で、一つ前のエントリ書いたとき、すぐに会社を出ないと行けなかったので書けなかったけれども、日本橋高島屋の地下一階の催事で、三重県フェアをやっている。そこに。、この紀和町ふるさと公社のクラヤさんがやってきて、熊野地鶏とさんま醤油などを売っているのだ!
昨日電話したら、「熊野地鶏はよく売れるんですが、さんま醤油が全く売れません!」と言っていた。うーむ
実は! 僕からすればこのさんま醤油がおもしろいのだ!
「さんま醤油」とネーミングされているが、これは魚醤である。魚醤は魚を高い濃度で塩漬けし、それを半年~数年間置いて醗酵させることで液体化したものを絞ったものだ。タイのナンプラー、ベトナムのニョクマム、そしてギリシャやイタリアで古代から使われていたガルムなども魚醤だ。日本では秋田のしょっつる、能登のいしるなどが有名だが、どれも基本的な製法は同じだ。
このブログでは秋田県男鹿半島で、ハタハタ100%のしょっつるを生み出した諸井醸造所を紹介してきた。
■https://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2009/07/post_1343.html
日本における魚醤文化はいろんなところで萌芽が始まっている。おもしろいのは、あまり魚醤という食文化がなかった地域での魚醤の取り組みが出てきているということだろう。例えば、漁業の盛んな街で、市場に引き取ってもらえずあふれるB級品をなんとか有効活用したいとか、そういう動機で魚醤作りをしてみましたというケースがけっこう多い。
一昨年、北海道のある地域の農商工連携の結果、造られた商品を評価したことがあるのだけれども、そこでなぜか魚醤を出してくる企業が多かったのだ。ホタテなどの貝類や、あまり魚醤化されてこなかった魚種をつかったもの。
「なんでこの地域でこんなに魚醤がつくられてるの?」と思っていたら、どうやらある研究機関が、どんな魚種でも魚醤にする技術をもって、この辺を廻っているのだとか。
ただし、一つだけそれらの魚醤に残念なことがあった。それは塩だけで仕込むのではなく、麹(こうじ)をつかって醗酵促進させることだ。そのせいか、味噌や醤油によくにた麹香がついてしまう。それによってアミノ酸度は高まり旨み成分いっぱいになるのだけれども、端的に言ってしまうとどれも似たり寄ったりの味になっちゃう。麹の風味はとても強く、洋風の料理にはあまりあわないな、という限定的な使い方しか思い浮かばなくなってしまうのだ。
どうやらこの製法だと、麹の力で醗酵の管理がしやすいらしい。ということで、この「さんま醤油」もきっと麹系なんだろうあ、と先入観を持っていたのだが、、、
違った! ふるさと公社のクラヤさんが、翌日宿から案内してくれたのは、小学校の廃校跡を利用した製造設備だ。ちなみ取材時はここだったが、そのすぐ後に、製造設備を違う場所へ移設しているはずだ。けど、この場所とっても風情あり。
はい、私が製造担当です!と、このさわやかな青年。
いいねぇ小学校!きっと日が暮れてくるとちょっと怖くなる感じ(笑)
残念ながら原料となるさんまの漁獲シーズンではなかったので、仕込み自体は見学できなかったが、さんま醤油の製造に関してはつぶさに見ることができた。
魚醤は、残渣というか骨や肉の滓のようなものが上に溜まっていくことが多いので、下に蛇口がついたこの形式のタンクで仕込まれることが多い。
蓋を開けると、、、
アンチョビペースト状の滓が層になって浮かんでいる。この部分は本当にアンチョビみたいなものなので、イタリアンのシェフは使える調味料であるはずだ。誰か使いたい人いないかなぁ。
しばらく上の部分を放っておくと、ガビガビに固まる。
この亀裂の入ったところを見ると、まさにアンチョビペースト!
これをまたかき混ぜかき混ぜして、1年半以上寝かせていく。それを固液分離し、濾過して火入れをした上でボトリング。
この澄んだ琥珀色の液体になるのだ!
「いやーしかしこれが、いったいどうやって使ったら旨いんやっちゅうのがよくわからないのか、よう売れないんですわ~」
というクラヤさん。そりゃそうだ、魚醤は、その使い方をきっちり説明しなければ売れないよ。
で、このさんま醤油を持って帰って、使ってみました。極めて美味しい!さんまって、意外と上品な魚なのネと思ってしまうほど、魚っぽい香りが抑えられている。かといって麹も使っていないので、味噌っぽい風味は無し。クリアに上品に、魚の香りがふんわりとする。
そして意外にも塩分濃度を濃く感じないのだ。逆に、旨みは上品ながら強い!
これ、どういう味だっていって売ってるんですか?と聴くと、「ええまあ普通の醤油として使ってみてくださいって言ってますが、、、」
それじゃ売れないよ! だってあきらかに醤油じゃないもん。
これはパスタなど麺類用のソースです。ビアンコでもロッソでもなんでもいいので、パスタを造る際の味の決めに使うと絶品。だって、アンチョビをよく使うけれども、魚醤はアンチョビをもっと発酵させて液体化したもの、なんだから!
ということで、パスタ好きなかた、または焼きそばでもいいや。このさんま醤油、仕上げに使ったらアンチョビ要りません。どんな味でもまとまります。本日、僕も昼ちょっと前に日本橋高島屋に行ってクラヤさんに会ってくるつもりだ。
魚醤だけじゃなく、熊野地鶏も売っているらしいので、ぜひ味わってみてください。このふるさと公社、ほんとに素直に実直に商品を作っている。応援したいと思う。