これは超弩級の味だな。
ジャガイモはこれまで何度もいろんな品種の食べ比べをしてきたし、越冬させて冷蔵熟成することで甘さが乗ることも過去ログで伝えてきた。しかし、久しぶりにこんなにビックリなジャガイモを食べた。
折笠健、この名前は健と書いて「ますらお」と読む。けれども本人は「オリケンでいいっすよ」(笑)
折笠農場は北海道は十勝の幕別町にある。幕別と言えば!僕のブログを昔から読んでくれている人は「あっ、ノムさん岡坂さんのいるところだ!」と思い当たるだろう。そう、過去ログの膨大な帯広編は、ほとんどJA幕別町の野村さん、岡坂さんに連れて行ってもらったりしている店ばかりだ。
その幕別町で、ジャガイモに大豆、小麦などを栽培する農場が折笠農場だ。実は僕はだいぶ前からこの農場のことを識っていた。というのは、これまた過去ログで何回か出てきている銀座のフレンチ鉄板焼きの名店「GINZA ORIKASA」のオーナーである折笠さんのご親戚筋なのだ。
「やまけんさん、うちの親戚が幕別で無農薬・無肥料のジャガイモを作ってるんですよ」
と言うのだ。それから何回も帯広に行くうち、折笠農場のことはいろいろと耳に入ってきていた。そして、僕が連載を書いている「やさい畑」(家の光協会)という菜園家向け雑誌の取材で、ぜひ行ってみようと言うことになったのだ。
ジャガイモは栽培の現場や育種の世界では「馬鈴薯(ばれいしょ)」というのが普通だ。また、ジャガイモを指す時には「芋」とは書かずに「薯」と書くのが正しい。けれどもこのブログはいろんな人が観てるので、普通にジャガイモ、芋、と書くことにします。
さてさて、北海道とくに十勝で畑作をやる場合、「畑作4品」という言葉がある。ジャガイモ、大豆、小麦、ビート(甜菜)の4品目のことで、多くの農業者がこれらを栽培している。ビートは砂糖の原料、小麦は製粉会社を経ないと粉にならず、大豆も加工原料として使用される。しかも、ジャガイモも多くは馬鈴薯デンプンの原料としての出荷だ。従って、十勝でスタンダードな農業を行うと、消費者にすぐ目に見える品目がなかったりする。ただ、これらをローテーションで作っていく輪作はうまくいくし、すぐに換金できるシステムが成立しているので、十勝農業はこれを基本としてきている。
けれどもやっぱり消費者に生食用に届けたい人たちもいるわけで、デンプン用ではなく食べる芋としてジャガイモを出荷する農家もいる。折笠農場は、主軸はグループ農家の青果物を販売する事業をなりわいとしているが、もちろん自前の農地もこうした生食用の栽培に充てている。
「うちの親父が、無農薬の路線を始めたんですよ。昭和40年代はビート栽培を中心にやっていたんですが、そのことは何も肥料なんか入れなくても収穫できたんだそうです。けど、近代化していく中で土地がどんどん痩せちゃって。これは、土を大事にして、化学肥料じゃなくて緑肥を鋤き込み、農薬を使わないやり方に返していかなきゃ、ということになったんです。」
実は健さんは20代、関西方面で生協向けの販売の事業所を担当していたそうだ。幕別に戻ると、販売事業もやりつつ自分の農場と向き合うこととなった。
「最初はね、とにかくメークとか男爵で無農薬やろうと思って。そしたら育種の先生に怒られたんですよ、『順番が違うぞ、無農薬に向いた品種を選ばなきゃダメだ』って。」
無農薬・無肥料の農法に精通する人はおわかりだろうが、どんな作目でも品種によって向き・不向きがある。化学肥料をバカンと与えて、病気を化学合成農薬で抑えなければ収穫できない品種というものは、もちろん多い。その一方で、収量や形状の質を落とさずに無肥料・無農薬で作ることができる品種もまた、存在する。
その中で最初に試したのが「ホッカイコガネ」だ。これ、僕も大好きな品種だ。ホクホク感があるにもかかわらず、煮崩れしにくい。実は関西方面ではこのホッカイコガネを「メークインですよ」といって売っているスーパーが多かったりするという話をきいている(笑)
「品種選びの後は土作りを見直し、緑肥作物(牧草のように背丈が高く伸びる。これを刈り取り、土の中に鋤き込むと、有機物として土が肥えてくれる)を入れるようにしました。機械で細かく粉砕して土に戻すんですけど、なかなかうまく分解しない。おかしいなと思っていた時に、自然農法の木村さんにお会いしました。」
その時、木村さんらしい教えを受けたという。 「山の上を見てみろ。落ち葉や枯れ枝はそのまま土に入るんじゃなくて、土の上で朽ち果ててから土に戻ってくだろ?」と。つまり緑肥作物も、刈り取った後は地表に置いておき、その後に鋤込まなければならないということだったそうだ。
こんな試行錯誤を繰り返し、折笠農場では無肥料・無農薬でジャガイモを栽培することに成功した。ジャガイモだけではない。豆類などもJAS有機認証を取得しているものが多い。そのうち何割かは、有機といいつつ無肥料であるそうだ。
この広大な十勝の畑。折笠農場の耕地面積は26haだ。上の写真は小豆畑。
ジャガイモ畑は、昨年9月の段階でこんな感じ。もう地上部は茎しか残っていない。実はこの数週間前に大きな台風が上陸し、ジャガイモがラストスパート的に成熟する大事な期間にもかかわらず、葉っぱを吹き飛ばしていったのだ。
「けどね、ここは違う品種の畑なんですけど、「さやあかね」は葉が落ちなかったんですよ!」
と、すぐとなりの圃場をみると、本当に葉が残っている!
「どうやらこのさやあかねは、病気にも強いし物理的にもタフらしいんですよ。次年度から作付けを増やそうと思っています。」
これが、輪作と緑肥のすき込みによって育ててきた土だ。
それにしても、無肥料なのになんでこんなに大きな立派なイモができるのか、本当に自然の力は素晴らしい。僕も学生時代に有機農法に親しみ、堆肥やボカシ肥を中心に野菜を育ててきたが、それでも全く肥料無しは経験がない。
ただ、無肥料で育てるために土作りが必要だということは大いに納得。ゼロから野菜ができるわけではないのだ。
こうして収穫された芋を、折笠農場では貯蔵・調整・出荷まで行っている。
「じゃあ早速食べてみて下さいよ!」
と、まだ掘り立ててまったく熟成していないさやあかねを、奥様に蒸かしていただいた。
さやあかねは、目の部分が淡い赤色に染まる品種だ。これは親でもある花標津の血を受け継いでいるのだろう。
蒸かしてもらったさやあかねは、驚いたことに風味が強かった!
なぜ驚いたかというと、通常は掘り出したばかりのジャガイモの風味は淡いのだ。デンプンがデンプンのままで、まったく糖化していないので美味しくもない。けれども、このさやあかねは実に強い個性的な味わいがあった。
全然関係ないけど、こちらは北海道名物の芋もち。
これ、たしかノーザンルビーだったかなぁ、綺麗な紫色品種だ。
さてさて、とにかくこのさやあかねに出会って記事を書いて、そこでいったん話は終了したわけだ。
しかし、、、今になって折笠さん、このさやあかねを貯蔵したものを送ってきてくれた。
「あのね、すんごい甘さなんですよ!これがジャガイモかってくらい。インカのめざめとかの甘さともちょっと違う。ジャッジしてくれませんか?」
ということで、事務所に届けてもらってシェフ仲間にも分けて、僕も食べてみた。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
久しぶりに吠えた!
この甘さは確かにすごい!
これまでいろんな熟成ジャガイモを食べてきたけれども、ここまで強烈な甘さは味わったことがないかもしれない!
先に書いたとおり、掘り出したばかりのジャガイモはデンプンの塊で、そのまま食べてもあまりリッチな味わいはない。それを、適切な低温下で貯蔵をしておくと、だんだんとデンプンが糖化し、甘く味わいのある芋になる。このさやあかねは現時点で半年くらいを経ている。もう少しすれば長崎産の新じゃがが出回り、何も識らない人は「美味しい新じゃが!」と思って買い求めていくだろう。けれども、本当にこの時期美味しくなるジャガイモは、実は昨年産の北海道のジャガイモなのである。
しかし、それにしてもこのさやあかねはすごい。ビックリしてしまった。
さて、お待たせしました。折笠農場では消費者向けにもこの芋を届けてくれるという。でも、彼らの労力を軽減するためにも、10キロ箱以下は×。ぜひご近所お仲間で分け合って下さい。
2011年秋収穫の無肥料・無農薬栽培のさやあかね 10キロ箱送料込み2800円(税別) お支払いは郵便振替で。
希望者は、氏名と住所、電話番号、送付先、そして「やまけんブログ見て」と記入の上(重要!)、折笠農場あてにファックス(0155-54-3675)して下さい。
届いたら、とりあえずは洗って皮を剥かずに蒸かす、もしくは茹でる(蒸かすのがベスト!レンジはお薦めしない!)だけで、竹串がすっと通るくらいで何もつけずに一口食べて下さい。その後はお好みで。糖化が進んでいるので、フライドポテトをすると焦げやすい。低温で一度揚げした後に、軽く高温にしてさっと揚げるというやり方ならOKだと思います。
折笠農場の、農法自体に興味がある人は、「やさい畑」の2011年冬号をバックナンバー取り寄せてみて下さい。いやーそれにしても久しぶりに気合いの入ったエントリを書いてしまった。旨いもん食べると、張り切っちゃうな。