月刊「養殖」というマニアックな雑誌をご存じの人は、よっぽどの業界人だろう。
食の分野ではどんな業界にも雑誌や新聞がある。米・野菜・畜産・水産などいろんな業界があって、そこに特有のメディアが存在しているのだ。ちなみに水産分野では日刊の新聞が2紙も存在していて、少なからず驚いたものだ。
で、緑書房から出ているこの「養殖」、内容はとにかく養殖魚の先進事例紹介や餌の特集など、その道の人には宝のような情報が掲載されている。
その「養殖」編集部の秋元君という気鋭の編集者と仲良くなって、いろいろ教えてもらっている。
「料理人さんは天然魚を使いたがりますが、実は養殖魚の食味はここ数年でそうとうに向上しています。安全性などの問題もかなりのレベルで向上しているんです。それを知らずに「養殖は美味しくない」という人が多いのですが、それが誤解だと言うことを知ってもらいたいと思って、「食べる会」を開催しようと思うんです!」
そうして、表題の会が行われる運びとなったのだ。第一回は鯛をテーマに、3種の養殖鯛を集めて料理をしてもらった。これがまたよく違いが分かる面白い会だったのだけど、第二回は「大型ブランドマス」。
会場となったのは中目黒の日本料理「いふう」だ。
同じ中目黒で営業している、ラ・ブーシェリー・デュ・ブッパ、そしてちょっと離れているけど、仲良くしているというイタリアンのリストランテ大澤の木村シェフが集まって、和・伊・仏の三通りの料理で養殖魚を美味しく料理しようという趣向である。すげー豪華。もちろんこれ、料理人、業界関係者または料理マスコミ向けの正体セミナーなので一般の人は参加していないのだけど、ものすごーく魅力的な会なのである。
二階に上がると、生産者さんの説明が始まっていた。
今回食べたのは下記の4種。
絹姫サーモン 愛知県淡水養殖漁業協同組合 (愛知)
信州サーモン 信州サーモン振興協議会 (長野)
魚沼美雪ます 新潟県にじます組合 (新潟)
ギンヒカリ ギンヒカリ部会 (群馬)
まずはこれらを刺身で食べ比べ。そう、国内の天然鮭は寄生虫の問題もあって刺身で食べることができないが、淡水養殖の大型マスは生食が可能なのである!これはアドバンテージ。
養殖魚の味は餌によるところ大で、餌に何を与えるかで臭さがでたり、脂ののりに影響が出たりする。農産物における肥料と同じだが、それよりもビビッドに違いが出てくる。また、そもそもこれらのブランドマスは実は掛け合わせが様々だ。
例えば絹姫サーモンは母方にホウライマス、父方にアマゴまたはイワナを掛け合わせる。通常だとこれら異種を掛け合わせると孵化しても成長しないそうだが、受精卵を温水に漬けておくと生まれた子が正常に育つという。このようにしてこれまでになかった掛け合わせによる、新しい味が楽しめると言うことなのだ。
だから今回の4種はそれぞれ違う種と考えていい。ちなみに信州サーモンはニジマス×ブラウントラウト。魚沼美雪ますはニジマス全雌異質三倍体、ギンヒカリは通常のニジマスの中から、通常なら二年で成熟するが、三年かけてゆっくり成熟する個体を選抜し、大型で身の締まった肉質になるものを作出したもの。
「よくわからなーい!」という声が乱れ飛びそうだけど、僕も勉強中なので関心のある人はぜひ月刊「養殖」を読んでみよう!
さて4種のサーモンの刺身は、当たり前だけれどもそれぞれ食味が違う。美雪・ギンヒカリはネットリした脂質が舌に感じられるこってり系。絹姫サーモンは肉質がぎゅっと引き締まった筋肉質。信州サーモンは脂質はそれほどでもないが柔らかで解けていくような食感。どれも餌臭さはほとんど感じない、レベルの高いマスだ。これが料理をするとどう変わるのか?
まずはリストランテ大澤の木村シェフ。彼が調理するのは信州サーモン。
少し塩で〆ると、食感と風味が劇的に変わる!モッツァレラが巻かれているので、チーズの油脂分がコクとなって、マスのうまさを増幅してくれる。
さて本来は肉モノが得意なブッパの神谷シェフも参戦中。
「養殖してる地元の皆さんがメニュー化できそうなのを考えました」
ということでいろいろ作っておられた。
マリネというが、この厚切りされたサーモンを噛むと、水分が抜けてぎゅぎゅっと凝縮された身質。
「これ、ぴちっとシートとかで脱水したんですか?」と聞いたら、ムフフと笑って「いいえ、ドライエージングですよ!一晩冷蔵でかけておいただけです」という。おお、そうかそうかサーモンはやっぱり吊しておくのがいいんだな。
いやそれはもう美味しいに決まってるわな、、、
こうやって、適度な脂の乗ったサーモンに外から異質な油脂を合わせていくのも面白い手法だ。
そして今回の会場を提供してくれた和食「いふう」の亀田さん。
亀田さんは海外にもよく足を運んでおられるそうで、こんなカリフォルニアロール風のものも難なくこなしてくれる。そう、けっこうアメリカとかで出されるロール系寿司って、すげー旨そうなんだよね。
鮭のしんじょう揚げ、外側はカリッと、内部はおそらくエビしんじょにつかう「卵の素」のような種を使っているのだろう、とろんとした感じ。サーモン系の素材は火を通しすぎるとバサバサになるけど、今回の料理人さんたちはそうならない一歩手前で味を引き出していた。
はい、次はパスタ。
■ほんのり温かい信州サーモンを添えた、新百合根の焼きリゾット
サーモンは皮が旨い!その皮をぱりっと焼いたモノをちょいと載せてある。
そしてこれは傑作。
麺が淡いピンク色なのはおわかりだろうか?そう、マスを練り込んだ麺なのだ!これが予想外に美味しい。麺自体にこくがあって風味を感じるのだ。具が要らない麺だね。
と、怒濤のように信じられないほどの種類の料理が振る舞われる。ものすごい会だ、、、
こんな取り組みを、なんと三店の料理人のみなさんは材料費だけの実費で、ボランティアで店を提供し、休日返上してやってくれている。なかなかできるこっちゃない。お金を払ってもいいくらいの会だな。特に、一般消費者の人たちの中には、そういう会があるなら勉強がてら参加したいと言う人も居るんじゃないだろうか。
ということで 月刊「養殖」、かなりいい雑誌です。興味がある人は是非!