■撮影 Nikon D700 タムロン90mmF2.8マクロ スピードライトSB700使用
この写真をみて、オヤッと思った人はいるだろうか。よくみかけるキュウリに比べ、ツルンとしていると思うかもしれない。このキュウリには、肌に普通出てくるイボがないのだ。
昨日、御徒町の某出版社に仕事で行った後、御徒町駅のすぐ横にある「吉池」を覗いた。僕はこの御徒町ならではの品揃えをしているスーパーというかビルが大好きで、意味もなくよく足を運ぶ。地下一階の野菜売場の充実度は目を見張るばかりで、なんともマニアックなものが並んでいる。シーズン中に白瓜が欠かさず置かれた売場なんて、なかなかない。場所柄、飲食店の需要が大きいのだろう。
その、瓜類の棚に「フリーダムきゅうり」があったので、思わず買ってしまった。しばらく前に宮崎の友人がツイッターで「フリーダムキュウリが旨い」と書いていたからである。僕は実はフリーダムを敬遠していた。けど、ここ数年は意識して口にしたことがないので、食べてみようと思ったのだ。
キュウリはもともと、実にイボが出るのが普通だ。そのイボには白色と黒色があって、いま主流の白イボは中国の華北、黒イボは華南にルーツがあると言われている。もともとは日本のキュウリは黒イボの華南系が主流だったが、これは寒さにつよく暑さにはそれほど強くないため、冬の終わり頃から初夏にかけて収穫するものだった。
それを、昭和中頃の品種改良の流れの中で、夏以降も収穫できるものをということで白イボ系のものが出てきて、世間はあっというまに白イボに変わっていったそうだ。この辺の話は、かなり前に、日本の育種業界の重鎮であるI先生に伺った。
キュウリについて語るべき事はいろいろあるのだけれども(自根とか台木とか)、ここではそれはやめて、イボのことを。キュウリのイボが植物学的にどんな役割を果たしているのかは僕も知らないが、畑で収穫する時のキュウリのイボはビシビシと刺さるくらいに尖って痛いものだ。それが、収穫後から流通段階でだんだんと獲れてしまい、最終的にはこんな感じで潰れてしまう。
キュウリを使う食品業者にとって問題なのが、このイボの潰れた部分から細菌が入って繁殖してしまいやすくなることだ。キュウリの劣化はイボから始まるのである。特に問題となったのがサンドイッチ業界。たしかにサンドイッチにキュウリは欠かせない。サンドイッチと野菜というのは非常に難しい関係で、パンという食材は水気を含むとぐんにゃりしてしまう。一方、野菜はそのほとんどが水分で構成されている。離水をどのように調節するかと言うことに加え、細菌繁殖も考えなければならない。
そこで、「キュウリのイボってとれないのかねぇ」というテーマが出てきたのだろう(→推測ですが)。
改めてフリーダムの肌をみると、確かにツルンと綺麗なのだ。
これならいろんなメリットを享受できる。ということで、主に飲食業界に対して一定の需要があるのが、このフリーダムという品種だ。
ちなみに先に挙げたI先生いわく「フリーダムは美味しいかもしれないけど、、、個人的にキュウリにはイボがあるものだ、と思っている」とおっしゃっていた。それも、ちょっと苦い顔をして。先生は、高度成長期にどんどん地方品種を淘汰して、中央の品種とも言えるべきF1のスター品種を作っていく過程の中で、自分自身が切り捨ててきた地方品種のことを最近はよく考えるとおっしゃっていた。
「きゅうりも、昔は系統的なグループで地場品種が溢れていたんだ。例えば白イボ・黒イボ、北シ・南シ、地這い系とかね。それ以上に、同じ品種グループでも家によって少し形が違うというようなことがあった。加賀の国単位とか、村レベルで品種があったり、砂村ナントカというのがあったり。それに加えて自家採種する家によって違いが出ていたものだったんだ。
味も、もともとの特質として苦みの強いものから甘いもの、香りがあるもの、酸っぱいものまでいろいろあった。今は、、、特徴のあるキュウリなんてほとんど無くなってしまったね。」
こんな話を聴いたあとだから、僕はフリーダムを毛嫌いするようになってしまった(人に影響されやすいネ)。けど、久しぶりにフリーダムをボリボリ食べてみたら、素直に「悪くないね」という味だった。もちろん若干、普通のキュウリのテクスチャと違う感じがするが。
とりあえず3本、ぬか床に漬けてみた。浸透圧でどう食感が変わるか楽しみだ。