東京商工リサーチなどで倒産速報が出ているが、安愚楽牧場が飛んでしまったようだ。肉牛の業界では先月頭くらいから噂に上っていたのだけれども、まさかこんなに早くとは思わなかった。
この問題、和牛預託商法ということで、これに投資していた消費者への救済をどうするかということばかりが取り沙汰されているようだが、金融商法としての安愚楽牧場についてはここでは述べない。それよりもこちらからすれば、「安愚楽牧場は日本最大級の肉牛繁殖事業者だったということの方が重要だ。
繁殖というのは、母牛を持ち、種牛の精液を購入して人工授精し、子牛を得てこれを販売する形態だ。いまは同社のWebはみられないが、だいたい黒毛和牛を15万頭を保有しているという言い方をしていた。これが母牛だけなのか、子牛も含んでいたのかはよくわからない。ただ、その頭数規模が甚大であることは確かで、日本の黒毛和牛の子牛生産の大きな一翼だった。
安愚楽牧場が本当に倒産してしまった場合、債権整理として現存する牛たちがどのように引き取られていくかということに、いま関心が集まっている。国内には安愚楽牧場以外に、2つの大きな繁殖事業者がある。そこを中心に引き取られていくのだろうか、とも思う。ただ、牛肉の市場がこれまで以上に混乱することは間違いないだろう。
いま黒毛和牛を中心とする日本の牛肉市場は、かつて無いほどの冷え込みをみせている。先日、和牛コンサルタントであり獣医である松本大策先生と久しぶりに話したが、彼が応援している群馬県の肥育農家の黒毛和牛が、A5の格付けを得たにも関わらず、芝浦市場で一頭20万円にしかならなかったそうだ!本来は100万円以上ついているべきところである、、、素牛(もとうし)つまり子牛購入だけでも普通は40~50万くらいするのだから、赤字とかいっているレベルではない。
じつは僕は日本には牛が多すぎる、と思っている。こんなにじゃぶじゃぶ、高級品であるはずの黒毛がいるから牛肉の価値が低くなるんだよな、と思ってきた。ちなみにいま日本にある肉牛の45%程度が黒毛和牛だ。単一品種としてはトップなのである。高級品でもなんでもない、いちばんありふれた牛の品種といってもいいのかもしれない。ちなみに僕がこのブログで書いてきた短角牛や褐毛和種は、全体のたった2%未満である。
本来牛肉は月に2回くらい、ありがたがって食べるものだろうと(僕自身さいきん食べ過ぎだけど)思う。本来、肉牛は減っていい。けれどもこういう問題が起こる時、自分のスタンスを思い悩む。産地の人達の顔もよく知っているから、彼らにむざむざ「辞めちゃいなよ」なんて言えるわけ無いからだ。
だからこのエントリは、大きなニュースに触れたショックで漏れたつぶやき未満。そういう風に思って下さい。でも、大きな話だから、これを機に肉牛の世界がまたいい方向に変わっていくといいね。