ふり返りの意味で、前のエントリで書いた料理人さんに送ったメール内容をここに引用しておきます。
各位
やまけんです。
「専門料理」等でこれまで書いてきました、歴史上初といえる、グラス中心の肥
育をした土佐あかうしの「強力」号が1月17日に出荷する運びとなりました。ま
た、2月後半にはもう一頭の「優男」の出荷もあります。本メールは、この土佐あかうしの肉の販売についての宣伝をさせていただくもの
です。ご関心のない方へは、ご迷惑となるかもしれませんので、破棄していただ
いて構いません。もしお時間のある方は、しばしお付き合いをいただければあり
がたいです。以下、長文になります。
■土佐あかうしのこと
私は岩手県の短角和牛の母牛を所有し、毎年その牛から生まれる子牛を肉牛にし、
出荷しています。だいぶ短角和牛の特性が分かってきました。短角和牛はサシも入りますが、より
赤身肉の部分にある旨み成分に重点がある牛品種といえます。その一方で、高知県にいる褐毛和種、「土佐あかうし」との出会いがありました。
褐毛和種(あかげわしゅ)は、熊本系であるくまもとあか牛が有名なのですが、
もう一系統あって、それが高知系とよばれる土佐あかうしです。くまもとあか牛
は4万頭程度いるのですが、土佐あかうしはたったの3000頭程度です。そして、肉質は熊本系と高知系で全く違います。高知系の特徴は、サシの入り方
がかなり強くなる傾向があり、黒毛よりも小ザシ傾向です。そして、脂肪融点が
低い。県が分析をしたところ、脂肪融点が低くなる遺伝子を黒毛よりも含んでいるそう
なのです。従って、サシの美味しさの後、さっと脂が溶けることで赤身の旨さも
味わうことができる、バランスのよい肉だといえます。
■普通はコーンなど輸入穀物をたくさん食べる土佐あかうし
ご存じとは思いますが、日本の畜産のほとんどが、米国産コーンを中心とする
輸入穀物を食べて育っています。また、粗飼料と呼ばれる草のたぐいも、輸入が
圧倒的に多いことをご存じでしょうか。つまり「和牛」といっても、食べている
のは外国のたべものという牛がほとんどです。土佐あかうしも、通常は専用の配合飼料(輸入穀物中心)を与えて育てます。私
はこの部分がどうしても許せませんでした。「高知の牛だというなら、高知で穫れる草や穀物を食べて育つのが本道ではないか?」
しかしそれはなかなか大変なことなのです。まずコスト的には、国産の草や穀物
は高くつくので、肉の価格が倍くらいになってしまいます。じゃあ放牧して、手をかけずグラスフェッドで育ててみたらどうでしょう?
残念ながら、現代の牛は改良がすすみ、穀物を食べないとやせていく品種が多く
なっています。黒毛和牛などはその最たるものです。土佐あかうしも、完全な
グラスフェッドで育てようとすると、とれる肉の量が少なくなり、結果的にキロ
単価を上げなくてはなりません。しかも、放牧させると運動になり、余計に肉が
つかないのです。
■歴史上初の、グラス中心肥育をした土佐あかうしの誕生!
でも、、、
どうしても国産度が高く、またグラスをたっぷりたべた赤身中心の土佐あかうし
が食べたい!という希望を伝えたところ、高知県の畜産試験場が応えてくれたの
です。「やまけんさんのお望みの飼料設計で二頭の牛を実験的に育てましょう!名付け
親になってください!」なんという英断でしょう、、、こうして、「強力(ごうりき)」と「優男(やさおとこ)」
という二頭の牛を育ててもらうことになりました。「飼料設計をどうしましょうか?」(試験場の責任者・尾石チーフ)
できるだけグラス中心がいいんじゃないでしょうか。
「うーん、でも100%だと、赤身ばかりになります。土佐あかうしの美味しさは
脂にもありますから、わざわざサシを入れないのはちょっと抵抗があります。そ
こで、配合飼料を通常の1/3に落とし、稲ワラや青草などをたっぷり食べさせる
という、グラス中心の育て方にしてはいかがでしょう?」なるほど、これはいいと手を打ちました。
実は、完全なグラスフェッド牛もいいものですが、赤身ばかりになってしまいま
す。その風味を好きな人も居ますが、土佐あかうしの脂の特徴が生きません。
そういうことから、「グラス中心、配合飼料もちょっとあげる」という方向にな
りました。「こういう試みは実はこれまでしてきませんでした。日本の肉の格付基準がサシ
と歩留まりですから、、、わたしら、土佐あかうしに関わってきた者も、どんな
肉になるのかわかりません。」ということなので、これは歴史上初といえる肉になるのです。
■どんな牛に育ったか?注目の1月17日
その強力に、さる12月に現地で会ってきました。出荷一ヶ月前ですから、どーん
と横幅が大きくなっているのが普通なのですが、もともとグラス中心なのでスリ
ムです。けれども、これまで数え切れないほどの土佐あかうしとつきあってきた
尾石チーフがボソッとおっしゃるのです。「この牛、かなりいい仕上がりだと思います。小柄なんですけど、肉質はいいと
思いますよ。」もう一頭の優男は、優しそうな顔立ちにおとなしい性質、立派な体格の牛なので
すが、もっと大きくなりそうなので、2月後半に出荷となりました。強力が出荷されるのは1月17日、来週の火曜日です。いったいどんな肉になるで
しょうか。それをぜひ、味わっていただきたいと思っています。
■強力の販売について
1月17日にと畜した後、土佐あかうしを取り扱う業者としては昇り龍といわれる、
三谷ミートさんが肉を引き受けてくれます。東京の卸売業者さんが半頭分を買う
ことに決まっていますので、残りは半頭分です。ただし、ロースに関しては大阪の熟成肉専門店「又三郎」さんが買い予約を入れ
て下さっているので、確保はできません。申し訳ありません。その他の部位で、もし欲しいと思われる部位があったら、ぜひお買い求めいただ
きたいのです。試験場も、売買の代金で研究費をまかなわねばならないので、肉
が売れないとどうしようもないのです。私は名付け親として、強力と優男を売り
切ってやらねばなりません。これまでの育て方とは違う肉ですから、正直言ってどんな肉質になるのかわかり
ません。が、言い方を変えてみれば初物であります。ぜひ、お買い求めいただけ
ればと思います。