うちの会社が企画のお手伝いをしている、恵比寿ガーデンプレイスの春のセミナーのテーマは「卵」。ほんとうは5種類くらいの卵を並べてテイスティングとかしたかったんだけど、諸般の理由でそれは無し。けれども、この国の卵のことを語る上で今一番、旬な人物に来てもらうことにした。
恵比寿ガーデンプレイス「元気ごはん」春のグルメセミナー
「おいしいたまごで元気な毎日!」
http://gardenplace.jp/event/eggseminar.html
トキワ養鶏の石澤直士さん。僕の有機農業の世界の師匠である、徳江倫明さんに紹介していただいた。 トキワ養鶏は青森県の藤崎町にあるが、養鶏に留まらず養豚、野菜、リンゴ生産をする大きな協同組合のひとつだ。生協の、とくにパルシステムの組合員さんは日常的に彼らの農畜産物を口にしているだろう。
卵の味は、鶏の品種×餌の中身×飼い方で決まる。一番大事なのは餌だ。他の畜産と同様、日本の家畜はアメリカで生産されたコーンを加工した穀物飼料を食べている割合が非常に高い。すくなくとも半分、多ければ7割は輸入穀物飼料に頼っている。
石澤さんは中国産の餌用トウモロコシを使っていたが、ある時いきなり中国が禁輸を言い渡してきて、穀物価格が高騰し、あわや倒産?という状況に直面した。その頃から、
「国産の餌をやらなければダメだ」
と確信を持ったという。そうして彼が目をつけたのが、コメだ。飼料用に、味は悪くとも収量性の高いコメを使う。そうすれば自給率100%の卵も夢じゃない。本当はそれが当たり前だったのだが、いまや日本で国産度100%の卵を手にするのは難しいことなのだ。
飼料米をつくってくれと周囲の農家に頭を下げたが、「せっかく作ったコメを鶏に食べさせるのか!」と怒られ、当初は理解が得られず、自分たちの田圃で作付けをしていたそうだ。写真は「べこあおば」という飼料米品種。1反あたりから頑張れば13俵くらい獲れる多収米だ。
これを、餌に混ぜる。
上の写真のつぶつぶしたのが玄米だ。通常はこの玄米が黄色いコーンの破砕したものである。実はこの写真は2008年に撮ったもので、現時点ではなんと脱穀しない、籾付きの状態で与えているという。
「あのねぇ、籾付きでも鶏は砂肝があるから、バンバン食べるんですよ。その方がかえって健康にもいいみたいで、砂肝がどかーんと大きくなるの。あとね、コメを食べてる鶏の腸管の長さをコーン中心の鶏のと比較すると、まったく長さが違う。コメを食べると、ゆっくり消化するからか、腸が長くなるんだよ!人間と同じなんだね」
という。
コメを食べさせた卵は食べたことあるよ!という人もいるだろうが、このトキワ養鶏の「こめたま」はその中でも王者クラスだ。というのは、餌の7割をコメにしているからだ。よくあるのはせいぜい10%~30%どまり。個人的には、50%以上をコメにしないと、味わいは大きく変わらないと思っている。
下の写真を見て欲しい。
一番色の淡いのがこめたまだ。その下のはおなじトキワの通常卵。色の濃いのは、スーパーで購入。
色が濃いのがいい卵と思っている人がいるが、色は簡単にコントロールできます。オレンジにしたければカボチャや、真っ赤なパプリカピーマンの抽出物を与えればいい。すぐに強烈な赤身の卵になります。でも、それはとくに「いい卵」の指標ではありません。
以前、dancyu誌上で卵の食べ比べをした際、懐石「小室」の小室さんと「ペルゴラ」の斉藤さんと一緒にテイスティングをしたが、二人が実にリーンで淡く、清らかな味わいの卵を「これがいい」と選んでいたことを思い出す。本物は淡いんですね。
ちなみにコメタマの色の淡さはすごい。上の写真はカラーファンという、卵の色を識別するためのチャート。通常は12くらいだが、こめたまはなんと2番!知らずに割ったらみんな驚く色なのだ。
ここまで来ると味わいは大きく変わる。僕の感覚では、ほんとうに和の味、出汁っぽい味になる。なんつったってコメ由来だからね。ベージュ東京アランデュカスの前任シェフ・ジェロームはこの卵を食べてびっくらこいた。
「この味は初めてだ!ライスを食べさせた卵?そんなの初めてだ!」
といって、得意料理の卵のココットのレシピをこめたま仕様に変えてくれた。
こめたまの美味しさは、鶏の品種に由来するものでもある。写真は岡崎黄斑プリマスロックという、国産種鶏だ。もうひとつ、後藤もみじという品種も使っていた。
これらの品種は、海外のエース品種にくらべると卵を産ませる効率はやや落ちるらしいが、その卵の黄身の味わいはよい、といわれている。
「餌の国産率を追求してるんだから、鶏も国産じゃないとね!」
と石澤さんは言うのだ。
これに加え、トキワ養鶏のある地域は素晴らしい自然に囲まれている。
岩木山系から染み出る水は清らかの一言だ。
実は畜産にはこの「よい環境と清らかな水」が欠かせない。水と空気が綺麗じゃなければ、餌がよくても味が濁るのだ。人間だって、同じだ。
この環境を汚さぬよう、トキワ養鶏は鶏や豚の糞尿をそのまま流したりせず、独自の発酵槽で浄化し、逆にこれをアスパラやニンニクなどの畑に還元し、循環型農業を行っている。
だから、トキワ養鶏のグループで生産しているニンニクやアスパラ、そしてリンゴの評判は極めて高い。
加工肉も、実にまじめに作っている。
変な添加物一切なし、おいしく清々しい味わいの加工肉だ。パルシステムの組合員は幸せだと思う。
と、こんな畜産を展開しているトキワ養鶏の石澤さんが、卵について話をしてくれる。ただし、時間があまりなくて30分。ホントは90分でも足りない位なんだが、、、
その後は、料理研究家の方の卵料理デモンストレーションだ。ちなみにこの日、ガーデンプレイスで開催されるマルシェにて、こめたまを買うことができる。もし卵に関心があるなら、このセミナーに出てこめたまを買い求め、身近なスーパーで安い卵を買って、食べ比べをしてみると面白いと思う。きっと、違いにビックリすると思う。
ということでぜひぜひ、おいでませ。
恵比寿ガーデンプレイス「元気ごはん」春のグルメセミナー
「おいしいたまごで元気な毎日!」
http://gardenplace.jp/event/eggseminar.html
卵ひとつに魅力がいっぱい! 卵がもっと好きになる。
タンパク質、ビタミン&ミネラルが豊富な完全栄養食品で、毎日の食卓に欠かせない“たまご”。
卵の美味しさはいったい何で決まるのか、卵の魅力、元気がでる卵料理のレシピまで、
料理研究家と卵生産者を講師に迎え楽しくレクチャーしていただきます。
予定内容
卵の生産現場の話/卵の美味しさとは/卵の魅力/元気がでる卵料理デモンストレーションと試食 ほか
「元気ごはん」春のグルメセミナー おいしいたまごで元気な毎日!
会 期: 2012年4月1日(日)13:00~14:30(90分) ※開場12:30より
会 場: 恵比寿ガーデンプレイス タワー4F「SPACE6」 東京都渋谷区恵比寿4-20 恵比寿ガーデンプレイス内
定 員: 100名様 [持ち物] 筆記用具
参加費: 1,000円 ※当日受付にてお支払いください。
講 師: 沼口ゆき氏(料理研究家) 石澤直士氏(トキワ養鶏 会長、日本養鶏協会 理事)
申込はコチラから↓↓
http://gardenplace.jp/event/eggseminar.html