いやもうただただ、自らの不明を恥じるばかりです。
チョウザメの養殖事例はいくつか見てきたし、国産チョウザメのキャビア試作品も何回か食べさせていただいたことがある。けれども、キャビアはともかくその身肉についてはいい印象をもっていなかった。
それはあるとき、チョウザメの燻製をいただいて食べたのだが、実にゴムっぽくて味付けもひどいものであったため、「チョウザメはまずい!」という先入観ができてしまっていたのだ。
しかしもうその苦しい思い出は過去のものとなりました。宮崎にて僕は美しき女性からの招待をいただいた。旨い魚が食えるのかと思っていたらなんとチョウザメフルコースでありました。そして俺は刮目したのです。
チョウザメは旨い!
築地加代子さんは、宮崎活魚センターという水産卸を営む社長さんだ。実家の家業を2年前に継がれたそうだが、とてもその小柄でチャーミングな見た目からは、魚を扱う卸だとは思えない(笑)今回、僕が宮崎でお世話になっている機関の担当者さんが「あのね、私の高校の同期生なんです!ぜひ会ってほしいの!」ということでご紹介いただき、のこのこと出かけていったのでありました。
場所は宮崎市内のホテルマリックス。ビジネスホテルとシティホテルの中間というかんじだろうか、止まったことは無いのだが、施設が充実しているらしく、いちどここで宮崎県内の加工食品業者さんたちとのセミナーを開催したことがある。
「ここの料理長がうちの活魚を応援してくださっているんです。今日はうちが力を入れている五ヶ瀬の養殖場の山女魚と西米良サーモン、チョウザメでコースを組んでいただいたので、楽しんでくださいね!」
なぬ、チョウザメ!?しかもメニューを見てみたらチョウザメ(蝶鮫)がメインじゃないか!
これは予想だにしていなかったぞ、と思ううちに前菜が運ばれてきた。
焼き魚はまだ小さな山女魚、その頭の下にあるてまり寿司が、なんとチョウザメをネタにしたものだ!
ええ〜 なんだかすっごく可憐で美しい身肉ではないのぉ!
ちょっと驚きながらぱくりといただくと、、、ゴムっぽいなんていったい何の話だったの!?シコッシコックニュックニュッという絶妙な食感。ほどよく端麗なうまみがあって、上にのせたとんぶり(まだキャビアは来年から獲れるかという状態らしく、今回はとんぶり)の塩味だけで十分に美味しい。
山女魚の骨酒も美味しゅうございます。
お腕はチョウザメのアラ、みてくださいこのぷるんぷるん度合い!
テリテリと輝くこの質感、ゼラチン質に富んでいるのがよーくわかるテクスチャだ!
トゥルンとすすり込むと、淡いうまみとほとんど溶けていく食感。そして重要なのは、臭みがないこと!スッポンや淡水魚のゼラチン質を食べるとき、どうしても泥臭さを感じるときがある。あまり気分のいいものじゃないあの臭いがあるかと警戒したが、まったくもって一片も臭みがない。上々のお椀です。
さて、このきらびやかなお造りのなかに淡水魚が二種隠れている、、、
西米良サーモンと、、、
チョウザメだ!
実はこの会食の後、宮田たけとらと会ったのだけれども、すぐにこの写真をみせると「えええ?これがチョウザメの刺身ですか?すっごく旨そうな、海水魚の肉質みたいにみえますね!」
と驚いていた。やっぱりそう思うよな!?
刺身にひかれたチョウザメの肉を味わって、先のてまり寿司の時に感じた驚きが確信となった。この魚、旨いなぁ、、、なんとも上品な白身だが、うま味の要素が強くて、適度な熟成によってものすごく奥深いアミノ酸が溶出してきそうなかんじだ。今回食べたのはプリッとした食感なので、2日ほどおいておくともっと美味しくなるのではないだろうか。
けれども、このブリブリの弾力のある身肉の状態でもあきらかにうま味があって美味しいのだ。独特の食感は、たしかにへたに火を通すとゴムっぽくなりそうだが、僕が以前食べて辟易した個体とはあきらかに素性が違う!
その、火を通した身肉を味わう瞬間が来た!
しゃぶしゃぶ、である。
ここの板さん、当たり前のことだが料理によって切り身の厚みを変えてくれている。だし汁にささっと通すと、身肉がキュッと引き締まってくる。
あ、確かにサメっぽい質感になるなぁ。けれどもそれはあくまで感覚的なもので、実際には海のサメとは全くの異種。アンモニア臭はまったくありません。これを三種のタレ、ポン酢とごまだれ、そしてごま油と塩というラインナップでいただく。
やっぱりポン酢はこういう端麗旨口の白身にベストマッチ!ごまダレはややごまが強く出る。ごま油%塩は、んー意表を突いてはいるけれども、ごま油の香りですべてマスキングされてしまうので、チョウザメの良さは消えてしまう。ごま油ではない、もっとクセのない油の方がよいでしょうね。ていうより、油はいらんかもです。
しかし、この食感は絶妙。生だとブリ、ブリ、という感じだが、火が通るとキュイッ、キュイッという引き締まった食感になるのだ。
ここで宮崎県産のEMO牛のステーキを挟んで、、、
ヤマメ!
この山女魚、実に臭み無く美しい風味だ。
「ありがとうございます!ここの養殖場の社長さんにわたし惚れてるんです!とってもすばらしい環境と阿蘇水系のきれいな水質のおかげで、高品質な山女魚が獲れるんですよ」
いや、よーくわかります。いつも僕は畜産のコトを話すときに「品種×えさ×育て方=肉の味」という方程式を使っている。この中で最もダイレクトに味に影響を及ぼすのがえさで、ナニを食べさせるかで味が大きく変わってくる。しかし、ヤマメ養殖のえさはほとんど全国で一緒で、イワシ原料のものであることが多い。
そうなると味の違いが大きく出てくるのは、その地の水質ということになるのだ。水のきれいな川の魚は本当に美麗な香りの肉質になる。
ここのヤマメの内臓の味、苦み・臭みはほとんどなく、香りとうま味だけが詰まっている。しかし驚いたのはこのマリックスの料理長さんの焼き技術ね。川魚をいただくときに、だいたいどこでも焼きすぎの状態で食べることが多いんだけれども、ここしばらくでベストの焼き加減。肝はトロリと暖まったペースト状に溶け出るくらいで、身肉はしっかり脱水されて香りが立つ状態だ。
西米良サーモンのぬたみそあえを挟んで、チョウザメのごま茶漬け!
だし汁を注ぐと、、、
身に柔らかく火が通って、表面と内部の温度差のある茶漬けに!
ゴマのコクがここではもちろんいい方に転んで、実に美味しく満足感のある〆ご飯に!
いやー堪能しましたよ!
それにしても筑地さん、まじでチョウザメのうまさには脱帽!
「それはよかったですぅ〜!ほんとうは国内のチョウザメ養殖は、岩手県の釜石がトップだったんです。けれども震災で施設が復旧できなくなってしまって、はからずもここ宮崎の養殖が国内最大級になってしまいました。来年からキャビアも出回ります。味はフレッシュ感が強くてとても美味しいんです!でも、キャビアだけではなくて、この美味しいチョウザメ肉をもっと広めていきたいと思ってるんです。」
肉を食べるためのチョウザメは、3年ものくらいが美味しいらしい。もちろんオーダーによって魚体の大きさは調整可能で、キロ数指定もできるそうだ。
ここで料理長登場。
長身の戸敷料理長、筑地さんのところの魚にべた惚れのご様子だった。
「おっしゃるとおり、チョウザメの肉は2〜3日おいておくともっと熟成してうま味が増してきます。新鮮さと柔らかさ、うまみをどうバランスさせていくか、料理によって変えています。でも、チョウザメってほんとうに美味しいですよね、もっと一般の皆様に識っていただきたいと思っています」
うん、このお味ならほんとうに「これを食べに行く」というのが成り立つくらいの魚だと思う。もしこのようなチョウザメ料理を食べたければ、宮崎市のホテルマリックスにあらかじめ予約を入れてくださいませ。おそらく、食べられる、と思います。
いやーそれにしても筑地さんは肝の据わった人だった。
「わたし、営業したことないんです。」
というが、これだけいい魚のネットワークもってたらそれもわかりますな。東京は築地市場の仲買を通じて、様々な店舗に卸している模様。もし宮崎の淡水魚に関心のある人は連絡をしてみてください。
宮崎の鮮魚卸し専門店|株式会社宮崎活魚センター
宮崎活魚センターのホームページ。旨い活魚ネットワークを宮崎・九州管内で構築しておられる。