やまけんの出張食い倒れ日記

熊本の地域食材を愛する宮本けんしんシェフの心を味わった「リストランテ・ミヤモト」訪問!

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噂には聴いていたのだ。熊本に、とにかく地元のよい食材をと奔走しているイタリアンのシェフがいるということ、そして阿蘇の自然が世界農業遺産として認定された原動力となった人であるということ。その人である宮本けんしんシェフに、ようやく会うことができた。

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熊本市のバスの発着点である交通センターのすぐ近く、リストランテ・ミヤモトがある。席数32席、大店というわけではない、落ち着いた店構え。メインホールはどっしりとしたイタリアの雰囲気だ。

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とにかく熊本をうろちょろするようになって、「けんしんさんには会った?」と聴かれること多し。いま、全国でその地の食材を使うスペシャリスト的なシェフがいるが、熊本とりわけ阿蘇ではこのけんしんシェフの名が上がることが多いわけだ。

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この日、僕の大学の後輩であり、南阿蘇で農業を営む大津えりちゃんと会っていたのだが、ちょっと壮大な頼み事をしたので、お礼に「じゃあご飯食べよう。あっそれなら宮本けんしんさんのところに行きたい!」と思い立って連絡。実はけんしんさん、facebookで友達申請してくれていたので直接メッセージを打ったのだ。ランチコースにプラスアルファでいろいろ食べさせてくれませんか、と。

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宮本けんしんシェフと大津えり。

実は今回、阿蘇が世界農業遺産として認定を受けたというめでたい出来事があったのだが、この大津えりちゃんもプレゼンなどに参加した、原動力の一人だ。「けんしんさんは彼氏みたいなもんですよ」とカラカラカラと笑う大津えり(笑)

うーん、お似合いです。

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「やまけんさんがいらっしゃるっていうことで、用意しましたよ阿蘇は産山村の井のぶゆきさんのくまもとあか牛です!」

おおおっ

いまや引っ張りだこで入手困難になってしまった、井さんの牛!

配合飼料を一切与えず、粗飼料多給で育てる井さんのくまもとあか牛は、これまでも赤肉サミットに出ていただき、大好評を得た。リストランテ・ミヤモトではこれまでもあか牛をずーっと使ってきてくれた、にわかではない筋金入りのレストランなのだ。

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大津えりちゃんは僕の3期後輩になるので、SFCの修士までいた僕とはかぶってはいる。

「学校で畑つくってたやまけんさんていう人がいるってことは識ってましたよ〜。でもその頃は自分が農業やるとは思ってなくて(笑)」

彼女は在学中から一緒だったいまの夫君とともに卒業後、ドイツに渡り、自然環境のアセスメントの勉強をしたり、それこそ農場を廻って研修をしたり、通訳として働いたりしていたそうだ。帰国後、東京で夫婦揃ってその分野で働くが、やはり都市生活になじめず、夫君の田舎でもある南阿蘇に就農したという。当初は周りからも認めてもらえなかったようだが、いまや集落のホープ的存在になっているようだ。

今年の新米を送ってもらったのだけれども、ウマイの一言。

「阿蘇は、水が綺麗で日中と夜間の寒暖差が大きいから、美味しいお米が出来るんです!」

との言、本当です。

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熊本野菜のテリーヌ、おいしうございます。周りを巻いているのは白菜です(笑)なんといっても見目麗しい!

そのけんしんシェフの色彩感覚が発揮された美しい一皿がこちら!

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くまもとあか牛のラグーを、熊本産小麦で打ったパッパルデッレで。下には熊本産ゴボウのソースが配されている。上にはらはらとちらされたオクラの花びらが美しい。いっしょにかかっているチーズ、たしかこれうらけん工房のものだったかな。とにかく九州づくしな一皿!

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これが文句なしの美味しさ。品種名を失念してしまったけれども、九州の粉は生パスタによく合うのね!シクッシクッと優しくも食感が活きている。

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そのパスタにゼラチン質を含んでほろほろに溶け出したあか牛のラグーがベストマッチ!もしパスタランチでこんなゴージャスなのが出てきたら、おいおいおい大丈夫?と思ってしまう。熊本の人はラッキーだね、、、

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けんしんシェフは75年生まれ。もともとご両親も熊本でレストランを営んでおられたそうだ。彼自身はイタリアで有名店何店かで修行を積み、帰国してこの店を開いたという。

しかしイタリアでは、郷土の特徴的なパワフルな食材があったのに、熊本に帰ってきてから手に入れようとしても「普通のピーマンとか、普通のニンジンとか、スーパーで売られているものしか手に入らない。これじゃダメだと思って、生産者まわりをするようになったんです。」

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そこからのけんしんシェフの奮闘は、いろいろと検索してもらえば情報がバンバン出てくるはずだ。いまや、熊本食材使いとしてトップクラスにいるのである。

さて、肉が焼き上がった!

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「いろんな焼き技術がありますけど、うちでは肉を焼くとき、厚いグリルパンを使って焼いています。当初はあか牛を出すとお客様に『なんであか牛なんか出すんだ!』と怒られたこともありました。黒毛和牛の霜降りがご馳走で、接待で使うときにはそういうのが出ないとという意識があったんだと思います。でも、最近ではあか牛のこの味がいいといって下さるお客様が多くなってきました。ようやくですよ!」

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上の写真手前に盛られた緑色の添え物、これ、柚子胡椒に見えるけれどもさにあらず、ゆずのモスタルダだ!

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このゆずモスタルダをあか牛にたっぷり載せていただくのが、、、

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エライ旨い!

酸味、塩味、甘みとピリッと効いた辛みがあか牛の優しい肉質を引き締める。

「はい、くまもとあか牛って、やまけんさんが飼ってる短角牛とはまた違って、すごく優しい風味なんですね。ですから料理もそれを前提に組んでいく必要があります。」

さて、もっと食いたいな、パスタ追加お願いしようかなと思っていたら、けんしんシェフがいたずらっ子のような顔をして言う。

「えー、実はやまけんさんにぜひ、僕の修行したイタリアならではの肉料理を食べて欲しくて、準備してあるんです。いま流行しているギリギリの火入れとは全然対極で、火を入れまくった肉料理なんですけど、、、食べていただけますか?」

うおおおおおおおおおおおおおおおおおお 食べないわけないじゃん!

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そして出てきたのがこれ!なんとも焼きすぎた感ある肉塊だが、焼いたというよりも、豚の角煮のように煮込んだ感がある。

これをみてピンと来た。以前、「無二路」「アルキメーデ」で腕をふるったシチリア料理の重シェフがよくつくってくれたローストの技法。野菜をバットに敷き、上にも野菜を乗せて、水分を肉に吸わせるようにしながらローストする。結果、バサバサしない、まるで煮込んだかのような仕上がりになるのだが、煮汁に旨みが逃げ出すようなことがないので、濃厚な仕上がりになるのだ。

「それでしょ?」

「いやぁ、ちょっと違うんです。ウンブリア州の伝統的な手法で、肉の上にラルドと香草を乗せて焼くんです。そうすると、プルップルの仕上がりになるんですよ」

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なんと!本当にプルップルである!これ、中部イタリアの技法だというのだが、ラルドで水分賀蒸発しないようにシーリングするということなのだろう。なるほどなるほど、肉焼きの道はほんとうに多様なのだ、、、

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この一品がねぇ、実に素晴らしい。ほろほろに肉の線維がほどけるような火入れがされているのに、肉の持ち味と水分はまったく失われていないのだ。

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ああ、至福。しかしこの慶び、まだ終わらないのである!

次回、この幸せ空間に元気な闖入者が現る!