最近、アメリカでは肉を巡る話題に事欠かない。
最も大きな分岐点となったのが、ハーバード大学のチームによる「肉類の摂取は死亡リスクと関連がある」とした論文の発表だろう。僕はこの話を愛媛大学の”のざけん”こと野崎賢也准教授から聞いた。以下、のざけんの解説。
先月から米国では「肉」が大きなニュースになって世間を騒がせています。
1つは、ハーバード大学の研究で、「牛肉・羊肉・豚肉(red meat)」などの消費が、癌や心疾患などのリスクを高め死亡リスクを上げていることが、大規模な健康調査の分析から明らかになったことです(「牛肉・羊肉・豚肉」などのことを「red meat」と呼んでいて、日本で言う「赤身肉」ではありませんが、日本では誤訳して紹介されたりしてるようです)。
■Red Meat Consumption and Mortality
http://archinte.ama-assn.org/cgi/content/abstract/archinternmed.2011.2287この研究のウリはいくつかありますが、「加工肉」と「未加工肉」を分けて分析していることが重要だと思います。ベーコンやホットドックのような「加工肉」の方がリスクが高い結果になってます。原因として塩分や亜硝酸塩の影響が示唆されています。これは、日本でも(一部の人には)常識になっていると思います。
こういう肉を、魚や鶏肉や穀類などのタンパク質に置き換えるとリスクが減少することも明らかになって、これで米国ではさらに牛肉離れが起きるだろう、ベジタリアンが増えるだろう、と思っていたところ・・・・
このハーバードの研究が発表された翌週ぐらいから、「ピンクスライム」(アンモニア処理された挽肉)についてのニュースが駆け巡りました。「くず肉」をアンモニアで殺菌して、安くて「安全な」ひき肉にしている、と食肉加工業界は主張していますが、消費者からの反発が大きく、大手のファストフードチェーンや、スーパーがこぞって「ピンクスライム」ひき肉を扱わないことを宣言しました。
米国では、さっそく、ひき肉だけでなく肉類消費が減り、その影響で、大手のひき肉加工業者が倒産したりしています。
こういうニュースは、日本人の健康にとっても重要だと思いますが、そういう視点で紹介してくれる記事が、もっとメディアに出ればいんですが・・・・
以上、野崎先生ありがとう。
アメリカではRed MeatとWhite Meatという分け方があって、これは単純に生の状態での肉色によって分けられているようだ。例えばレッドは牛肉や羊肉、ホワイトには鶏やウサギといった感じだそうだ。豚肉は生の段階では赤っぽく、調理すると白くなるが、多くの分類は豚をレッドミートとしているらしい。ただし、この分け方自体はかなり曖昧で、明確な定義があるわけではないそうである。
一般に日本では「赤身肉」は「脂身の少ない肉」として認知されているように思う。つまりRedMeatを「赤身肉」と訳してしまうと誤謬が発生する可能性が高いということだ。すでに「赤身肉」に近い書き方で日本語記事を書いているのを見かけるが、注意が必要である。
さて、上記の研究の見出しや概略をサラッと読むと、「つまり牛肉や豚肉を食べない方がいいってこと?」と読んでしまいそうだ。
しかし、前提として考えなければならないことがいくつかある。ひとつ、日本の牛肉消費に変な影響を与えないために言っておかなければならないのは、米国では肉牛を肥育する際に、成長ホルモンと言われる物質を投与するケースが多いということだ。そして日本では成長ホルモンが投与されることはない。これについてはまた次の機会に書く。
だから、日本より米国の方が基礎的なリスクが高い、とは言い過ぎかもしれないが、僕は考慮すべきだと思っている。
もちろん、牛のような大型動物の肉や豚肉は身体に負担がかかるので、食べ過ぎることはよくない。僕は最近、地方の和牛品種の肉を仕事でよく食べることが多いので注意していて、肉を食べない日は極力、野菜や穀類、漬物に発酵食品を摂るようにしている。
肉類の摂取による発ガンリスクについては日本でも大規模な研究がなされている。
■赤肉・加工肉摂取量と大腸がん罹患リスクについて
http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/2869.html
ここでは結論として、
とされている。ここでは「日本人の一般的なレベルなら大腸ガンリスクとはならない」と書かれているけれども、その一方で日本における食肉摂取量は増大しつつあるので、そこは考慮しなければならない。いずれ、日本でも食肉摂取量が欧米並みになる時が来る可能性はある。事実、魚の消費量は減少し、肉類と逆転してしまったのだから。
■水産白書より「国民一人あたり魚介類と肉類の摂取量の推移」
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h22/pdf/h22_hakusyo_gaiyou_2.
さて、以上を踏まえた上で、この研究の最も重要な部分は、のざけんが書いているように、加工された肉の危険性なのである。加工肉には通常、様々な食品添加物が投入されている。その辺はいろんなサイトで指摘されているのでここでは書かない。
ちなみに我が家で「滅多に買わないもの」が加工肉類で、ハム・ソーセージ・ベーコンは余程のことがない限り買わない。買うとしても「大地を守る会」で扱っている、中身の分かるものか、仲良くなった畜産関係者のもののみだ。ちなみに、かまぼこも滅多に買いません。理由は簡単、安すぎて怖いからです。
加工肉の本場であるドイツで、街中で賑わっているデリカテッセンやマイスターの店に行くと、とにかく驚く。そうした店で味わう加工肉はとにかくフレッシュな肉を使用して、最低限のフレーバーを加えて素晴らしいハム・ソーセージ類に加工されている。そしてそれに見合う価格で販売されている。
おっと、いまツイッターで長島農園の勝美君からのお話が。彼の妻であるフランチスカは、ドイツの食肉マイスターの娘なのだ。
義理の父親、肉屋のマイスターが言っていた。本来の肉の加工は牛でも豚でも一頭、全て美味しく頂くための手段で有って、決して肉の保存や延命の為だけの技法じゃない、だから彼は吊しの半身からしかハム、ブルストを作らなかった。
一方、アメリカや日本の大手加工肉メーカーの商品は、どちらかというと「価値の低い安い食肉原料を、いかにして商品にするか」に主眼が置かれている。
ハムやベーコンによく「インジェクション」という技術が使われているのはよく識られている。インジェクションとは注射のことで、豚肉に剣山のバケモノのような針の集合体をブッ刺して、肉の内部に塩や調味料を溶かした液体を注入するものだ。
ハムもベーコンも、塩分を浸透させる「塩せき」という工程がある。普通は濃度の高い塩水を作り、そこに数日間浸して浸透させるのだが、これにかかる時間を圧倒的に短縮するのがインジェクションだ。
しかしここで言うインジェクションはもっと本筋を離れたもので、調味料だけではなく大豆タンパクなど、肉のタンパク質に似たものを注入する。それによって肉のかさが増えるのだ。だからよく言われることだが、
Q:1キロの肉をベーコンに加工すると何キロに減るの?
A:減りません、1.2kgに増えるんです、、、
というジョークがよくささやかれる。勿論、まじめで添加物なしの加工肉を作る業者さんも居るので、こんなことは書きたくない。けど、大手メーカーのはほぼこれです。ぜひ、ハム・ベーコン製品を手に取る際には、食品表示欄を見て下さい。「大豆由来の成分を含む」と書かれていることが多いはずだから。
先日、テレビで最近はやりの工場潜入番組(たしかリアルスコープだったかな)で、オレンジ色のウインナーの製造風景を放送していて、ジムでサイクルトレーニングしながら見ていたんだけど、思わずペダルを停めてしまったシーンがある。原材料の投入シーンだ。
ミンチ肉を作るミキサーに黒っぽい、または茶色に変色した冷凍肉を投入しているのだ。表面を見る限り、かなりダメージを受けた肉のようだった。そして最後、ケーシングに詰めたウインナーを、コチニール色素だろうか、オレンジ色の色素を溶かしたプールにドボンと漬けるシーンがばっちり放映されていた。
僕はこれをみて、あーあー、これで明日からウインナーの売上が下がるぞ、と思ったのだが、、、もしかすると逆に買う人が増えたかもしれない。若い世代はもはや食べものがどう作られているか識りようがないからね。
「こんなに安全な作り方してるんだ~、ふうん、すごいね」
なんて思っているかもしれない。おそろしいことだ。
それはともかく、冒頭のハーバードの研究で大きく示唆されているのは、Redmeetのこともさることながら、加工肉の危険性なのである。そして、この論文中ではベーコンやホットドッグと書いているけれども、ほんとうの本丸は、ハンバーガーのパティのことなのだ。
ま、こんなことは、大手ハンバーガーチェーンにスポンサーになってもらっているメディアにはぜったいに書けないことなんだろうから、今後もハンバーガーのリスクについては限定的なメディアでしか語られることはないでしょう。
というわけで、ちょっと長く散漫になってしまったけれども、肉を巡る事情については続きます。