さて島根県の3日目、今度は海辺へ出ることに。太田市の久手漁港に干物屋さんを構える「岡富商店」にお邪魔した。
干物って、なかなかに損な位置づけだ。だって、見た目も名前もどちらかというとひなびていて、あまり派手ではない。ハレとケでいえば完全にケのものだ。
けれども、島根県の物産展やアンテナショップに行くと必ず、りっぱなカレイや甘鯛、キンキなどの干物が並んでいるのを観ることが多い。しかも結構いい値段だ。だまされたと思ってそれを買い、家で焼いて食べてみると、驚倒するのである。
「こんなに旨い干物ってあるのか!」
香り高くデリケートな味わい。ちょっと、スーパーに並んでいるアジの干物とは比べものにならない。味わいとしては完全にハレの食じゃないの?というのが島根の干物だと思う。
んで、この久手漁港にはその中でもこの大田市にしかない、ある習慣がある。そのおかげで通常よりも旨い干物ができやすい。それが「夕市」の存在である。
■岡富商店 http://www.okatomi.jp/
ここ久手漁港ではなんと、夜の間に市が立つのだ。だから漁師は早朝から日本海に出て、日中はずっと漁をする。それを冷凍することなく水揚げしたら、その夕刻にはセリにかけられるのだ。だから、ついさっきまで生きていた魚を日付が変わらぬうちに取引でき、業態によってはその日中に手に入れることができるというわけだ。
この原料を使って干物を作るわけだから、もう素材の時点でアドバンテージがあるということなのだ。
岡富さんがてがける干物、あとで口にすることになるのだが、実に塩加減が甘い! 選びに選んで、とある地域の塩を使っているということなのだが、選んだだけはある実に絶妙な加減なのだ。
それはともかく、、、実は岡田社長との対話の中で、個人的にすさまじい発見をしてしまった。「え?ここにもアレがあるの!?」「ありますよぉ」というものだ。これについては、まず先に書かなければならないことがあって、それがまだ未完なので、岡富商店で出会った「アレ」については詳細を控えておく。チョロッとだけ見せると、コレである。
三重県庁の水産マーケティングな女子の皆さん、なんだか分かりますか? なんとアレを、島根県でも発見したんですよ、、、そのうちこの話はドカンと突っ込んで書きますね。
さて、お昼ご飯は大田市の静間という地区へ。
ここは、実に神話の世界である。
日本書紀で、スサノオが新羅から出雲へ上陸した時の海岸がここではないかという話や、オオクニヌシとスクナビナが国つくりの際に住んだという岩窟があるのだ。
この海辺の漁師町で僕らを待ち構えていてくれたのが、和田裕子さん。
彼女はしばらくまえまで市の職員だったそうなのだが、一念発起して起業、「ハレの日」という会社を建て、地域食材や郷土の食文化を発信するレストランを経営している。
■ハレの日 http://www.harenohi-antenna.com/
「いま、お料理を準備していますので、できるまでの間、この神話の里を廻ってきてくださいね。語り部の方もいらっしゃいますから、、、」
この方が語り部の荊尾(かたらお)さんだ。
静間ふるさと交流倶楽部という組織を発足して、この地域の神話のガイドや藻塩作りの体験、そして海の家の運営をしておられる。
藻塩! そうだよ、島根といえば隠岐の島にて、ものすごい藻塩に出会ったのでした。あの製造現場をまた観られるのか。
かたらおさん、スイスイと海辺の街なかを歩いて行く。
どの家の軒先にも、当たり前のように干物が吊されている。
しばらく歩くと、オオクニヌシが国造りの策を練ったという静之窟(しずのいわや)が見えてくるが、その手前に塩造りの小屋がある。
この手前の塩水が入ったのが釜で、ここでぐらぐらと海水を沸かして塩分濃度を高める。
ある程度煮詰ってきたものに、このホンダワラなどの海藻類のエキスを混ぜて炊きあげていくという。それによって、海藻類の旨味をまとった塩ができるのだ。
藻塩体験じたいは時間がないのでできないのが残念!今度はぜひ体験させていただこうと思う。そして、いよいよ神話の世界、静之窟へ。
こういう神聖な場所ではあまり写真を撮らないことにしているので、内部の写真はありません。中は基本的には入らないで欲しい、ということになっている。というのは、洞窟内の岩盤が非常に脆く、話し声だけでも岩が崩落することがあるそうなのだ。
かたらおさんら地元の人は、掃除のために定期的に窟の中に入るが、その際にはまずこの鳥居でお清めの言葉を口にしてから入る。僕らもそれに習う。中でかたらおさんの説明を聞いていると、ドヤドヤとガイド無しの観光客が入ってくる。わいわいいいながら、しかも「そっちいっちゃダメだろ!?」というような内部までワサワサと入り込み、記念写真など撮っている。
そこでかたらおさん一喝!
「あなたがた、そっちの方に行かれると困るなぁ!岩が落ちてきたら大変なことになりますよ!」
この静之窟に行きたいと言う人はホント、注意してくださいネ。地元の人に案内してもらいましょう。
「さて、そろそろご飯ができているでしょう。帰りましょう!」
海の家に戻ると、料理の準備が進んでいる!実はここで一発ボクの講演が入ったわけだが、それはもう割愛。腹減ったよ~
この場を仕切ってくれた和田さんが料理や食材の説明をしてくれる。
実にじつに美しい料理たち!
漁師料理であるサザエの炊き込みご飯のおむすびに塩むすび、海藻の煮物、山菜の煮物など。お野菜は三瓶(さんべ)山で小さな畑をしている、さんべ女子会の手によるものだ。
刺身は、、、たしかニギス!?
ニンジンと、川村千里さんのかわむら牧場のお肉!
そして、フグの干物。なんと豪勢な!
どのお料理も基本的に塩や基本調味料だけの最低限の調味のようで、清々しい味だ。
そうそう、塩むすびに、さきのかたらおさんが作った藻塩をちょいと載せていただいてみる。
こいつが、もう実に美味しい!
海藻類から出たアミノ酸の旨さ、柔らかに効く塩分、地元のお米の甘さと粘りけが際立つのだ。
岡富商店さんのスペシャル干物、この見事な焼き上がりをみると、ロースターでじっくり焼いたのだろうと思いきや!
なんとフライパン焼きなのですよ、、、ビックリだよ! やっぱり岡富さんの干物は極めつけに旨い。ほろほろと崩れる身肉に、いっさいの余分な臭いなし。
これも、さんべ女子会のメンバー生産者さんの卵だ。オレンジ色ではない、素直な黄色で、好ましい黄身です。
これに、県のご担当である錦織さんも参加しているという、その名も「遊牧麺」が!
この遊牧麺、さんべ女子会メンバーにいろんな人が加わってできたオリジナル麺で、麺は県産米を使った米粉麺。上に乗っているお肉はかわむら牧場の経産牛。つまりお母さん牛ですな。ということは、スープももちろんかわむら牧場のビーフスープだ。
モンゴルとかの遊牧民の麺をイメージしたのだろうか、それにしちゃすげーキャッチーな味で、旨い。
コクのあるビーフスープに、平打ちタイプの米粉麺は合いますな。
僕は米粉麺には、米粉パンよりも可能性があると思っている。パンはもともと小麦でできていたもので、その伝統が1000年以上も伝えられているわけだ。そこにポッと米が入っても、太刀打ちできない。けれども米粉麺はふつうに存在する。
問題は、ジャポニカ米のうるち品種での米粉麺は、日本にしかないということ。インディカ系統のあっさりした米粉麺とは違い、もちもちして濃厚な感じの米粉麺になるから、スープは独自設計をしないと、いいものができない。この辺が、まだ日本で米粉麺がブレイクしていない理由だと思う。
この遊牧麺、イイ線行ってると思う。あと一息、酸味の効かせ方と香りのプラスで大きく変わると思う。実際には香菜などのハーブ類を散らすようだが、どうせなら洋物のハーブではなく、三瓶山の山野草で香りの強いものをチラしたらどうだろうか、と提案をしておいた。
そして、かわむら牧場の経産牛のステーキ。
かわむら牧場は大田市で、黒毛和牛を草原放牧で育てている畜産農家だ。ここのおかみさんである千里さんとは、モーモー母ちゃんの集いなどのイベントでしょっちゅうお会いしているのだが、宮崎での畜産イベントの際、息子さんが来ていた。
その際に僕が「経産牛はちょっと加齢臭のような香りがするのが」といったもんだから、ちょっとムッとしたらしい。
「ヤマケンさん、この肉、僕が育てた経産牛です。加齢臭がするかどうか食べてみてください!」
と怒ったように言う。いやー違うよきみ、オレはその加齢臭のような、経産牛にしか出ない香りこそが、いまの世の中の和牛が失った味であると思ってるんだよ。だから香りがした方がいいんだ。
まあそれはともかく、このかわむら牧場の経産牛、すんばらしく美味しい! しっかり飼い直しをしているから、お母さん牛だとは思えぬ芳醇さである。いや、経産牛は旨いんだよマジで。
いやしかしご馳走ご馳走オンパレードでした。本当は一品一品にもっと深いストーリーがあるのだけれども、それはまた、再訪した時に。
さんべ女子会のみなさんと。本当にご馳走様でした!
このように走り抜けた2泊3日。あ、この模様も、フジテレビのカメラが同行していたので、ちょっと映るかもしれません。(わからんけど)
まあとにかく、この出雲地方は再訪マストだな。できれば読者の皆さんと出雲を巡るツアー、やりたいですな。関係者のみなさま、その日を心待ちにしております。
お世話になったみなさん、ありがとうございました!