今年、ニコンが満を持して発売したニコン1シリーズは、レンズ交換可能なミラーレス機の中でも実にユニークな存在だと思う。というのは、他のメーカーがあくまでデジタル一眼レフ機で実現してきたことをそのままミラーレス機で踏襲しようとしているのに対して、このニコン1システムは全く違うアプローチでシステムを開発しているような気がした。
一言でいえば、ちょっと先の未来からやってきたカメラだ。
先日、新聞記事でこのニコン1を都内の美容室に置いて、お客さんの髪の仕上がりの写真を美容師が撮影したのを、SDカードごともらえるというサービスをしているというのを読んだ。これ、なかなかに上手いアプローチだ。カメラマンでもなんでもない美容師さんが、シャッターおすだけで綺麗に撮れちゃうということを表現しているのだろう。でも、ホントこのカメラなら、それが可能なのだ。
1インチサンズのセンサーは大きからず小さからず。マイクロフォーサーズより小さく、かといってコンデジよりは大きい。うーむ結構中途半端だなぁ、と最初はあまり興味が湧いてなかった。ただ、ニコンの現行レンズとのアダプターも発売されるので、それが出ればサブのサブ機にはなるかという期待があったくらいだ。
そして届いたこのカメラを手にして、すっごく戸惑った。普通のデジカメにはあるはずの、撮影モードのPASMが書いてあるダイヤルがない。俺は絞り優先で撮りたいんだけど、と思ってメニューをいろいろ探してみるが、なんだかよくわからない。ホワイトバランスやISO感度を確認したいのにボタンがない。
そこでハッと気がついた。そういやオリンパスのE-PM1も、ダイヤルがないから仕方なくカメラ任せで撮影したら、割合簡単に撮ることができた。もしかするとこのカメラも、カメラに任せてしまったらいいんじゃないか。そう思って、とりあえず静止画モードというのを選択して、構図を考えてシャッターを押してしまえと割り切ることにした。
その結果! ものすごく快適に撮影することができるようになったのだ。例えば「東京バルバリ」の、実に低照度での料理撮影。
1/15秒ですよ。意外に、ぶれてない。それに、ちゃんと奥はぼけている。全般的に、当たり前だけど、ニコンっぽい画になっています(笑)
この写真↓なんか、ISO2500ですよ!この絵、撮って出しではなくてRAWをSilkyPixでホワイトバランスだけいじって現像したけど、ノイズリダクションはかけてない。ということは、かなりノイズ少ない、、、
いろんなところで書かれているけれども、高感度特性はあきらかにいい。マイクロフォーサーズ機よりも高感度ノイズは少ない。低照度下でも手持ちで十分、いける。それは主に画像エンジンの性能の両方の恩恵だろう。D3以来のニコンの高感度技術がここに結集したという感じだ。
これはISO2200。片手でフォーク持って撮ってるのによく止まったな、、、しかも肉の線維のディティールは潰れていない。
もちろん高感度だけじゃない。っていうか、このカメラの未来性はここからだ。
世界初の撮像面位相差AF機能と、物理的にシャッターをパコパコ動かさないで済む電子シャッターのすごさは使ってみないとわからない。とにかくミラーレス機とは思えないほどのAF速度なのだ。オリンパスのPENシリーズのAF速度もすさまじく速いが、それをあきらかにしのぐAF速度だ。
あとはシャッターがスゴイ。といっても最初、何のことかわからなかったんだけど、説明を読んでいく内にゾワッとしてしまった。シャッター方式を、通常のミラーレス機と同じメカニカルシャッターと、電子シャッター(エレクトロニック)のどちらかを選べる。この電子シャッターがスゴイ!
まず電子シャッターを使うと、ミラーレス機特有の「パコペッ」という、二回シャッターが切れてるような音がしない。電子シャッター方式で無音で撮影すると、これまでのシャッターは何だったんだと思うくらいに静謐だ。
しかも、なんと最速で秒間60コマの連続撮影ができるのだ。
同じような画像が並んでいるのがわかるだろうが、これはNHK宮崎内の食堂(美味しくて安い!)のおっちゃんがフライパンで炒飯をあおっているところを撮った画像を並べている。これが10コマ以上並んでいる。これだけ速い速度で撮影できるならば、炒飯がうまく空中を舞っているのを選ぶことも容易だ。しかもなんと、JPG画像だけじゃなくてRAW形式のファイルも同時記録できる!
ちなみに関係ないけど、そのNHK宮崎の食堂で食った親子丼と漬け物炒飯。
こんな凄いスピードを実現するためには、現段階では画素数やセンサーサイズが大きいと信号を送ることもままならないだろう。そういうことで1インチセンサーと現在の画素数のバランスが決められたのだと思う。
で、冒頭に書いた美容室で仕上がりを写して云々の部分だが、なぜそれが可能なのか?このカメラのウリの機能の一つなのだが、スマートフォトセレクターというのがある。これは、シャッターを押した前後20コマをなにもいわずに撮ってくれ、その20枚の中からよく写っているものをカメラが5枚セレクトして、記録するというものだ。
この機能、「カメラがいいと思う画像を選ぶ」というのがキモだ。僕も数回試したのだけれども、例えば顔が向こうを向いていたり目をつむっていたり、ぶれたりしているものはたしかに除かれるようだ。逆に言えば、目をつむってるシーンが撮りたいとかいうのには向かない(そんなの無いと思うけど)が、だいたい一般的に、こういうシーンではこう写って欲しいという写真が選ばれるみたいだ。使い込むまで借りていないのでなんともいえないが、ニコンはこうした様々なシチュエーションでの撮影データを相当に集め、自動判別できるようなロジックをデータ化しているらしいので、かなり信頼度は高いのだろう。まあ、僕はこの機能は使わないと思うけれども、例えば母ちゃんのような、デジタル音痴な人にカメラを持たせようとか思ったとき、この機種はかなり使えると思う。
ということで、このカメラは、センサーの性能と画像エンジンの性能、そして瞬時に合うAF性能の三つを備えたことで、とりあえずカメラ任せでかなりいい絵が撮れますよ、というカメラととらえるべきなのだと思う。そう考えてみると、いきなり楽になる。
ちなみに今回、EVFが内蔵されているV1を借りたが、大正解だった。
やっぱり、ファインダーを覗いて撮影できるのはありがたい。手を伸ばして背面液晶をみて構図するよりも、眼と鼻骨の間あたりにカメラをがちっと押しつけておけるので、ゆらゆらしないのだ。それに、EVFの性能は極めて良好だ。これからのミラーレス機の上位機種にはEVF必須でお願いしたい、、、
ちなみにレンズは、単焦点の10mm(28mm相当)と、ズームレンズの10-30mm f/3.5-5.6を使用した。10mmはそうとうに寄れるみたいなんだけど、あまり使ってない。昆虫カメラマンの海野さんが撮ったニコン1使いこなしガイドの写真をみてビックリ。最短撮影距離が短くて、けっこう背景がぼける。
ということで、誌面では短くて伝えられなかった感想を書きました。どちらかというと、一眼レフを使ったことがないような、カメラ初心者のほうがこのカメラを使いこなせると思います。先入観ないほうが、楽しめる!