ヒディブ・カスルで絶品の朝食をいただいた後に向かったのは、ボスポラス海峡を臨む、というより本当に海の真横に店を構える「ラージベルト」だ。
「ここはね、トルコの政治家や芸能人とか、そう言う人たちがよく来るレストランです。ボスポラスクルーズもできる、ゴージャスな店ですね」
というんだけど、クルーズが出来るってのはどういうことなんだろう?
と思っているうちに、海の真横の街道筋に降り立った。
そして僕らは、なぜこの店にそんなゴージャスな人たちが足を運ぶのか、よく理解することになるのだ。
”LACIVERT”と書いて、ラージベルト。日本人にはわかりやすい読み方だ。ご覧の通り、宇美に隣接し真上には海峡の向こう岸に渡る鉄橋が。絶景とはこのことである。
下のエントランスを見ると、すでにシェフ達が僕らを待ち構えてくれていた。
右がシェフのフセイン、左は店の支配人さんだ。
本当にこのレストラン、ロケーションとしつらえが素晴らしい!料理の前に、ひととおりこの雰囲気をご覧下され。
セラーに並ぶのはほとんどがトルコワイン。
「いいね!やっぱりトルコに来たんだから、トルコのブドウのワインが呑みたいからさ」
と伝えると、支配人さんが「まったくそうなんですよ!」と握手。
と、ここでまたもやイスマイル・アイ登場!
なんだよイスマイル、ぷちぷちと顔を出すなぁ!
「だって俺が君たちを迎える責任者なんだもん。いま仕事の合間だよ」
とのこと。イスマイル、来週東京にやってきます。
お店からのご厚意で、極上のトルコワインを出していただく。昼なんですけど、、、(笑)もはやフォアグラ状態です。
ここまで、イズミルでは伝統的&庶民的なトルコ地中海方面の料理を堪能し、イスタンブールに入ってからはわりと現代的テイストが入っている料理もいただいてきたのだけれども、このラージベルトはまさにコンテンポラリー、しかもガストロノミーを徹底的に意識した料理が出てきたので、ビックリした!
前菜のキノコ、そして魚介のチョルバをいただいて、シェフのフセインが目指している方向性がわかった。
伝統的な技術をベースに持ちながら、フランスやイタリア、スペインなどのガストロノミー最先端を追いかけ、トルコ料理でそれをなしえようとしているのだ。
例えばチョルバの味、洗練されていて濃厚で、これぞレストランという深い風味。けれども魚が新鮮なせいか、雑味がない。良い部分のみ使ってスープを詰めているからだろう。
彼の話は「お前はいかなる美食を好むのか!?」に集約されていた。
「俺はね、年に数回はフランスやスペインに行って、三つ星シェフ達と交流を持つんだ。彼らのクリエイティブな精神はものすごいよ!頼んで厨房で少しスタージュさせてもらったりするんだよ。日本にはどんな面白い美食があるんだい!?」
僕は、「龍吟」山本征治がどんな風に日本料理の世界を推し進めようとしているか、などをいろいろ話したのだが、実に興味深そうに耳を傾けてくれた。
「そのリュウギンは、研修を受け入れてくれるんだろうか?ぜひ行ってみたい!」
マ・ジ?
前菜のプレートの飾り方も、やはりイズミールの定食屋のそれとは違う。
あのシャクシャクとした食感の海藻にエビやピーマン、パセリなどをあしらって。
加熱してくったりしたパプリカを、まるでイカのようにぽってり巻いた中には、やはりイカ肉。
トルコで愛される白身魚(名前失念!)とフェンネルの和え物。美味!
そして、これがトルコでは非常によく出てくる料理なのだけども、ハガツオをソミュール液につけて、燻製にしたり低温調理にしたもの。
何回も食べたけど、フセインのものが一番旨かった!
シーサイドレストランという立地によく合う、これはタコかな。こちらではタコをよく食べるようです。
次のプレートも、さまざまな料理がちょこっとずつ(とは言っても、総量ではけっこうあるぜ!)載ってくる。
どうやらデグスタシオン形式で持ってきてくれているみたいだ。
モリーユにポルチーニのリゾットかい、と思ったら、これらのキノコはトルコでも穫れるそうだ。やはりここはヨーロッパでもあるのだなぁ。
いや、どれもこれも美味しい。品数が多いだけではなくて、どれもきちんと完成された味、必然性のある料理ばかりである。
午後の2時にもなると、強烈な西日が入ってきてご覧の通りの光線状態となる。暑い!店内で日焼けしちゃった。けど、昼間のラージベルトは爽快、映画のグランブルーに出てきそうな佇まいです。
これはなんだったろう、とても印象的な果実をコンポートにしたもの。そして、トルコのスイーツの多くにかかるこの緑色の粉末は、生のピスタチオを粉砕したものだ。これが実に香りが良い。
もひとつ、僕の印象にのこったのが、このジュースだ。
三種のそれぞれが、トルコに昔から伝わる、山野草などのエキスでつくるものらしい。
もちろん、手造りです。フセインの話し方からすると、トルコ料理にとってとても大事な存在であるらしい。くすんだいろあいに、薬草っぽい味なのかと思いつつすすりこむが、実にフレッシュで甘く、そしてやわらかな味わい。手前のダークな色は紫蘇を想起させるが、まさにそんな風味。緑色は草っぽくみえるがハーブのすりつぶしだろうか、青さをそれほど感じない。上右は
干し杏のような風味のこってりしたジュースだ。
ということで、長い長い朝飯の直後の、なが〜い昼飯でした(笑)もう何もはいらんよ!
それにしてもフセイン、向上心の塊である。なんと笑っちゃうことにこの人、俺と同い年の42歳! マジかよぉ!!!
実はそうこうするうちにもう陽が落ちて、ディナータイム直前の仕込みという時間。
「じゃあ、ボスポラスクルーズに出かけよう!」
と言い出す。なぬ?と思ったらマジでさっきの船着き場に船がやってきて、みんなで乗り込む!
なんと、店に来る際にこの対岸の船着き場から送迎してくれるのだという。
これなら、わざわざ船に乗っていった方が気分がいいね!
もしあなたがイスタンブールで大切な人と、ロマンチックでゴージャスなひとときを送りたいというならば、ラージベルトをお薦めする。ちょっとお高めですよ、けどその分、本当にリッチな楽しみをもたらしてくれるはずだ。
フセイン、どうもありがとう!