うちのオフクロは熟した柿が好きで、トロトロになるまで待ってたやつを剥いて出していた。子供の頃は、手がネチャつくのが嫌だったけど、大人になってからはなんと旨いものなんだろう、と思う。いまちょうど出盛りですナ。
三重県伊勢市の蓮台寺(れんだいじ)地域に、この地域で連綿と伝えられてきた「蓮台寺柿」という柿がある。伊勢市が指定天然記念物に推す、堂々たる柿だ。
蓮台寺周辺は民家が建ち並ぶが、その合間を縫うように柿の園地がある。平地にも、山肌にも、隙間があると思ったら柿が植えられている。
雑誌「料理通信」編集長の君島さんと一緒に、蓮台寺柿の生産を束ねる会長さんに案内をしていただく。
蓮台寺柿の形にはいろいろバリエーションがある。この形は平型というらしいが、ふくよかでどっしり安定した形状だ。
会長さんが「まあまあ、佳い柿を探しちゃるから」と言ってハシゴを駆使し、収穫も終盤の園地内の旨いと思われる柿をもいでくれる。
といっても、もいだ柿をそのまま食べることはできない。渋柿なのだ。そういや子供の頃は勝手に人の家の柿の木に登ってもいで食べていたが、たまに激シブなのに当たって、口の中をタンニンの渋みいっぱいにして呻いていたものだ。
けれども、渋柿も樹上でやわらかく熟れると、シブを感じなくなる。
「これなんか旨いぞ」
ともいできてくれる。
会長の園地は低い樹高で枝を横に展開させていて、葉が太陽光をたっぷり吸収できるように仕立てている。背が低いから収穫もしやすそうだ。
通常は一本の枝に10玉程度の柿がつくが、美味しさを優先するために1玉にする。つまり9玉は摘果し、捨ててしまうのだ。そうすることでぶっくり太った、甘さの詰まった柿になる。
「さっそく、家で食べよう! 渋抜き設備も見せてあげる」
この作業場の黒壁の建物、中に入ると立派な蔵であった!
ここに、脱渋(だつじゅう)設備がある。渋柿のシブを抜くには、いまでは炭酸ガスをムロに注入し、そこに柿を置いて密閉する方法が広くとられている。下の写真が、ふたを取ったムロだ。
昔は焼酎などでもシブを抜いていたそうだ。脱渋のメカニズムは不思議なものだ。アルコールや炭酸ガスに柿を触れさせると、内部にアセドアルデヒドが発生する。これがタンニンと結びつくことでタンニンが溶け出さなくなり、結果的に甘さしか感じなくなるということだ。つまりシブは抜けているわけではない。溶けなくなっただけ。
しかしその結果、激烈な甘さを感じることができる。
「蓮台寺柿は、渋柿やからこんなに美味しいのよ」
と会長も言う。
シブの抜きたてよりすこし置いておいたものは、絶妙な食感になる。ネチーっと歯が通っていくあの感覚がたまらない!けれども、最近の若い人たちはパリパリした状態のを好む、とも言われていた。あなたはどちらがお好きですか?
さっきの熟れ柿を奥様が剥いてくださる。奥様はこの近くから嫁ぎ、これまで蓮台寺柿の選果と出荷担当として会長と二人三脚してきた。「この地域の柿のおかげで私たちは佳い思いしてるから、蓮台寺柿を残していかなきゃ」と、柿にふかい感謝の気持ちをあらわにしておられた。うん、佳いなぁ、、、
もうね、たまらないよ!
このトロントロンの甘くて冷たいマグマ、この時期にしか味わえない。
「あら、冷凍しておくといつでも美味しいのよ」 ああ、そうでした!そんな楽しみもあるのでした。
もひとつ、この辺の干し柿は4つわりにして陽に当てずに干す。陽に当ててアミノ酸を発生させなくても十分に甘いので、陽に当てないことできれいな柿色のままで干しあげるのが大事なのだそうだ。
なるほど、通常の干し柿よりあっさり目だが、これも美味しい。
県の普及員さんと一緒に技術を磨きながらの産地形成。
興味のある人はもう今の時期が終盤なので、探してみてください。
会長、ごちそうさまでした!そして今日も伊勢路を行きます。