今月の「野菜の学校」のお題は信州野菜。講師の塚田先生はレタスの育種をしていた人だそうで、今度はレタスの話を聞きたいものだ。
長野県人は「信州」という言葉に非常に愛着があって、だからこそ「長野伝統野菜」ではなく「信州伝統野菜」なのだそうだ。ちなみに信州は伝統野菜が非常に多いのだけれども、その理由は「冷涼な気候であること」と切り離すことはできない。冬が厳しいところでは、雪に閉ざされる間に保存食を確保しておかねば命にかかわる。だから、秋から冬の入り口で収穫した野菜を長期保存する術が発達したし、それに向いた品目が導入され、品種が選抜されてきたのだ。食べ物と地域性は密接にかかわっている。
信州というとまず野沢菜が想い出されるかもしれないが、地方野菜好きの観点からいえばカブとダイコンが豊富であることにつきる(ちなみに、野沢菜もカブである)。これら二つのアブラナ科野菜は寒冷地でも栽培することができ、しかも保存に向くことから、寒い地域では保存食の伝家の宝刀的な扱いでよく作られていたからである。そして、アブラナ科野菜は他の品種と交配しやすいので、谷を越えたらまた違う形のカブとダイコンがあるというくらいにバリエーションが増えたわけだ。その中から、農家や地域で好まれる形状・性質のものが選抜され、固定されてきた。
この王滝かぶもその一つだ。
寒冷地ではこのように赤い蕪がよくみられるが、これは植物が凍らないようにアントシアン色素を発現するからだ。僕はこの赤紫色が大好き。
さっそく家に帰って塩で下漬けして、ぬか床にいれた。実はぬか漬けはちょっと邪道で、王滝カブの地元・王滝村ではこれをカブ部は酒粕漬けにし、葉茎部はすんき漬けにする。すんきとは、塩を使わずに乳酸発酵させた、この地域特有の伝統食である。よく京都のすぐき漬けと混同している人を見かけるが、すぐき漬けはカブの品種も違うし、第一塩を使うので、全くの別物だ。
そして、この日の食べ比べはこのきゅうり。
八長(はっちょう)きゅうりというこのずんぐりした黒イボきゅうり。こうした形質の在来きゅうりが、信州ではかなり広範囲にわたり残っているそうだ。ちなみにきゅうりも、カブやダイコンのようにいろんな品種が存在していた品目である。
この八長きゅうりのシーズンはほんとうはもう少し先で、まだ小さいとのこと。大きくなると、樹とつながっている首のあたりは苦みが入り、皮も固く、内部は逆に軟らかくなっていくそうだ。しかし、若どりしたこの八長きゅうりをポリポリかじると、実に美麗な味なので驚いてしまった!
たまたま、切った個体が空洞ができてしまっていたけれども、ご覧のようにまだ皮も薄く、瑞々しい。うっすらブルームを吹いていることから、どうやらこれは自根栽培なのだろうと推測する。なにより、ウリ科の風味が非常に印象的だ。いいものをいただいてしまった。
もうすこししたら、八長きゅうりの成熟手前のものを食べてみたいと思う(きゅうりは成熟しちゃったらたべらんないからね)。楽しみだ。