熊本空港に着くと、県庁のナイスガイ・杉村君が待っていてくれた。
彼は「料理王国」のブログの、九州特派員みたいな立ち位置で記事を投稿したりしていた異色の人。彼が居なければ第一回赤肉サミットの熊本参加も危うかったと思う。今回は宮崎北部の出張前に、くまもとあか牛関連の情報収集のために立ち寄ったのだが、思わぬ旨いものと、懐かしの場所への再訪が叶ってしまったのだ!
阿蘇はやっぱり佳い!
いるだけで気分がよくなってしまう、土地の力の強い場所だと思う。僕の農業の最初の師匠である「ぽっこわぱ農園」がここ阿蘇を選んだこともよく理解できる。ぽっこわぱの主であるドニー&佳子夫妻はフランスで出会い、有機農業をしながら一緒に生きていこうと決めた。佳子さんの両親に会うために日本に来たドニーさんは、成田空港のタラップを降りた瞬間に叫んだという。
「なんという強い力!わたし、日本で農業やりたい!」
そして千葉県で、日本初のバイオダイナミック農法を実践する農場を開いた。その十数年間のうちに、高校生の僕も足を運んだのである。ある時ドニー&佳子夫妻が講演に呼ばれて長崎へ行ったとき。初めて九州に降り立った時、やはりドニーさんが叫んだそうだ。
「うわーお、なんてすごい力のある土地!わたし、九州で農業やりたい!」
その後、いろんな縁で熊本の長陽村に居を見つけることとなり、5町歩程度の面積で有機農業を実践している。大学時代僕は毎年、ここに畑サークルの学生を連れて合宿を張った。まさしく青春の地である。
その熊本と、あか牛の関係でつながりができるとはその当時全く思っていなかったが、面白いものだ。
まずは南阿蘇で、周辺で飼養されたあか牛の直売&焼肉店となっている「あか牛の館」へ。
ここで、先般の赤肉サミットに参加&肉を出品していただいた、井 信行さんと再開。
井さんは国産飼料100%のあか牛飼育に情熱を傾ける方だ。阿蘇では広大な土地で牧草栽培が可能なので、イタリアンライグラスなど栄養価の高い粗飼料を低コストで手に入れることができる。これに、麦類やヌカ、おからなどを合わせて給餌することで、国産飼料100%を実現できている。もちろん頭数は少なくて、完全な100%国産は年間で10頭未満であり、75%とか50%国産の牛はもう少し多く出荷できている。
先日の赤肉サミットでは、彼の100%国産飼料あか牛が実に面白い評価を得た。肉を焼いてくれた青山「ランベリー」の岸本シェフは「むっちゃくちゃ旨いッスよぉ!」と気に入ってしまい、今もランベリーでは出してくれているはずだ。いまある肉がなくなるとしばらく入手できなくなるみこみなので、気になる人は予約をして足を運んでみて欲しい(もう亡くなってたらゴメン)
さて、昼飯をどっかで食べようということで移動していたのだが、杉村君がアタリをつけていたところがことごとくダメ。予約必須の店ばかりだったのだ。参ったなぁ、、、
「じゃあ、こっからちょっといった長陽村(ちょうようむら)に、お母ちゃんのお煮染めとか食わせる店がありますから、そこ行きましょう」
と井さん。そこも予約制らしいのだが、なんとかなるでしょうとのこと、、、
ええっ 長陽村に行くの? 心の準備が、、、と慌てつつも、この成り行きを楽しむ僕。ぽっこわぱ農園には、きちんと「そのためだけに」行くものだと思っているので、ここ数回の熊本来訪時も「ついでの」訪問は控えてきたのだが、、、ここまできたら連絡するか、と思ったわけだ。
さて、長陽村で井さんが昵懇にしているというのが、ここ「しゃえんば食堂」。しゃえんばとは「菜園場」とのこと。つまり農家の自家菜園だ。自分とこ用に作った野菜や惣菜を食べさせるよ、という意味。こんな店が長陽村にあったんだっけ?とビックリ。
きけば、ここは鍼灸院だったところを改築してできたそうだ。あ、そういえばドニーさんはひどい腰痛持ちで、針に行ってたなぁ、と回想。その鍼師の先生がお亡くなりになった後、写真家の息子さんがお母ちゃんに「料理やをしてみたらどうか」ということでこうなったそうだ。詳しくはWebを。
■しゃえんば食堂 http://shaenba.com/
案の定、勝手口からとびこみで挨拶すると、「予約制なんですよぉ~」という声が。でも、井さんはここでも顔であった!
「うーーーーん、信行さんを追い返すわけにはいかないからなぁ、、、じゃあ、正規の料理じゃなくてあり合わせになるかもしれないけど、よろしいですか?」 と、切り盛りをする男性。
うわっ もちろんそれで結構です! ということで入れたのであった! 井さんの顔に感謝!
週に3回しか営業しないそうで、完全予約制。しかも美味しい煮染めを作るためにはある程度の人数分を仕込まねばならないため、4人以上の来店がないと営業はしないという方針だが、それでもこの日はほぼ満杯!そんな横に、席をあつらえていただいた。
このしゃえんば食堂の主、長野ミエさん80歳! この方、南阿蘇では有名で、観光ポスターのモデルにも!
このミエさんが作る昔ながらの阿蘇の味の料理を、大皿ではなく現代的な感覚で盛りつけして出してくれるのがこの食堂のミソだ。
今日は急だったで、あまり綺麗に飾れんかもしれんけどゆるしてな、と。信行さんもミエさんも、どちらも阿蘇を代表するキャラクターなのだ。
さて、お料理は思ったより多種類出てくる!まずはメインディッシュのお煮染め。
ここらへんではいりこ出汁でにしめるのだそうだ。そのいりこだしも、煮干しを煮だしたところへ、鉄の棒を真っ赤に焼いたのをジュッと入れる。そうすると、いりこの生臭さが消えるという言い伝えを守っているそうだ。
これも絶品、この辺で穫れる「地キュウリ」。加賀太キュウリのような太さに半白だが、内部はマクワウリのように瑞々しい。苦みもない。これは美味しいキュウリだ、、、
ナスとニガウリの味噌炒め、なます、ピーナツ豆腐、干しタケノコとインゲンのきんぴら、真ん中は青菜数種を茹でて味噌であえたもの。
この、青菜の味噌和えが実に旨くてご飯おかわりしちった。味噌和えってなかなかないでしょう、、、しかもお祖母ちゃんの手造り味噌ですよ。出張一日目じゃなけりゃ、味噌買わせてもらうところだ。
柿なますとずいきの酢の物も美味しゅうございました。
ちなみにご飯はぎんなんご飯!
品数は香の物あわせて10品以上!
もちろん季節によって変わるけど、これは素晴らしいお膳ですよ! しかも、結構満腹になります。それでなんと1500円。たまりませんな、、、
こちら、阿蘇出身で、東京で百貨店勤務や居酒屋経営などを経て阿蘇に戻り、このしゃえんば食堂を切り盛りする「堂守(どうもり)」を任ずる村上さん。この人のセンスが、多分に食堂のカラーとして出ているのだろう。いきなりの来訪なのに、とても楽しませていただきました!
さて、しゃえんばを出て、少しだけ顔を出すためにぽっこわぱ農園へ。
ドニーさん、よっちゃん、よしこさん。かわらねぇなぁ、ホントに。
ドニーさんの前に座ると、僕はいつも、自分がとてつもなく小さな存在だということを実感してしまう。ここではいつまでたっても僕はペーペーです。
わずかな滞在だったけれども、来て佳かった。いつも温かく迎えてくれてありがとう。今度、ゆっくり行きますよ、、、