高知出張にいってました。東京は代々木に本拠を置く「野菜を食べるカレーCamp」の店内フリーペーパーで「遠足カレー」という企画をやっているのです。
Campの社長である佐藤さんが、僕が選んだ地域・食材に遠足してCamp特製カレーを作る。その一部始終を色鉛筆画家の下田さんがイラストでつづったのをフリーペーパーにする、というもの。一昨年の夏はdancyuのカレー特集の中で、岩手県の被災地へ遠足カレー炊きだしに行くという記事になったので、みた方も多いと思います。
で、初日の午前中、高知龍馬空港についた僕らが向かったのは肉牛の枝肉セリが開催される市場。
みたことない人も多いと思うけど、こんな風に枝肉(肉牛の半頭分)がずらーんとつり下がっているのをみて、セリが開催される。セリの開始前にこのスペースに、免許を持った買参人(ばいさんにん)が来て「こいつがいいなあ」などと品定めをする。
この段階で、日本食肉格付協会の正式な格付員による審査が行われていて、どの枝肉にも等階級を表す情報が付帯している。
もちろん格付だけでよしあしが決まるわけではない。けれども、セリの価格はこの格付によって大きく変わる。セリの価格は枝肉のキロ単価。例えばA3の牛は1500円からセリスタートということになると、だいたい450kg程度の枝肉重量だった場合は1500×450=67.5万円ということになる。これだと農家は大変。
この日、A5の肉は1800円からのスタートだった。ということは、食い込ませて500kg程度の枝重になっていれば90万円。A3とA5の違いは限りなく大きい。だから農家はみな、暮らしていくためにA5を目指すのだ。
この日、上場した個体の中で2本だけA5をとったものがあった。これはそのうちの1本。ほほう誰だろう、と思ったら、ススッと寄ってきた若者がいる。
「お久しぶりッス」
あっ 横山君じゃないか! 彼は四万十市で黒毛和牛を肥育するゆいいつの肉牛農家だ。こちらが彼の牧場のWeb。
彼の牛は黒毛和牛だけれども、脂肪があまりむつこくない(しつこくない)ので、僕も美味しいと思って食べさせてもらった。ちなみに彼のお母さんが、信じられないほど若くて美しい方なのです(笑) 上のWebの「牛舎の紹介」のところで牛に乗ってるのがお母さんね。
ま、それはいい。
セリが開催され、順次値がついていく。セリを開催する市場の担当者がスタート価格を言い、その時に買参人が手に持ってる鉛筆を上に向けていたら、「その価格なら買うぞ」ということ。その鉛筆あげてるのが複数人だった場合、セリ人は価格を上げていく。そうして最後に1本残ったところの価格が販売価格だ。これをせり上げ方式という。
横山君の黒毛和牛はこの日、最も大きな牛(たしか成体で800kg台)だった。そうなると5番で単価が高いのに、重量がかけあわさって、普通のお肉屋さんでは手に余る(高くて多すぎてとても買えない)ことになる。だから、A5の最上級の肉なのに買参人の手は上がらなかった。
「やっぱりなぁ~予想通りの展開や」
とは本人の弁。
売れなかったらどうなる?いや、この市場の開催者は全農高知で、スタート価格は「全農はこの価格で買うけど、それより高い値段つける人、おる?」というセリなのだ。セリ人の手が上がらなかったら全農が引き取り、パーツごとにして販売するので、大丈夫。つまりセリ人がスタート時につけたキロ1800円が横山君の売値と言うことになる。
いま、A4やA5のいわゆる上位等級の肉が売れない。高くなりすぎて誰も買わないと言うことと、そもそも霜降り肉に飽きたという人が多いこともあるだろう。代わりにA3レベルの肉に引き合いが集まっていて、A3までも高くなりつつある。
A5を目指すと、餌代のコストがものすごくかかる。けれども市場のセリ値はそんなことは勘案せず、ただ需給バランスが反映される。つまり今の価格だと農家の手取りは再生産価格に届かない。穀物価格の水準が高止まりしているので餌代は高く、素牛(もとうし)と呼ばれる子牛の購入価格も高いということでコストが今まで以上に高くついているのである。
だから、A3程度の肉を最初から目指し、餌代も安くなるような仕組みを作らなければ、TPPがどうこうでなくとも早晩日本の肉牛生産はダメになっていってしまうだろう。
ちなみにこちらは、A4の格付けとなった土佐あかうしだ。
サシの量はさきの横山君の黒毛和牛にかなわない。その代わり、小ザシと呼ばれる小さくて良質なサシがビッシリと入っている。この肉はたしか1700円台で落札された。
どちらが正義ということではない。ただ、生産農家が2年半以上も苦労しててにかけた牛の肉が、正当な価格で販売されるようになって欲しいものだと思う。