チキン南蛮といえば、いまや全国のホカ弁などでもラインナップにその名を連ねるようなメジャー料理になったけれども、これは実に立派な宮崎県オリジナルの料理である。宮崎の人たちにチキン南蛮の美味しい店を聞くと、いろんな答えが返ってくる。それこそ、鶏肉の胸肉を使うのかもも肉を使うのか、皮はついているか、大きな肉を一枚丸ごと揚げているかぶつ切りか、などいろんな分岐があって、店によってオリジナリティを出していることもあり、無限の広がりがある。
けれども、元を正せば、タルタルを使う「おぐら」を発祥とするチキン南蛮の場合、おぐらチェーン出身の職人さんが独立した店や、そこに教えを請うた人の店などというように、流派が存在するようだ。そして、その職人さんの流派ごとに宮崎でも派閥が分かれている。
でも、おそらく僕が一番好きな、いや好きだったチキン南蛮の店の名を口にすると、宮崎の人は「ええ?」という顔をする。そんな選択肢はないだろう!?という顔だ。
「魚山亭空港店」 「ぎょさんてい」と読むのだけれども、このグループが宮崎空港の3Fに出店する店だ。宮崎の郷土料理・居酒屋というような業態。魚山亭は県内に数店、そして東京でも渋谷や赤坂に出店するグループなので、名を聞いたことがある人はいるだろう。たとえば渋谷の神泉近くには「ひしゅうや」という店があるが、あれもグループだ。
けど、宮崎の人にとっては魚山亭は、わざわざ行くような店ではない感じ。むしろ観光客が宮崎の料理を食べたいという時に行くような位置づけらしかった。空港にある店はその最たるもので、おそらく宮崎県人がわざわざ足を運ぶような店ではない。
だからだろう、ここは超穴場だったのだ。他の料理はしらんがチキン南蛮がめっぽう美味しかったのだ。それはこのブログの過去ログ検索窓に「魚山亭」と入れて出てきたエントリを見ればわかっていただけるとおもう。多くのチキン南蛮タルタルソースが純白または黄色っぽい、ほんとうのタルタルソースであるのに対して、この店だけはなんだかピンク色がかったタルタルなのだ。宮崎の人もこのことをほとんど識らなかった。
いつも僕は東京から空港に着くなりこの店に入り、チキン南蛮冷や汁定食を頼む。もも肉をぶつ切りにしたスタイルのこの店、ご飯のおかわり自由なので、チキン南蛮ふたかけで一杯の割合で飯を食べる。最後のチキン南蛮一片を、3杯目の白飯に冷や汁をかけた上にのせる。そこに、少し余らせておいたタルタルソースをのせ(!)て、冷や汁にタルタルを溶かしつつ食べる。こいつが極めつけに旨いのだ。
それは、このタルタルソースがたんにマヨネーズなど油脂類だけの旨さで構成されているのではなく、そのピンク色のゆえんがあったからである。ここのタルタルにはトマトソースが混ぜられていたのだ。
魚山亭グループは、グループといっても各店の料理人がオリジナルに味を作っていたそうだ。これは、僕が最初の自分の食い倒れ本に魚山亭空港店を収録するときに、責任者に聞いた話だから確かである。で、空港店の料理人さんは、目新しさを追求したのだろう、トマトを加えたというわけだ。これが当たった。他にはないおいしさだったのである。僕も相当、宮崎の人に「あそこは旨い」といわれる店に連れて行ってもらったけれども、正直いって魚山亭空港店を超える店はない。
しかし、だ。残念なことにもうこのピンク色のタルタルには出会えない。魚山亭があったところは、「夢かぐら」という空港直営のレストランに変わっている。基本的なしつらえはあまり変わらないが、内装も手が入り、きれいな店に変わった。
覚えておいでだろうか、昨年の9月29日のエントリで僕は、この店のチキン南蛮の味が明らかに落ちた、心配だと書いた。
このときの僕の心配は、的中してしまった。どうやら魚山亭グループは民事再生だかなんなんだか、とにかく経営を放棄することになったそうなのだ。ただし、不幸中の幸いというべきか、東京で展開されている魚山亭グループは資本を分けていたらしく、健全に店を継続中である。
ただし、宮崎空港店は無くなってしまった。新しい店になったのを愕然としながらみて、それでももしかしたら料理人さんは一緒かもしれないと思って入る。レタス巻き元祖の一平寿司の村岡さんと桑畑君と一緒である。
みていると、基本的なメニューは変わらない。これならもしや、、、と一縷の望みをかけてチキン南蛮冷や汁定食で頼んでみる。
実は店内に入った瞬間、むかーし取材したときからいた、店長と眼があった。
「あっ やまけんさん! いやぁ、今回は本当に、、、」と向こうから状況を説明してくれた。経営は空港直営となり、料理人さんはすべて顔ぶれが変わったということだ。じゃあ、あのトマト入りのタルタルは、、、
「うーん、スミマセン。。。」
そうっかぁあああああああああああああああああ!残念!
ご覧の通り、はこばれてきたチキン南蛮にかかっているソースは、純白のタルタルであった。これはこれで、とても美味しい。いや、空港で食べるチキン南蛮にしては本当に上質な味。甘酢も酸味がビシッときいており、上品なタルタルながらたっぷりかかっているから、満足感も大きい。美味しいです。
冷や汁も、魚山亭時代のよりも上質な魚味噌を使っているようで、一ランク上の味である。
けれども、、、
僕が愛した、あのピンクのタルタルの味ではない。心の底から、残念だ。タルタルかけ冷や汁はこの日、試さなかった。
無茶なお願いをする。このブログの読者さんで、元・魚山亭空港店の料理長さんをご存じの方がいたら、是非教えてほしい。彼は空港店なきあと、どこかで料理人を続けていないだろうか?もしあの味に出会えるなら、、、僕は足を運びたい。識っている方、連絡いただけませんか。
あのタルタルを作ってくれるなら、僕はそのためだけに宮崎に足を運ぶ。ああ、食べたい、、、