2012年10月11日 from
これ、なんだろう?ハンバーグ?お焼き? いいえ、これ全部冷や汁みそです。これがこう↓なるのです。
「冷や汁」と書いて宮崎では「ひやしる」と読むのが主流。一部地域や、一定以上のご年齢の方は「ひやしゅる」と発音する。「ひやじる」と読む人は少数派である。
この冷や汁は宮崎県、とくに宮崎市民にとってはもっとも次世代に伝えたい郷土食であることは間違いない。それは今年度、僕が宮崎へ来ている事業の中で調査をして得た結論だ。
しかしこの冷や汁を巡っては、どの宮崎市民も口を揃えて「冷や汁なんかの調査をしてなんになるの!?」という。「こんな普通のもの、調べるまでもないでしょう」というわけだ。
しかしその一方で、彼らは冷や汁についてあまりよくわかっていない。というのは、宮崎では冷や汁とは自分の家で食べるものであって、他の家や店の冷や汁を食べる機会はメッタにないのが普通なのだ。
だから、自分か家族が作る冷や汁の味がスタンダードで、他人の家の冷や汁の味はよくわからない。
「昔、隣の家で遊んで、ごはんの時間になって冷や汁が出て、ミニトマトが入っていてビックリした!」
というように、具材に何が入っているかということだけで、いろんな流儀があるのだ。
実はいま冷や汁のガイドブックを製作している。今年度中に印刷するので、ぜひ楽しみにしていてほしい。冒頭の三種の冷や汁みそは、この冊子で採り上げる三人の冷や汁名人のオリジナルみそ。いただいてきて、事務所で食べ比べしたのだ。
一般に冷や汁みそは、ゴマと魚を焼いたもの、または煮干しをすり鉢で擦り、味噌を混ぜてさらに擦り、滑らかになったのをすり鉢の内側に伸ばしてひっくり返し、炭火かコンロの火であぶって焼き目をつける(オーブンなどでもよい)。これを保存して食べる時に水か出汁で溶き、具材をいれてはい完成というものだ。
写真はとある名人のもので、魚は鰹節粉、あかっぽい自家製味噌。
こちらの名人の味噌は色からわかるように、焼いていない。魚は煮干しをカラカラに煎ってすりつぶしたもの。味噌は自家製麦味噌で塩分濃いめ。
こちらは比較的若手のテーブルコーディネーターさんのご家庭味噌。魚はカツオ生節、味噌は合わせ味噌。小さくまとめて焼くことで、焼き目をこんがりしっかりといれている。前の二人は水で溶くが、最後の人は出汁で溶く。この辺も色々と流儀がある。
冷や汁の具材は、欠かせないのはキュウリに豆腐、大葉を刻んだもの。あとはご家庭によっていろいろで、みょうがやネギ、焼きなす、ピーナッツを砕いたものなど、など、など。この辺で大きく個性がでてきて、「えっ そんなのいれてるの!?」という反応を楽しむことができる。
冷や汁味噌を溶くのは結構大変。溶けにくいのでお湯で溶くという人が多いそうだ。俺、水でやってたわ、、、(汗)
十分に溶けたら、あとは具材を入れていくだけ、、、なのだが、具材を入れたての味と、具材に塩分がからみ、しっとりなじんでからの味も違う。家々でその最適タイミングも違うんだろうなぁ。
テーブルコーディネーターの方には、現代的な、若い人が好みそうなものをとリクエストをした。そうしたところ、豆腐ではなくカッテージチーズ、キュウリではなく塩もみしたズッキーニ、そしてトマトの入ったニューウェーブスタイルが出てきた!
冷や汁をかけるごはんもバリエーションがある。例えばニューウェーブ冷や汁の場合、キュウリではないのでざくざくした食感を補うため、タクワンを刻んだものをごはんに混ぜておくというレシピ。
一方、ベテランのレシピではなんと芋ごはん!
食べ方にはそれほど違いがなく、ごはんにかけて食べるだけ。ただし!ごはんの温度、そして冷や汁の温度は個人差がある。もともとは夏の暑い日、冷えたごはんに冷えた冷や汁をかけて食べるのが正道だという話もあるが、あたたかいごはんに書ける人、逆に汁を温かくする人もいる。千差万別。
なお、冷や汁にかかせないものといえばたくあん漬けだ。多くの人がそう答えている。
こうしてできた三種の冷や汁を、事務所内で職員全員あつまって食べ比べ。
みな「これ、うちの味とぜんぜん違う!」とビックリしながらすすり込む。
魚に煮干しを使うか、カツオかという違いでこんなにも味が違う!全く別の料理のようである。
宮崎県民が、産まれたときから識っていて、そしてよくわかっていない食べ物。それが冷や汁だ。僕のような県外の人間から観て一番面白い郷土食なのである。冊子ができるのが待ち遠しい!
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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