さて続きです。対決シーンについては、かなり端折っていたとはいえ、映像になっていたので省きます。
今回の審査において、僕が個人的に大事だと考えたのは、テーマ食材であるキャベツのセレクトについて。通常のキャベツだけではなく、サヴォイキャベツ(ちりめんキャベツ)、紫キャベツ、芽キャベツの4種があった。これらの特性を活かしてどう美味しく食べさせるか。審議員はそれぞれに得意分野もしくは役割があると思うが、僕についていえば、それはやっぱり素材をどう評価するかという部分だろうと思った。
始まってすぐに山田シェフはサヴォイキャベツを剥き、クラテッロを切ったものと一緒に圧力釜で煮始めた。サヴォイは普通のキャベツと同じと思ってたら大違いで、とにかく火が通って軟らかくなるのに時間がかかる。サヴォイの下ごしらえに時間をかけていたので、安心して観ていられた。確かここでコメントを求められたので(放送では流れなかったが)、「山田さんさすがにサヴォイから始めてますね」というようなことを言った覚えがある。
対して、脇屋シェフの料理風景を見ていると、圧倒的に通常の寒玉キャベツを使用していた。寒玉とは秋冬に栽培できる最も一般的な品種群で、この国のキャベツのいちばんオーソドックスなものだ。今回は北海道で、雪室のような効果のあるアイスシェルターで冷温貯蔵していたものが来ていると言うことだった。
ご存じの人も多いだろうが、ニンジンやキャベツ、ジャガイモといった野菜は、氷温に近づくと「凍らないぞ!」と防御をする。体内のエネルギーを糖に変えて、凍りにくくするのだ。だからその状態の作物を食べると、あきらかに甘い。通常でも甘い寒玉キャベツがアイスシェルターで適切に管理されていれば、ばっちり甘いだろう。
キャベツをはじめとするアブラナ科植物は、地中海にそのルーツを持つものが多い。サヴォイキャベツもヨーロッパ中心で、中国にはみられない。だから脇屋さんの料理にはサヴォイが重要な役割を果たすものはそれほどなかったわけだ。
結果的に僕の採点では、これが両人の評価を決定づけることになる。
脇屋さんの料理の後半、土鍋に寒玉をまるごと入れて塩竃で包み、香辛料を散らして蒸し焼きにして、最後にフランベするシーンがあった。派手なパフォーマンスだが、これは旨いだろうな、と期待した。この次点では、脇屋さんの料理旨そうだぜという感覚。だって日本人はサヴォイよりも普通キャベツの方が好きだからね!
そうこうしているうちに時間終了、少し休憩。料理は温め直しをして、審議員に振るまわれることになる。いよいよ試食と審議だ。
試食と審議も、映像通り。あのまんま一発撮りである。食べ方汚いって言われないように苦労しました(笑)
■山田シェフ
1.バーニャカウダ
さて最初の一品はオーソドックスにバーニャカウダだ。寒玉キャベツを数片、ちぎったのをソースにつけて食べる。バーニャカウダソースが意外にサラサラしていて、淡い味わいだ。ここでいきなり衝撃を受けてしまった!と、いうのも料理の衝撃ではない。寒玉キャベツが、まったく美味しくないのだ!保存に失敗したのだろうか、色素が抜けてしらっちゃけた、水分を失ったぺらぺらの味。それでも甘さがあればよかったけど、糖も抜けている!ナンダコレハ!?
貯蔵管理のせいか?と思ったけれども、もしかすると番組スタッフが大事をとって早めに取り寄せてしまったのかもしれない。先の雪室貯蔵の野菜は、一反常温に戻すと急速に糖度を失っていく。凍る危険が去ったから、糖をまたデンプンなどに戻してしまうのだ。その辺は定かでないけれども、とにかくこの寒玉キャベツはいかんだろう!
さあそしてお次はサヴォイキャベツを使った料理。
2.ロールキャベツ ヒロソフィー
二つのロールキャベツのうち、左側のは子豚を焼いたものが巻かれていた。仕上げに脇屋さんからわけてもらった海鮮醤を使っていたものだ。オーブンでじっくり火を入れたかったようだけども、時間が無い!ということでフライパンでグワッと火入れをしてから仕上げていた。
この子豚のロールキャベツの皮となっていたサヴォイだが、あれほど早めに下ごしらえをしていたのにも関わらず、青々とした色が残っている。手にとってかぶりつくと、うーん、ゴワッと感が残っている。サヴォイの生煮えは、ゴムのような食感なのだ。しかも通常のキャベツと違ってさわやかな甘みがあまりないので、それ自体を美味しく愉しむことはちょっと難しい。ということで、ここでは「うん、子豚の皮目のクニュクニュが美味しいですね」と、具だけを褒めました。
右側のロールは、リー・ド・ヴォーとテナガエビが入ったシャンパンソース。映像で観ても、皮のサヴォイキャベツは先の子豚のロールにくらべて煮込まれた色になっている。口に入れるとそれでもまだ固さが少し残っているのだが、あきらかに子豚のサヴォイの食感とは違っている。ここで映像でも使われた僕のコメントが出てくる。
「あれだけ時間をとって煮込んでも、サヴォイはまだ固いですね。この食感は、意図したものですか?」
どうも意地悪な質問をしたように見えていると思うけれども、この真意はこういうことだ。
サヴォイは煮込まなければ軟らかくならないということは山田さんのキャリアでわからないはずがない。ということは、意図的に最初は堅め、次は少し軟らかく、そして今後の皿ではさらに煮込まれたものが出てくるということなのかもしれない。それを狙っているなら、そこは評価すべきだと思ったからこの質問をしたのだ。
ちなみに、具材がテナガエビとリー・ド・ヴォーという柔らかなものだったが、ほんの少しだけ皮のキャベツのほうが堅めだった。もう少し具材に近い食感まで煮込まれていれば、エクセレントといえるものになったと思う。
3.キャベツのスパゲティ 白子ソース
さてこの一品に関して言えばもう言うことはない。審査員一同、あまりに美味しくて笑っちゃった!僕は全部食べてしまった。白子と酒の濃厚な旨さと、ニンニクの刺激に柿の種のフレークという飛び道具。そしてここでようやくキャベツ自身の美味しさを味わえる柔らかなものが出てきた。さきのロールよりあきらかに料理に寄り添う火入れがなされている。キャベツが主役というより、準主役かなぁと感じたけれども、そんなこたぁどうでもいい!と言えてしまうくらいのマッチングであり、料理の美味しさだった。
4.キャベツのトロトロ煮込みトリュフ風味 ラビオローネをのせて
この料理はとにかくギミック満載で愉しめた!トリュフをかき分け、ラビオローネを割って、中の黄身をトロリと流出させる。コンソメの旨みとトリュフの香り、黄身の脂っけが重層的に絡む。
が、この料理はその上の部分を食べ終わった頃にクライマックスになる。底の方にはトロトロのキャベツが仕込まれていて、しかも底部のみアルコールランプで火が当たって、熱々の状態になっているのだ。みんなこのキャベツの層にあたってからハタと趣向に気づいたようだった。キャベツが美味しい、、、コンソメの旨さにトリュフの香りが溶け込み、さらに卵のねとねとが絡んでコクが出る。そして最後、キャベツの甘みがドーンと前面に出てくる。しかも、食べていて汗をかくほどに熱々だ!これはお見事な料理だった。
5.キャベツ金時のかき氷
そんで、熱々にほてった身体を冷やすかのごとく出てきたこのキャベツ金時がわらっちゃった。もうほんとにキャベツのエキスそのもの。ツンとイソチオシアネートの刺激が鼻に昇る。
僕の後輩が番組をみながらツイッターで「あのかき氷、ホントに美味しかったの!?」と書いていたが、あれを単体で食べたらそりゃ美味しくはないよ。けど、この前に身体が火照るような熱い料理をたべて、暖房もガンガン効いてるスタジオで、清涼なかき氷が出てきたときのことを考えてみて欲しい。
しかも、これは山田シェフが狙っていたのか、青汁的な味が、冷たいからか、むしろ抹茶のような味に錯覚してしまうのだ。キャベツ汁なんだけど、これはアリだ!だいいち、ワクワクした!
というのが、山田シェフの料理の印象である。
正直な話、最初のバーニャカウダはアミューズとしての役割は果たしているけど、感動するような旨さじゃない。二品目のロールキャベツも、単体で考えると、煮込みが足りないゴワゴワしたサヴォイに興ざめしてしまった。
けれども、その後に出てきたパスタとラビオローネでは、トロトロ感満載の、キャベツの旨みが前面に出てきた皿を愉しむことが出来た。ということは、キャベツの食感を彼はコントロールしていたということになる。そういう意図があってあの固さを出したのならば、それはアリだ、というのが僕の評価である。コースとして非常に愉しめたのだ。
つづいてすぐに脇屋シェフの部を書きたいけれども、これ思ったよりも大変な作業だ。ゴメン、今日はもう無理。明日書きます、、、