蝦夷鹿サミットというイベントのため、昨日から帯広入りをしている。
ジビエ好きな人ならよーく識っているだろうけれども、鹿にもいろいろあって、都府県の山に生息しているのは本州鹿。そして北海道には蝦夷鹿(えぞしか)がいる。シェフ連中にきくと本州鹿はあっさりめで、夏場でもさっぱり食べられるが、年間通じてコクや香りには少し欠ける。その点、蝦夷鹿は風味が強く値の香りの濃さも強いので、メインの皿になりやすいということだった。
この鹿がいま、全国的に問題になっている。一番大きいのは、農作物を食い荒らす害獣としての立場だ。まあ向こうから観れば、人間が環境をおかしくした結果たべものが山になくなり、里に食べに来ているんだという立場なのだろうけれども、ただでさえ世間から叩かれている農業の現状に追い打ちをかけるように、作物を食い荒らしてしまう。シカもイノシシもサルも、人が収穫しようというまさに最終段階に食ってしまうから、手に負えない。そこで猟友会がおでましして駆除・間引きをする。結果、鹿の肉が出るが、これを販売して狩猟者の報償などに結びつけていきたいとは誰もが考えることだ。
しかし、天然の鹿肉、それも猟をする人によって撃った後の処理の技術レベルに差があることもよく知られている。できれば撃ってすぐさま放血したり内蔵を出したりすることが奨励されるが、環境によってはそれができないこともあるし、そもそも技術を持たない人もいる。だから市場に出回る肉のレベル差が大きく、安定供給もないため、使い手(料理人)なども「これじゃあ扱えないよ」とお手上げになってしまう。
一般の人には以外かもしれないけど、いま中山間地の農業において深刻な問題は、もしかするとTPPよりも鳥獣害問題かもしれないくらいである。
で、蝦夷鹿の話も同じ。十勝管内には17カ所ものシカの食肉処理施設があるが、ハンターの技量には差があり、また処理の過程もバラバラで、なんとかこれを一定水準にまとめ上げ、食材としての蝦夷鹿のレベルを上げていきたいと願う若衆がでてきている。
その中心人物がこの男だ!
日高山脈を彼方にのぞみながら、誇らしげにキジを掲げるのは佐々木章太クン。若干29歳の彼の経歴はなかなかにすごいのだ。
彼の実家は帯広周辺の男子が、デートで一度は必ずお世話になるイタリア料理「ELLE」。彼も、彼の兄もともに料理人だ。しかし弟の彼は、料理人としての修行をする内に、シャルキュトリーつまり加工肉の世界に魅せられる。とともに、ジビエ=野生肉の世界にも足を踏み入れた。彼は銃の所持許可を持つハンターなのだ。
そして彼はこの若さで、独自の加工工場を持つエレゾ・マルシェ・ジャポン社を立ち上げて、ハンター免許を持つ3人が自分で猟をし(また15人の契約ハンターがいる)、生ハムや各種加工肉を製造・販売している。
この男がたいしたヤツなのである。
ぼくは初めてであったのは「蝦夷豚」(えぞぶた)という放牧豚の視察をしたときのことだ。蝦夷豚というのは、十勝での農業の基本である輪作体系(同じ土地で単一作物ばかり作り続けるのではなく、野菜・豆・小麦などを順繰りに生産していくことで、土地の力を維持していくこと)の中に豚の放牧を取り入れたものだ。ブロッコリーなどの野菜を作った跡地に電柵を建てて囲い、その中に豚を放つ。野菜くずを食べてゆっくりゆっくり豚が育つ。カロリーが低いから、180日ではとても出荷体重にならないので、ほぼ365日くらいかけて育てる。そうしてできた肉は、熟度が高く深みのある味に仕上がっているのだ。
この蝦夷豚を一頭8万円という高値で買い支えている肉の流通があるといい、それがエレゾ・マルシェ・ジャポンの佐々木君だったのだ。初めて会った時の彼の、その筋の人間のようなビシッと鋭い目つきは忘れられない(笑)列席したみなが「誰これ?その筋の人?」と勘違いしたほどだ。
「これ、蝦夷豚の生ハムです」
と食べさせてくれたのが、しっとり熟成して旨みと香りが十分に醸成された、とても美味しい生ハムだった。何より彼が8万円という高い価格をつけることについて言った言葉が突き刺さった。
「生産者が誇りを持てる金額で買い支えないと、食の文化が壊れちゃうじゃないですか。食は文化なんです。突っ張ってでもその文化を育てていかないといけない」
30代前の若手でこんなやつが居るのか!とびっくりしたわけだ。以来、佐々木君とは仲良くさせてもらっている。彼のポリシーと、エレゾ社が扱うジビエの品質の良さに惚れた店は多い。同社Webの取引先レストランをみればそれはよくわかるはずだ。
■エレゾ・マルシェ・ジャポン
http://elezo.com/index.shtml
で、この佐々木君が蝦夷鹿の地位向上を目指して、地元の自治体や県レベル、農協組織にまで相談して立ち上がったのがこの蝦夷鹿サミットだ。
第一部では蝦夷鹿の現状についての座学、第二部は三人のシェフがレシピを提供しての、蝦夷鹿料理の競演。今回ぼくはこのサミットの第二部のコーディネーターとして参加したというわけだ。
三大シェフとはこのお三方!
北海道では識らぬ人のいない、「マッカリーナ」の菅谷シェフ。ご自身も銃を持ってハンターとなる人だ。
そして東京・中目黒にて”肉の熟成庫を持つレストラン”である「ラ・ブーシェリー・デュ・ブッパ」をもつ神谷シェフ。
もう一人は、奈良から来ましたおなじみ「イ・ルンガ」の堀江純一郎シェフ。
これに、開催場所である北海道ホテルの工藤シェフも加えた、計4名の料理を楽しめるという豪勢な会なのである。
というところで、これから3時間かけて北見へ移動します。また後ほど、、、