このブログではあまり「美味しくない」というものは載せてこなかったけれども(皆無ではないけど)、これはちょっと看過できないので、書いておく。
写真はファミリーレストラン大手のデニーズで食べることができる「ドライエージングビーフ 牛みすじステーキ」1980円だ。こちらのデニーズ公式Webサイトで、ドライエージングビーフについていろいろと解説をしている。
ドライエージングビーフ関係者の間でも「どこが入れた肉?」「どこが熟成してるの?」と噂されているのだけれども、まずは食べようということで、とある熟成業者と一緒に食べに行った。食べた。1980円は高い授業料だと思った。
ごめんね、美味しくないです。
典型的な、真空パックで船便で入ってきた輸入肉を、日本国内でパックを剥いてしばし冷蔵庫で熟成させたような味である。まあ、米国産アンガスビーフのミスジを使用と公式Webに書いている時点でそれはよくわかるのだが、、、公式Webに熟成庫内の写真が二枚あるが、これは日本じゃないのではないかな。米国の業者さんの熟成庫じゃないか、と推測する。ミスジは写真に写っているロースに近接していないから、写真とは無関係だ。
食べてみたが、NYスタイルのドライエージングビーフに特有の香りと柔らかさがない。確かに柔らかくなってはいるが、最初からドライエージングをしたものと比べると細胞破断時の噛み心地に雲泥の差がある。
NYで一流のドライエージング熟成業者は、真空パックをした肉(ボックスミートと呼ばれる)をエージングすることはほとんどない。というのは、肉の中には自己消化酵素が含まれていて、これが肉のタンパク質を分解して柔らかくする。真空パックはその酵素が含まれる体液を、肉の外に吸い出してしまうのだ。真空の開封時に出てくるドリップ液の中にそれらが含まれている。従って、真空パックを取り去って熟成をかけようとしても不十分なのである。
ただ、アメリカでも一流でない業者はやっている。実際、足を運んで熟成担当者に話を聴いたあるスーパーではCABグレードのボックスミートを剥いて熟成させて商品として出していた。
「匂いを嗅いでみろ」といわれ、鼻を近づけたけど、、、うーん、ダメだなこりゃという感じだった。
また、この肉はコスト上、船便で来ているものと思われる。10日以上はかかるので、真空パック内でのウェットエージングが進んでしまっているわけだ。それを剥いてさらに熟成をかけようとしても、「半分ドライエージングビーフ」とでも言うべきものになってしまっているはずだ。
これは推測じゃあない。実際に、友人のエージング技師がすでに何度もUSやオージーのボックスミートを、国内で追熟させることでなんとか美味しいものにならないかと試しているし、すでにそうしたやりかたで熟成したものを販売してもいる。そして、すでに飲食店でそのスタイルの肉を「ドライエージングビーフ」といって販売している店も多々ある。しかし、残念ながら「これはとても美味しいドライエージングビーフ!」と思ったことは一度もない。
たしかに通常のウェットエージングに比べると少しは柔らかさのアドバンテージがあるし、風味も若干は増している、かな、という印象。ただし、残念ながら完全に肉の内部の水分が抜けきっていないためか、その水分に雑菌が繁殖するのか、心地よくない風味を感じる。
これをドライエージングって称するのはなあ、、、IYグループがそういうことやっちゃうと、あまりよくないんじゃないかな、と思ってしまう。
残念なメニューでした。ご馳走様でした。