああっ」と気がついた!
ミドルホワイトって、豚の中ヨークシャーのことじゃんかよ!
そう養豚の世界では、3大品種というのがあって、ランドレース(L)と大ヨークシャー(W)、デュロック(D)というのがそれだ。この三つを掛け合わせたのがLWDという、よくある三元交配豚。この中の大ヨークシャーというのがその名の通りイギリス生まれの豚なのだが、国際的にはヨークシャーといわず「ラージホワイト」という。でっかい白豚ってことか。
で、ラージがあるならミドルもあるわけで、中ヨークシャーという品種がある。日本でも昭和の中頃までは育てられていたが、産肉性が悪く、いまでは幻となった品種だ。現在も中ヨークを出すところはあるが、純粋種としてではなく、LやDと掛け合わせて身体を大きくした雑種をだすところがほとんどである、愛媛県大洲市の甘とろ豚がそれ。
しかし、このメニューでミドルホワイトと書いてるってコトは、純粋種だろ!しかもイギリスの本場だもんね!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
しかも皮付きじゃないか!
日本では一部でしか得ることができない皮付きロースである、これを皮目カリッカリに焼き上げたものだ。付け合わせが、これまたヨーロッパ人がなぜか使うフダンソウ。日本では絶対的に受けない野菜である(笑)
みてください、レア好きの日本ではありえないがちがちな火入れ(笑)でもこれが質実剛健で旨いんです。皮のガリッとした食感、適度にこっくりした脂の重さと香り、そして赤身部分の繊維の細やかさ。これぞ中ヨークである。ロース芯の小ささからも、おそらくイギリスにおいてさえも経済性の悪い豚とみられているだろうに、やはりいい店はこういう豚を明示的に使うのである。感動!
もっともっとディープな料理もたべたかったのだけれども、もう10時半を廻っていたし、移動の連続で疲れもたまっていたので、これで切り上げることに。でもこの店にはぜひ再訪したいと思う。
美味しかった!