宮崎市の郷土料理の代表といえば冷や汁である。これはもう誰にも文句を言わせぬ、事実である。なんで事実といえるか、今度じっくり書きたいと思うが、僕が関わっている市の事業で先頃、一般市民へのアンケートを実施している。結果、本当にぶっちぎりのぶっちぎりで冷や汁こそが郷土料理の代表であると、皆が認識していることがわかった。
それにしてもおもしろいのはこの「冷や汁」の呼び方だ。以前にも書いたと思うが、これを「ひやじる」と読むのが東日本における普通の感覚。ところが宮崎の人たちはこれを「ひやしる」と、濁らずに言うのが主流なのである。前に、宮崎市の夜に必ず立ち寄るスナック「美和」で冷や汁談義をしていたところ、カウンターの端に座っていた人がいきなり「あんた、ドコの人かしらんが、『ひやじる』っていいよったね。そんな汚い言葉遣いを、宮崎の人間はせんよ。『ひやしる』というのが本当や」と、断固たる口調で言うのである。これにはマイッタ。「じ」と濁るのは美しくないというのだ。たしかにそう思えてくる今日この頃。
さて意外にこの冷や汁を、宮崎を訪れる観光客が食べるのは難しい。冷や汁は家庭料理の権化ともいえるものであって、店でわざわざ食べるという習慣がほとんど無かったということらしいのだ。
冷や汁を食べられる貴重なお店として、宮崎空港や県庁近くにあった「魚山亭」は既報のごとく、破産してしまっていまはない(東京に展開されている魚山亭グループの各店は資本関係が分かれていたので、いまもある)。ではいま、どこで冷や汁を楽しめるかというと、真っ先に名前が挙がるのが「杉の子」だ。
橘通りの県庁近くにある杉の子、宮崎郷土料理の代表的な店でもあり、外国人の団体客が訪れることも多い店だ。このときランチタイムで訪れたので、冷や汁はもちろん頼んだのだけれども、それ以外にメニューを見ていて「おおっ」と頼んでしまったものがある。
これ、なんと「カツオカレー」である。一瞬、僕はモルディブ・フィッシュを多用するスリランカカレーを連想。でもここのカツオカレーはカツオの肉を使ったカレーのようだ。でも、これがまたなかなかに美味しい。
魚介っぽさが溶け出したなじみやすいルー。魚肉のなかでも大型回遊魚であるカツオはカレーの具材として立派に機能しますな。
あ、でもこれが目当てじゃなかった!
カレーのあとに〆で冷や汁定食を(笑)
ご飯に冷や汁をたっぷりかけていただきます。
杉の子の冷や汁味噌は、煮干しを使うスタンダードなもの。上にはカマスを焼いたものがトッピングされている。冷や汁はただの冷たい味噌汁と思っている人が多いが、作り方は全く違う。まずは煮干しやトビウオなどの魚を焼き、すり鉢ですったものに味噌とすりごまを混ぜ、それを香ばしく焼く。この魚味噌を保存しておき、食べるときにだし汁または水で溶き、具を入れるだけというのが冷や汁だ。
つまり魚味噌を造る段階がもっとも味を決める要所なのである。この冷や汁の味わいが、地域によって違うというのがあって、これをいま研究しているところだ。アンケートを通じて、かなりおもしろい事実が判明してきている。いずれここに詳しくレポートしたいと思う。
ということで、そろそろ宮崎に到着だ。以上飛行機内より。