さて甚五右エ門芋のフルコース(に加えてご飯と汁をおかわり)した僕らに、その直後に爆発的な食体験が待っていた。
「やまけんさん、真室川ではキノコはとにかくすごいのが採れるんですよ!これから、原木キノコと菌床キノコの二軒を訪ねてみましょう!」
と、真室川町の大字大沢から大字新町へとすっごく近いドライブ。
そこにはどででででーーーーーん!と超立派なお屋敷が!
ちなみに、この辺は超・豪雪地帯なので、一階部分は埋まってしまう。ので、比較的新しい家は3階建てになっているか、一階部分が非常に高床になっているケースが多い。でもそれを差し引いても立派なお屋敷だ。
どうぞどうぞ、と通してくださったすてきな奥様に続いて家に入ると、、、な、な、なんだこれは!ものすごい分厚くて長くてでかい無垢材ばっかりで家の内部が組まれている!
ひええ、と恐れ入ってたら奥様がひとこと「うちは大工ですから、、、当たり前と言えば当たり前なんです」
ああ、そういうことですか!建設業を営む法人が農業に参入することはよくあることだ。ここも、建設土木がなかなか大変になってきたので、にわかに農業に転じキノコ生産を始めたのか、と思ったわけだ。
しかし! それは違った、、、そんな浅はかなものではなかったのである。
「どうもどうもぉ!」 と三宅清一社長が現れる。
「真室川はね、ほんとぉ~にキノコが豊かなんですよ!」
と言って次から次へといろんなキノコの話が炸裂する。
「うちは建設業をやっていますけどね、この辺では冬になるとぱったり仕事が無くなります。豪雪になりますからね、、、その冬場をどうするかというのが企業の存亡に関わるわけですが、それでキノコを思いついたわけです。実は私が生まれ育ったのは、この真室川の中でもおそらく一番、山の中に分け入ったところ。小学校まで1時間半かけて歩いて通ってたんです。そのころ、じいちゃんにキノコのとり方や保存の仕方を教わってました。あの美味しいキノコのことならなんでもわかるし、事業にしたらどうかと思いついたんです」
つまりこの三宅さんのキノコに対する愛情と知識とは、生まれつきの環境の中ではぐくまれたナチュラルなものだったのだ!先入観はいかんなぁ、と反省。
「じゃあ、ぜひ食べてみてください!うちのは全部、原木か天然ですから」
と、すでに並んでいるキノコ料理たちをみれば、これはもう本当に東京にいる僕らには全く分からないものばかりだった!
のっけからスミマセン、このキノコの名前分かりません(苦笑) ぬめっぬめぬめぬめとした大ぶりなキノコが淡く煮付けてある。なんとも魅惑的な食感。
出ましたナメコと菊花のお浸し。え?いつもみてるナメコと違う気が、、、と言うアナタ。市販されているナメコはおがくずや餌用コーンの芯などを粉砕して固めた菌床に菌を植え付けて栽培する「菌床栽培」で、しかもナメコの傘が開く前のもの。
本当にナメコが美味しくなるのは傘が開いてからなのだ。それが分かっている山形県内では、傘が開いて「うそっ!」と驚くほどのナメコが普通に売られているのだ。
これは原木だが、香りが違う!菌床栽培ものでも少しはナメコ特有の香りが立つが、原木ものはそれが非常に香ばしく匂う。香と言うより匂うと書いた方が伝わるだろう。そしてヌメッと来て、歯を立てるとシャクンと歯に触る。たまりませんのぅ。
「やまけんさん、これはトンビマイタケといいましてね、こっちの人は普通のマイタケよりもこのトンビマイタケの方が美味しいといって珍重するんですよ。」
へぇえええええ トンビマイタケ、知りませんでした。通常のマイタケよりも色が黒いが、一カ所にグワッと大きく発生するのはマイタケと同様だそうだ。ただしこのトンビマイタケ、そのまま放っておくとすぐに硬くなり、ゴムボールのような感触になってしまうらしい。
「だからすぐに料理してしまう必要があるんですよ。」
この天ぷら、食べて見ると、しっかりと味がついている。奥様に聴いてみると、
「これはねぇ、キンピラみたいに炒めて味付けしたものを天ぷらにしてるんですよ。」
なんと!炒めたキノコの天ぷら!?関東では普通やらないこの流儀、この辺じゃ当たり前だそうだ。しかしこの炒めキノコの天ぷらが実に美味しいのだ。火を通しているのにこのトンビマイタケ、食感をいささかも失わず繊維質が強い。ジャクッと歯ごたえを感じ、そして濃ゆい旨味、味がほとばしる。
「トンビマイタケに限らず、マイタケはねぇ、この辺じゃ余り珍しくないです。大きいものはこんな風になるんですよ」と三宅社長が見せてくれた写真をみてビックリ。
こんな、一抱え以上もあるようなのが穫れるそうだ。
「本当はご案内したい処なんですけどね、ここから車で1時間、そこから歩いて20分くらいはかかる場所で栽培をしているんで、今日は間に合わないなぁ」
というが、そんな奥まったところでやっているのか!
ちなみに原木栽培というのは、ホダ木と呼ばれる丸太を切ったものに菌を打ち込み、それを一年~二年ほど寝かせておく。丸太内部に菌糸が十分に張ると、低温や雷など、何かをきっかけにして発生するというものだ。きわめてアナログ的。一方、菌床栽培は工場のような施設内で瓶に入れた菌床を管理するというものなので、同じキノコ栽培でも全くやりかたや必要な設備が違うのである。
でも、建設会社で重機も使え、力仕事になれた男衆が居るなら、原木栽培キノコはビジネスとして面白いかもしれない。あ、でももちろん、三宅社長のような深い知識と技術がないとダメだろうけれどもね。
でました芋煮! さっき食ったばかり(飯も二杯、、、)だけども、キノコのヌメリと里芋のヌメリが合わさってトゥルンと食べられてしまう!
こちらはなめたけと豚挽肉をさっと甘辛く煮たもの。
白飯が食いたくなる味だ、、、
この辺で終わりかと思ってたら、奥様がなんとフルコースを用意してくれていたようで、キノコご飯まで出てきた!
世にこんな豪勢なキノコご飯があっただろうか(笑)
しかも一つ一つのキノコの香り(匂い)が濃く、まったくもって旨い!ご飯は餅米が何割かはいっているようで、もちんもちんと歯に食いついてきた。
「あとね、じつはうちでは養蜂もやってるんですよ!ちょうど、最高のアカシア100%の蜂蜜があるから」
蜂蜜の中でも最も優雅な香りと言われるアカシアの花の蜜100%の蜂蜜。
ほとんど透き通った透明な粘体である。本当にクセが無く、気品のある香りだ。実は三宅家の横の広場に蜂の巣箱が置いてあるのは観て知っていたのだけれども、本格的な養蜂業を営んでいるとは、、、
「まあいろいろやってるんですけど、こんなにいろいろあってもね、今年のような天気だとキノコは一どきに穫れてしまうから、大変ですよ。いっぺんにたくさん穫れると市場が溢れて売値が下がりますからね。そうでなくとも、私たち生産者は価格を叩かれる。」
きけば、直接に販売することができない分はキノコ専門の問屋に卸すが、そこからの流通で乗せていく価格があまりにすごい。生産者価格のおよそ4倍程度で小売に出ているのをみかけるそうだ。つまり生産者が販売する価格が500円だとしたら、小売段階では2000円になっているということ。キノコは選別などに手間がかかるものだから、相応の中間流通手数料が発生するとは思う。けど、さすがに抜きすぎじゃないの?とも思う。
そこで、三宅さんのところでは、Web上での販売も始めている。
■真室川きのこ本舗
http://www.e-kinoko.jp/
すでに販売終了している品目が多いけれども、原木ナメコは買うことができる!
「じゃ、時間もないことですし、家の脇にある原木所でちょっとナメコがなっている様を観てもらいましょう」
林の中を分け入っていくと、、、
これが伏せ込み中の原木だ。
「今年は条件がよかったのか、まだ出なくていいのにナメコが発生し始めてます」
あ、ほんとだ!ナメコがびっしりと出始めているではないか!
都市部の人たちはキノコが原木から出ているところを観ることもあまりないだろう。原木栽培のナメコはこんなふうに出るのです。
こちらが伏せ込みを終えて、発生条件を満たしている原木。
木の幹に白い点々が見えると思うけれども、これが菌を植え付けた種コマである。
そこから、徐々にナメコの赤ちゃんが出始める。
それが数日後にはこんな風にぬめっとした存在に成長!
そしてこんな風になるのである!
ちなみにここより深い山の中にある原木場では、こんなもんじゃないらしい。家の中で見せていただいた写真をみるとこーんな風景だそうだ!
なんかここまでいくとナメコには見えない、、、(笑)
「ナメコのぬめぬめはね、裏返した時にみえる軸から出てる透明な膜のところがすごいんだ」
と言うのがよく分からなかったんだけど、裏返してみたらわかった。
一番したのやつが、そのぬめぬめ膜がめくれているのでわかるだろう。ここに最大のヌメ要因があったのだ!
それにしてもやっぱりキノコは神秘的。そして美味しい。三宅さんのように愛情を注ぎたくなる気持ちも分かる!
「今日はゆっくりできないんで、また来ます!」と約束をし、お別れをする。奥様、美味しい手料理をありがとうございました!
さあ、旅もいよいよ最終地だ。
「あのねやまけんちゃん。マッシュルームは菌床、なめこは原木、そして最後にヤマブシタケの菌床栽培を観て欲しいんだ。ここは、菌床は菌床でも、その辺から菌を採取して栽培しているっていう、最上ならではの菌床なんだよ」
えええええええええええええそれは面白い!
荒木正人社長は、これまたキノコに人生を賭けた人だ。
「ヤマブシタケは美味しいんですが、独特の苦味があります。ところがこの鮭川村の山奥で私が出会った個体が、苦味がなかったんです。これを培養しようと試みて成功したので、製品化したんです。」
これがヤマブシタケの菌床栽培風景!なんともシュールな形状です。
「もっと面白い個体もあるから、また培養したいと思っているんですよ」というが、非常に面白い試みだと思う。ふつーのキノコじゃ面白くないもんね。
こちらはマイタケの菌床栽培。マイタケの菌ももちろん自分で採取したものだ!
このマイタケ、ちょっと色が淡いと思いませんか?実はこれ、「とび色マイタケ」というこの会社だけの製品で、黒ずんだ色ではないのである。実はマイタケは黒っぽいものが多く、煮るとその色が煮汁に脱色してくろずんだスープになってしまう。このとび色マイタケはそれがないというのだ。
「まあちょっと試食してみてください」
ということで、ヤマブシタケととび色マイタケをごちそうになる。
これ、キノコに見えますか?ヤマブシタケの純白さ。煮て冷ましたものを裂くと、まるでカニやエビ肉のよう?味はごくごくアッサリしているから、ドレッシングなどで味をつけるのがベースになるけれども、歯触りが独特の心地よさを持っているので、面白い食材だ。
そしてとび色マイタケの美味しそうな色が、これ。
うん、確かに煮物にしたときに綺麗だ、、、菌床ものと言うことで味わいが薄いかと思ったら、風味もかなりよい。
「もっといろんなキノコ資源がありますからね、いろいろ開発してみますよ」
という荒木さんに期待!
この後、3時半の新幹線に乗るべく猛ダッシュしてもらった。実は今回、写真に出てきていないのだけれども、高橋ノブさんと同期の県職員、高山さんにアテンドしていただき、大変にお世話になった。
「なんかねぇ、庄内の鶴岡とかは食材ですごくヒットを飛ばしているんですけど、最上のこの地にも面白いものがたくさんあるんだってことを打ち出していきたいんですよ!」
という熱意、感服しました。予告しておくけれども、最上はもっとゆったりした日程で、きっちり仕事抜きで純粋に食材を見て回る旅をしたいと思った。現地の皆さん、またお会いしましょう。
本当にありがとうございました!
■撮影データ
オリンパス E-5
ズイコーデジタル14-35mmF2.0、 50mmF2.0
ストロボ FL-36R
一番最初の原木ナメコの写真、ファインダーを覗くことができないくらいの超ローアングルだったのだけど、E-5にはバリアングル液晶モニタがあるので、ライブビューで撮影した。いまではキヤノンやソニー、ニコンも追随しているけれども、ライブビューもバリアングルも、デジタル一眼レフで初めて実装したのはオリンパスなんだよなぁ、と改めて実感する。やっぱりE-5はフィールドに持ち出して真価を発揮するカメラだと思った。