さる9月16日、大阪は天満の「スフィーダ」にて、熟成焼肉「又三郎」の大試食会が開催された。荒井さんから招待状をいただいたとき、こりゃあ豪儀なことをするなぁ、と思ったけど、「又三郎」が取り組んできた熟成肉の技術が一つの安定期を迎えたと言うことなんだろう。
これは何が何でも行く!カメラ持って行くから写真撮らせて!とお願いしたら、荒井さんから「ちょうどいいわぁ、写真撮っていただけますかぁ?」ということだったので、堂々とカメラマンとして撮影させていただいたのである。
さすがに「又三郎」だと収容人数が少なくなってしまうので、会場は大きな店。スフィーダ・ラチーマはイタリアンなのだが、荒井さんが「ここは!」と思った店だそうだ。たしかにすごーくシック。
店に入ると、さっそく中で熟成肉焼き職人の大森さんが仕込み中。
今日は多量の肉を焼かないといけないわけで、3時間以上前からの仕込みが始まっていた。
出た!又三郎で使われている大型七輪と、ベコンと真ん中が盛り上がってしまった焼き網!これで3cm厚の肉塊を焼き上げるのだからすごい。
今回楽しみなのは、土佐あかうしだけではなく但馬牛(この日は宮崎牛)も妬いてくれるということだ。この二種の食べ比べ、非常に関西的で興味深い。東日本であれば、岩手県発祥の短角牛を食べるのが理にかなっているが、西日本は兵庫県が黒毛和牛のルーツだし、褐毛和種も熊本と高知の二産地が含まれている。だから又三郎の肉の構成は非常に地の理にかなっているのだ。
この焼きの様子をじっと眺める、「瓢亭」の高橋義弘さん。
今回誘ったら「ぜひ行きたいです!」とご一緒したのだ。ちなみにドライエージングビーフを食べるのは初めての体験となるそうだ。
「ああやって焼きはるんですか、はあーっ なるほどぉーっ」
と、憑かれたように窓から離れない。料理人である。
会場がいっぱいになり、会のスタート。
荒井さんのご挨拶の後、フードシステムの古田先生のお話。
「アメリカの食卓」で識られる作家の本間千恵子さん。荒井さんが本間さんの大ファンなのだ!
乾杯の音頭は岡山フードサービスの岡山社長。関西で高品質牛肉の供給では非常に有名な会社だ。
かんぱーい!
で、おいしいスプマンテをいただきながら、前菜。
■前菜 熟成肉のカルパッチョ~蕪とアジアゴの白い花びらを散らせて
6週間熟成させた土佐あかうしの内もも肉。で、右上にみえるタルタル状に細かく切ったのは、食べ比べ用としてほとんど熟成されていない、と畜から6日目のもの。
大型家畜である牛の肉は、うま味が出るまで時間がかかるので、6日のものは味けがない、、、はず! なのだけど!
向かい側にいる、土佐あかうしの供給元である三谷ミートの専務が「うーーーん やばいっ!」という顔をしている。
「なんで?」
「うーんと、今回出した若いやつってのがメスのものすご~くいい個体だったんですわ。 いや、熟成させてるほうもかなりいいものなんで旨いんですけど、こっちの若い方も旨くて差が出ないかもなぁって、、、」
ほんと?と思いながら食べてみる。
でもやっぱり熟成肉は役者が違う。あえてチーズをふっているけれども、これがなくてもいいくらい、奥深い香りがたたえられている。アメリカ人が「Beefy」と評するあの香りだ。
でもたしかに、食べ比べ用のタルタルはと畜後間もないというのに、うま味と酸味が強くて美味しかった!
「いやー 焦りましたわ。去勢牛のほうが味が劣るから、そっちもってきたらよかった」
ほんと、そうしておいたほうがわかりやすかったかもね。けど、三谷ミートさんは気に入った相手(つまり土佐あかうしを美味しく料理してくれる店)には本当に優しいので、旨い肉が届いてしまうのだ。これはまあしょうがない(笑)
会は和やかに進む。
■熟成ラルドの香りを乗せたインカのめざめ
熟成肉の脂を塩漬けしてつくったラルドが柔らかな透明のフィルムのように乗っている。その下にはジャガイモ「インカのめざめ」のニョッキ。
これが存外に美味しかった。これはスフィーダのシェフの手によるものだけど、今度この店の料理も食べに来ないとね。
ここで、我らが高知県が誇る、元・現場バリバリの獣医にして、現・土佐あかうし担当の公文氏のお話し。
土佐あかうしがどのように生まれて育つのかという話と、「牛さんとは」という、獣医じゃないと話せないリアリティのある講話。参加者皆さんふむふむとうなずいていた。やっぱり獣医ってモテルンダナーと密かに思ってしまった(笑)
■熟成肉の黄金コンソメ
これにはビックリした!
実はこのコンソメ、熟成肉の周りの、黒変したあのガビガビ部分と同じく骨でとったコンソメなのだ。以前ここでお伝えしたように、静岡のドライエージングビーフ先駆者「さの萬」さんの方式だと、ガビガビ部分はこんなコンソメを煮出すことは無理。けれども、菌をつけないでゆったり熟成させる又三郎方式は、周りも利用できるとするならば、非常にコストパフォーマンスに富む熟成方式であると思ったのだ。
そのさの萬さんのお話し。
ドライエージングに人生をかけた東西の先駆者ここに立つ、という感じだ。
調理場ではいよいよ最後の焼きが終わり、あとは寝かせて切り分けて出すだけ。
さあ来ました!
■熟成肉4種食べ比べ
(未熟成の土佐あかうし・6週間熟成の土佐あかうし・未熟成の黒毛和牛・7週間熟成の黒毛和牛)
左から二番目の、熟成あかうしの肉のしっとりした断面、内部の均等な火入れが素敵だ、、、
それにしても一番右にある黒毛和牛(宮崎牛)の断面はやっぱりサシが大きく噛んでいるのがよく分かる。どちらかという土佐市の中にぽつぽつと赤身が浮いているという感じもする(笑)けど、これが熟成によってどれだけ旨さが出ているのか。
実食中の写真はありません、あしからず。だって一切れずつしかないから真剣勝負なんだもーん
土佐あかうしは、先と同じく未熟成のものがあまりに品質がよかったのだけど、それはさておいて。やっぱり熟成にかけたときに大きく「映える牛肉」だなと感じた。熟成させずとも美味しい土佐あかうしの身質に、熟成香がつくことによって深みが三段階くらいは増すのだ。美味しい、、、
しかし個人的に黒毛にもびっくりした。正直、やっぱり脂質のくどさは変わらんなぁ、無くていいなぁ、脂。と思ってしまったけれども、それでも赤身部分の深みは飛躍的に増大している。メロンのようななんというか官能を刺激する香りがある。
黒毛はもう飽きた、とここでさんざん書いてきたし、いろんなところで発言してきた。けど、もう黒毛は見たくないほど嫌いかと言われるとそうとはいえない。やはり「これは旨いな」と思う黒毛和牛に出会うことはあるのだ。増体系でもない、資質系でもない、ただ但馬牛の血を色濃くひいた食べて美味しい黒毛和牛にまた出会いたいものだ。
ということで、
又三郎さんの熟成肉の美味しさはもうかなりの安定度に達したと言っていいだろう(ただし個体のばらつきはしょうがない)。今後ますます美味しい熟成肉で頑張ってください!荒井さんごちそうさまでした!