■撮影:iPad
日曜日だけは研究も仕事も忘れてぐっすり寝て、札幌を散策した。この日は北海道マラソンなので、市内は激混みするかと思っていたが、午前中で終わるとのことだったので昼飯になにか旨いものをと。以前も行った「Sagra」のランチを予約しようかと思ったら、もう満杯とのこと。
じゃあ、あそこだな…と心に決めたのが、北海道でドライエージングビーフに取り組んでいる43°ステーキハウスだ。
この店のことはオープン前から耳にしていた。オーナーはBocca。かの「びっくりドンキー」を運営している会社だ。実は一昨年あたり、僕が仲良くしている短角和牛の産地から、ハンバーグ用に相当数の牛を飼ってくれたのだ(もちろんサーロインとかの高級部位は外した後の個体だが)。実はびっくりドンキーには行ったことがなかったので、その話を聞いてから北海道で入ってみたのだけれども、意外にリーンな味のハンバーグでびっくりした。
で、あるルートからここがドライエージングをやろうとしているということで、担当者さんレベルだろうけれども、僕にも逢いたいという打診があった。けれども、いろんな仕事の合間で忙殺されていて、けっきょくお会いすることはなかった。
そういうことで、まったくお役には立てなかったんだけど、どんな味になっているのか食べに行かねば!だったのだ。
札幌大通り公園ではマラソン選手が続々とゴールしていた。持久力を必要とする運動が死ぬほど嫌いな僕には縁の無いイベントだ… この大通り公園に面したBISSEというビル内3階に、お店がある。
何度も書いているけれども、ドライエージングビーフと名乗りつつ、全然DABになっていないものが散見される。おそらく本当に上手くいったDABを食べたことがない人は、そういうものを食べると「ふうーん、これがDABか」とよくわからない気持ちになるしかないだろう。けれども、上手くいったDABを食べると、「え?これは初めてだ!」と衝撃を受ける人が多い(そばで何十人も見てきました)。最初に出会う店は重要だね。
ところで43°という店名にはどんな意味があるんだろう。どこかで聞いたような気がするけれども、忘れてしまったなぁ、、、
なんとせっかく持っていたオリンパスOM-Dのメモリカードを入れ忘れて出てきたことが判明したので、iPadで撮影することにした。ので、店内写真は撮れてないけれども、とってもシックでエレガント。北海道らしく広い広いスペース取りだ。アメリカのドライエージングビーフ・ステーキハウスのようなリッチな雰囲気を漂わせている。
ランチメニューは数種類あるけれども、ホルスタインの骨付きのロインを数種のグラム指定で頼むことができる。サラダなどサイドディッシュのビュッフェ付きだ。グラム数は2人前程度の400g(2名で7400円)、3人前程度の600g(3名で11000円)などいろいろある。
がっつり食べたいんだけど、、、と相談すると、「400gですと、お二人だと普通に食べられる量ですね」ということで600gに。3人なら11000円だが、ビュッフェ代金が一人分差し引かれるので9千円台後半になった。安い、と思う。
ドライエージングビーフのコストパフォーマンスをどう考えるか。ここのステーキ肉はホルスタインだ。部位がロインだとキロ4000〜5000円程度か。おそらくこの店は肉の仕入れを工夫していると思うのでもっと安く仕入れているだろう。しかしドライエージングは外側の乾燥部分をこそげなければならない。こそげる量は場合にも寄るのだが20〜35%程度といったところだ。それが原価だとして、この店の仕入れ原価率が35%程度と仮定すると、かなりリーズナブルな価格設定ではないだろうか。夜はビュッフェがない分、総額で一割程度価格設定が高くなると思うが、それにしても国産のかたまり肉を食べるのはごちそうなので、これは妥当な金額だと思う。
あとは、美味しいかどうかだ!
ビュッフェで充実したサラダやキノコのマリネ、スープなどを楽しんでいるうちに、テーブルセッティングが。上の写真のように小皿を裏返して伏せた。
あ!これは、ニューヨークのピータールーガー系の、ウルフギャングステーキハウスなどで定番の皿の置きかただ。大皿の片側をこの小皿のうえに置くことですこし傾斜をつける。するとステーキの脂が片側に流れ、ソースのようにそこに浸すことができるのだ。
程なくしてメイン登場!
まごうことなく、ニューヨークスタイルのステーキだ!
脊柱などの危険部位を除去して処理したホルスタインだから、あばらの骨がついていて、そこを上手にカットした状態で出てくるのだ。やっぱり、ステーキとして食べるならば最低でもこのくらいの厚みのカットが望ましい。400gにしなくて本当によかった、、、
これまたピータールーガー系の店の作法である、溶けたバターに肉を浸してサーブしてくれる。まだNY視察ツアーの本編で書いてないのだけれども(失敬!はやく書きます)、NYでは焼きっぱなしのシンプルなステーキはむしろ少ない方で、ピータールーガーやその流れにあるウルフギャングでは、バターをたっぷり絡ませて焼く。それも香りとうま味の強い発酵バターで、肉から溶け出たジュと塩が混ざっているので、もうそれ自体がソースになっている状態なのだ。さっきの小皿で傾かせているのは、このソースを一方に寄せているのだ。
焼き加減はオーダー時に聞いてくれるので、このときは「レアとミディアムレアの中間」とお願いした。店としてはミディアムレアがお薦めだそうだが、ドライエージングビーフ(DAB)は火が通り過ぎるととたんに肉の質感がばさばさになるし、香りも飛んでしまいがちだ。しかも、ゆっくり食べると余熱で火が入ることも考慮しなければならない。かといってレアでは、肉のうま味が最大限に活性化するとは言いがたい。と思ってる内にバターのソースがかけられる。
ナイフを入れると、実に健全なホルスの個体だったのだろう、ブルンブルンと強い弾力で押し返してくる。まるでまったく熟成していないかのような強い繊維感。大丈夫か?と思ったが、、、
口に入れてビックリ!
極めて美味しいDABである!
実はまだDABに特有の香りについて言っていなかったけれども、レストランに入ったとき、調理場からあのDABのナッツ香が漂ってきたのだ。NYのウルフギャングのように、店内にナッツ香が充満しているというほどではないけれども、間違いなくドライエージングによって産まれるあの香りがしていた。
このホルスの肉からも、控えめながらナッティーな香りが立ち上る。ドライエージングの効用の全てとはいわないが、この香りが全くついていないものは、熟成が上手くいっているとはいえない。ここの熟成はハードタイプでは無いと思うが、しっかりできている。
熟成期間を聞くと、7〜8週間だという!けっこう長いなぁ〜
そのせいか、もうひとつの熟成の効用であるテンダネスが非常に進んでいる。自己消化酵素の働きによって、タンパク質がアミノ酸に分解される途上にあるので、とにかく柔らかい。A5のサシが入りまくった肉は、サシの部分が過熱されると液体になり、残る赤身肉部分はスポンジ状になるので、構造的に柔らかくなる。しかしDABは細胞組織そのものの物理特性が柔らかくなるので、その意味は全く違う。そして、DABの柔らかさのほうが圧倒的に心地よいのだ。
このほかにもうまくDABとなっているかどうかを判断するための指標があるのだけれども(それは書けない)、その点もバツグンにクリアしている。この店の肉は立派なDABでした。美味しい!
マッシュポテトとクリームスピナッチも控えめについてきます。けれども、要らないな。ひたすら肉を食べるのが吉。
肉とバターだけの味に飽きたら、ホースラディッシュソースを。けど、そんなに必要ない。
たっぷり堪能しました。ビュッフェコーナーにはデザートも数種あるし、お茶を食後にお願いしておけばゆったりできる。この店はランチの穴場だ!
この43°ステーキハウスは、熟成香がブンブンと匂ってくるようなハードタイプの熟成ではないけれども、十分にDABの良さが引き出された熟成に成功している店です。その店内のリッチな雰囲気からいっても実にリーズナブルなステーキハウス。今度は夜に行って、リブロースを食べてみたいと思う。