やまけんの出張食い倒れ日記

指宿に来て、今回も温泉には入らず。観葉植物部会との再会と、かて飯を連想させる小牧蕎麦の美味しさ!

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朝一番のリムジンバスで羽田に着き、ラウンジで2時間ほど原稿を書く。実は出張前のラウンジでの仕事が一番はかどるのだ。

それにしても指宿は遠い! 例によって10分ほど遅れて、鹿児島空港から1時間ほどで市内にでて、鹿児島中央駅から単線の山川行き列車に乗る。

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この旅には、ニコンがさきごろ発売した、超広角ズームレンズである16-35mmF4を借りてもって来た。 キヤノン、オリンパス時代には超広角レンズも持っていてたまに使っていたのだけども、ニコンのフルサイズ機向け超広角レンズには12-24mmというバケモノレンズしかない時期が長く、超高性能だけど重くて使えない!ということで手を伸ばしていなかった。この16-35mmは全ズーム域を通じてF4と無理をしていないせいか、大きさはそこそこあるけど、軽い。ワイド端ではけっこう歪曲があるけど、純正のRAW現像ソフトであるCaptureNXⅡで現像時に自動ゆがみ補正をかけると、レンズデータを読んで修正してくれた。

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ああ、これこれ。このどかーんと風景が入ってくる絵って、やっぱり超広角レンズならではだ。懐かしい。僕の写真ではあまり広角な表現をしてこなかったけれども、レンズがあればもしかするとやるのかもなぁ。うん。やっぱりこれは買いなレンズかも。本当は、もっと軽くて小さい単焦点の20mmとか18mmってのがあれば事足りる気もするけれどもね。

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二月田駅で下車。お迎えはとっても垢抜けてキュートな女性。みちみち話を聞くと、いずれ実家の農業を継ぐつもりらしい。そこには悲壮感も無理も一切無い、「えぇ、うちがカボチャとオクラの農家なんで、、、今も作業やってますけどね」と淡々としている。美人でサッパリしていて、こんな人が農業を継ごうとしている指宿という地域は、鹿児島の中でも特別農業が強い地域だと改めて思った。

指宿には縁がある。大学院を卒業する前だから97年に僕はここに来た。当時、月刊「農耕と園芸」誌に書いていた連載を読んだ改良普及員である山内氏(その頃、指宿勤務)が、「ぜひインターネットが観葉植物の流通にもたらすインパクトを話して欲しい」と僕を呼んでくれたのだ。でも時はちょうど修士論文の提出間際。 うーん 鹿児島くんだりまで無理ですなぁ とお断りしたけれども、山内氏はその頃からねちっこく「そこを何とか!」と食い下がる。

じゃあ、いくかあ。 けど、ぜったいに指宿の美味しい郷土料理を食べさせてくださいよ。 あぁ、そんなことならいくらでも! そういうやりとりの挙げ句 僕は、指宿へ飛んだ。

観葉植物とは、オフィスやかっちょいい美容室とかに飾られてる、鉢植えのアレカヤシとかクワズイモとか、ジャックと豆の樹とか幸福の木とか、あれだ。ようするに花の咲かない、葉を鑑賞する鉢植えをいうらしい。農産物(野菜・果物)の流通の話とは偉く違うので面食らったことを覚えている。

傑作だったのは、約束が履行されなかったことだ。そう「美味しい郷土料理」の約束。

「やまけんさん、実はね、連れて行こうと思った郷土料理屋さんが今日にかぎってお休みなんですよぉおおおおお」

えええええええええええええええええええええ

そして懇親会はなぜか、鹿児島なのに讃岐うどんのうどんすき。 それでも私はたくさん食べました。その後、二次会でなぜか鹿児島ラーメン。「番番」というその店名物の鉄鍋ラーメンというのを食べたのが初めての鹿児島ラーメン。これがなかなかに旨い。

「もう一杯お代わり!」 と二杯食べました。山内氏、いまでもその二杯目を食いきったときの驚きのことを話してくれます。けど俺にしてみたら、当初の話と全然違うオチに、心底びっくりしたよぉおおおお(笑)

そしてこの2月、山内さんに紹介してもらった指宿のソラマメ農家さんの取材の前に、観葉植物部会の選果場に立ち寄ったら、居たのである!13年前に僕が来たときの役員さんが!

「じゃー こんど話をしに来てもらわんとなぁ」

そして今、ここにいます。指宿観葉植物部会の招きで、農産物sのマーケティングについてのレクチャー。13年前に会った記憶がうっすらある、という人がそこここに。なんか変な気分だ。

それにしても観葉植物のマーケットも、オフィスのリース需要がだいぶ減少しているそうだ。たしかに、不況時にまっさきに削減されそうなジャンルの一つである。果たして参考になる話が出来たかどうか、、、

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懇親会は、地元の めん処 小牧庵 。

実は会を切り盛りしてくれた佐藤女史が「うーん、、、郷土料理はあまり期待しないでください、、、普通のおそば屋さんなので」と仰る。おお、俺はつくづく指宿では、地元の味に出会えないんだなぁ、と思っていたのだが、、、そんなことはなかったのである!

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なんじゃこれは?と思われるかもしれないが、これはオクラ丼。大量のオクラをミキサーで滑らかなペースト状にしたものをご飯にのせ、オクラの醤油漬け、そして地元の漁港で上がったタコを沖漬けにしたものが乗っている。

「もう掘っても掘ってもオクラ、て感じで、薦められないんですけど、、、」

と佐藤女史がおっしゃるのを「いやいやいやぜひ食べたい」とお願いして別途注文させてもらった。

実は青果の産地としての指宿で最も重要な品目はソラマメなのだが、その後から収穫されるオクラも非常に強い。たしかに車窓からの風景で、トロロアオイのような可憐な、オクラの黄色い花がたくさん見えていた。その地元のオクラを使ってご当地どんぶりにするということを、市内のかなりの飲食店が組んで企画化している。そして小牧庵ではこのようにオクラをトロロ上にしたどんぶりを出しているわけだ。

これ、ナイスアイデアだと思う。だって、オクラをミキサーでペーストにしちゃうなんてのは、オクラ5本がネットに入ってていくらで買う消費地ではもったいなくてやらないでしょう。

「この時期、形の悪いオクラをコンテナ一杯もらってくれっていわれるんだよ。もう飽きたよ」

などという産地でなければこんな料理でてこないでしょう。

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アクセントがオクラの醤油漬けってのもナイス。

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わたしはこのオリジナルどんぶり、気に入りました。

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と嬉しく食べてたら、周りの人たちが「いや実はね」と言う。小牧地区という場所があるらしいのだが、そこの昔からの蕎麦の食べ方があるらしい。

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「ちょっと他と違うと思うんだけどね、盛り蕎麦の上に大根の千切りしたのをのせて混ぜる。それに、サバの節でとったダシを味噌でといた汁をかけて食べるんだ。」

えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ

なんだそりゃぁあああああああああああああああ??????

いろんな蕎麦の食べ方を見てきたけれども、この本州最南端に近いところで新たな食べ方に出会ってしまった。頼むから食べさせてください。

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ごらんのとおりの布陣。蕎麦の上に、軽く湯がいてあると思うのだけど、大根の千切り(刺身のツマよりは太く、食感が感じられる)が乗っている。

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小牧庵の女将さんが「大根を混ぜておくと胸焼けしないっていうことと、あとは蕎麦を増量して食べる先陣の智恵だと思います」と教えてくれた。

そうか! この大根は「かて(糧)」なのだ!

「かて飯」という言葉をご存じだろうか。まだ米がこんなに有り余るほどに収穫することができなかった時代、少ない白米を増量させるために使われたのが大根だった。大根を米粒より少しくらい大きいみじん切りにしたり、専用のスライサーのようなもので切りそろえたものを混ぜて炊き込んだ飯。それを「かてめし」と呼んでいたのだ。地域によっては「カデ」と呼んだりもしていたらしい。大根の形状、炊き方には地域ごとにバリエーションがあるのだが、これはてっきりご飯だけでやるものだと思っていた。

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しかし、小牧蕎麦のこのスタイルは、そばにおける「かて」ではないか!もちろん今や、そば粉は潤沢にあるから「かて」としての意味は消えているはずで、むしろ大根の風味や食感が加わることを楽しむものとなっているのだろう。でもそこに僕は「かて」の名残を感じてしまう。

しかも、つけ汁があまりにオリジナルではないか。

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さば節でとった濃いめの味噌汁。としか形容できない。そしてサバの身が切れ切れに浮かぶ。その汁だけすすってみると、プンとサバ特有の香りがする、個性的なつゆだ。これを、大根と混ぜて小鉢にとった蕎麦にかける。

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細平打ちの蕎麦に、意外に滑らかな大根の千切りの食感と香りが加わった麺に、サバの強烈な個性をまとった甘めの味噌汁が絡む。塩梅はけっして強くない。なのに、サバの風味の濃さがぐいぐいと蕎麦をすすりこませる。

絶品じゃないか!

食べていてしみじみ、嬉しくなってしまった。  僕がよく訊かれることがあって、「全国そんなに廻っていて、これが一番美味しかった!っていうのは何かありますか?」というもの。この日も訊かれました。正直、答えられない質問だ。だってどこにいっても同じものが出てこないから、比較できない。どれも面白いというしかない。

僕が「佳い」と思う食は、その地域の文化や、地理的な制約や、人のつながりの因果としてでてきた何ものかが、反映されたたべものなのだ。その点、小牧蕎麦は僕の食覚を大いに刺激した。女将さん、ごちそうさまでした。

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それにしても指宿の観葉植物部会は若衆が多い。

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あまりに気持ちいい連中だったので、珍しく二次会にも一時間だけ参加。愉しく帰ったら、温泉の入浴時間をちょうど過ぎたところ。

そんなわけで、温泉の街・指宿に3回も来ているのに、まだ一度も温泉に入っていないのであった。