撮影:オリンパスOM-D ZD35mmf3.5マクロ、ZD25mmf2.8
静岡県の富士宮市にて、クライアントを連れて会合。無事にまとまって、よかったよかった。夕食をご一緒しましょうと言われていたのだが、せっかく富士宮に来ているのでここで食べていった方がいいだろうなと気を回す。とはいっても、富士宮焼きそばを食べるわけにはいかないのだ、、、というのも、そのクライアントさんは、お立場上、365日ガストロノミーを食べ続けている方なのだ!
うーんそうかあ、そうしたらやっぱりアレだな、ビオファーム松木の松木さんが満を持して出したレストラン・ビオスに連れて行くか、、、と思いつつ逡巡する。というのは、そのクライアントさん、素材の味を単に活かしただけではダメ、そこにエスプリと世界観がなければいやだねという方なのだ。さて果たしてビオスはお気にいるだろうか!
松木さんに電話してみると、富士宮が誇る食材、例えばくぬぎさんのニジマスがあるという。ああ、それなら大丈夫だな、アレは絶対に旨い!よしっと思い提案する。
「ああ、ビオスにはぜひ行きたいと思っていたんですよ!せっかく来たんですからぜひそうしましょう。じゃあ、今晩一緒にと誘っていた女性の友人にも、富士宮においでって言っときます」
えっ お連れが居らっしゃったんですか?
実はそれがすごいお連れさんで、、、女優の大河内志保さんだそうな。うーん、頭痛くなってきた、、、すべて任せまっせ、松木さん!
タイユバン・ロブションのメートルドテルという立場を捨てて有機農業の世界へ入った松木さん。「なにかもう、いやんなっちゃったんですよね。飲食の世界はもうやめだ、と思って農業の道に入ったんですが、結局店を出しちゃいました(笑)」
というが、彼の選んだ有機農業グループは超・体育会系で識られる集団。それこそぶん殴られながら徹底的に有機農業の基礎を教わったそうだ。でも、もともと洋野菜を目にする職場にいたこともあり、いまでは多品種をレストランなどに送り出す立派な有機農家さんであられる。
松木さんのワインのサーブ姿でまずはお客様一同、ただならぬ力を感じてもらえたみたいだ。
この日サーブしてもらったのはほとんどが国産のワイン。ワインを呑むと体調が落ちるのであまり得意じゃないんだけど、今日はまったくそれがなかった!それはきっと国産だからですよ、と隣のワインエキスパートのYさんが仰る。そうなのかもしれない、、、
徐々に、コースが始まっていきます。
メニューには素材の名前だけが書いてあって、料理名は書いていない。10品のデグスタシオン形式だ。うん、これはディナーにふさわしい陣容だね!もちろん全て静岡県産、ほとんどが富士宮市の周辺産だ!
白ネギと青ネギの前菜からして、いきなりクライアントさんが感嘆の声を上げる。
「こういう出し方をしてくれると嬉しいよね!一気に世界に没入できますよ!」
味はシンプルに白い部分と青い部分の葱を、おそらく野菜のブイヨンで詰めたものをパテにしているんだけど、まだ端境期にはいらない葱のしっかりした細胞感ととろみの部分のコントラストを味わうことができる。
菜の花、これは普通のナバナじゃないですね?と尋ねると、「はい、これは小松菜のナバナですね」と。アブラナ科の葉物野菜をとうだちさせて得ることのできる菜の花は、どれも個性があって美味しい。苦み少なく、風味は濃いナバナが、15ヶ月熟成のネットリ芳香のたつ生ハムにまけず味を主張してくる。パルミジャーノがなくても全然OKですね。
ワインのことはまったくわからないんで、ラベルをみてご判断下さいませ。みなさんご満足でした。
さあて俺的に一番だいすきな、富士宮の養鱒業者さんのなかでも究極の味といわれる、くぬぎさんの3年もののニジマスだ。
軽くスモークして皮目をぱりっと焼いたものに、富士山の伏流水に自生するクレソンを添えて。おれはこのクレソンだけどんぶりに一杯食いたい! 辛みと苦みが少ないのに、あの口の中が清々しくなる香りが十分に弾ける。文句なしです。健全な弾力と旨みをもつニジマスに、よく合うのです。
これはなかなかの変則技。タケノコの間に静岡のエビを挟んで揚げた、タケノコエビカツバーガーといった趣。叩いたエビのつなぎにエビしんじょに使う卵の素のようなものを使っているんだろうか、リッチな味わいだ。
もうひとつ川魚、なんと大イワナだ!イワナ好きなんだよね、独特の匂いがいい。それに、下に敷かれた子カブが、狙い通りの華やかな甘さ、クキッとした食感。染み出すジュース。いうことありません。
そして、、、今日のベストかな!
これ、濃いビスクのようになっているのがヒヨドリの身肉も骨もミックスしたもの。フォアグラ(あ、これは富士宮産じゃないね!)は上にほんの少しあるだけ。
いやーーーー参ったね、これは素晴らしい。ヒヨドリ自体をロースとしたのをバリバリ食べるのもいいんだけど、全ての旨みが解け合った濃厚ビスク。
「ここらへんのヒヨドリはみかんをたっぷり食べてますので、オレンジピールを添えています。」
との言葉通り、ピールとの相性も抜群。油脂分としてのフォアグラはほとんど要らなかったよ松木さん!
これもこの辺の在来芋だという姫神芋のとろろをしいた皿に、カマス。くねくねしたフリットも姫神芋だ。とろろの粘り強く、風味もしっかり立ち上る。美味しいヤマノイモです。フレンチのように見えてお総菜?とほころんでしまう一皿。
メインのお肉は岡村牛。交雑種だとのことだが、赤身のしっかりした味わいで、これでよいのですよ、これがよいのです。それはともかく添えられた小ダイコンがどちらもしっかりとした強い風味で、土の香りとアブラナ科の苦みを添えてくれる。旨いねこれ!
この辺の野菜の味をすべてコントロールできるから、有機農家自身がレストランを経営するのは理にかなっている。ただし、レストランをよく識っている有機農家がこの世に松木さんくらいしかいないので、ビオスの料理はビオしにしか存在しないんだけどね。
デザートにでてきたのは、エスプレッソ風味の大浦ゴボウのペーストをはさんだ、ふんわりティラミスじたて。
中が中空になるまで大きく育てた大浦ゴボウは松木さんの得意技だ。これがまた絶品だった!
もうひとつのデザートは、これも松木さんお得意の果物のようなニンジンと、中晩柑のはるみを使ったムースにアイスクリーム。
ゴボウも人参もその香りがきちんと必然性を持っていました。
ということでコース終了。きがかりだったクライアントさんのお顔は終始、満面の笑み。大河内さんも最後まで大満足していただいていたようで、よかった、、、胸をなで下ろし、松木さんに感謝の一夜だったのでありました。
場所的に行きにくいということはあるけれども、ビオスはやっぱり佳いお店。有機農業で西洋野菜を多品種作付けし、作物の生理とレストランのニーズの双方を理解している松木さん。希有な存在です。これからも頑張って!ご馳走様でした。