地域デザインの巨匠と言っていいだろう、高知県の梅原真さんから楽しい本が贈られてきた。しかもこんな手紙つき。
はい、確かにいただきました。
梅原さんは主にご自分が起居する地である高知県の、一次産業に携わる生産者や流通業者さんたちの創り出すモノのデザインを手がけてこられた。それも単にパッケージデザインをするというだけのことではない。相手がやっていること、やろうとしていることがきちんと世の中の理に沿っているか、目指すべき方向を向いているかと見定める。思いと合致していないと思ったら、
「そんなん、アカンやないか!」
とプイッと怒ってしまって、以後まったく相手にしてもらえない(→これはホントのことだ)。
僕はまだ梅原さんとそんなに何回も会っているわけではないけれども、その怒りの一端を見たことがある。本書にも出てくるある島の、とあるレトルトカレー商品を作る際、地域のものを使ったホンモノを作らなければ意味がない、ということで、地域の海産物を煮だしたスープ・ド・ポワゾンを作り、それでカレーを作ったのである。それが大ヒットして数億円の商売になり、島の一大産業になったわけだが、そこで方向に狂いが生じた。
なんと、カレーを作る際の重要な要素であるスープを、その辺にあるチキンブイヨンに変更してしまったというのだ。しかもその理由が「お客さんから『ちょっと食べにくい味だ』という感想が寄せられたから」という、いったい何人の人がそう言ったの?という至極曖昧な理由だったそうだ。
その島で担当者集めての会議がある日の前日に、僕は梅原さんと呑んでいたのだ。もう、頭から火が出そうな勢いで怒っていた。
「食べやすくする必要なんかないんだ!それよりもこの地域で穫れるもので味を創っているってことのほうが重要なんだ!それがなんでわからんのや!」
後で首尾を訊いたところ、関係者を怒りまくってきたそうだ。そう、クライアントとデザイナーという関係じゃないのだ。うらやましい。俺もこれからはクライアントを怒るコンサルタントになろう、と心に決めたのだった(でもできてません、、、)。
だからイラストレーターの大橋歩さんは彼のことをアカンヤンカマンと名付け、ご丁寧にイラストまで描いている。
けれども、なにか琴線に触れることがあったり、世のためになることだったりすると「それならこうしたらいいんやないかぁ」と、コンセプトからプロダクトからコピーから、なにやらなにまでデザインしてくれる。県とか大企業が話しに来ても「んー 気に入らん。いいわ、断る」と言ってしまうのに、農家のおっちゃんに頼まれたら「やろうか」と腰を上げる(むろん厳密なセレクトがあるのだろうが)。そんな人だ。
運良く彼にデザインをしてもらうことができたモノやコトたちの話を、三重県できくことができた。あるセミナーで僕と梅原さんが呼ばれ、講演をしたのだ。その前夜、コーディネーターである東京農工大のフクイ先生が、「鳥羽の海鮮料理の美味しい旅館で三人で打ち合わせしましょう」といって僕らを呼び寄せた。夜、電車でついたら、ホームに降り立ったのは僕の他には長身・坊主あたまで黒長Tシャツに黒ジーンズのおっちゃんだけだった。駅を出て方角を間違え、20分くらいかかって旅館に到着。
「まあ汗でも流しなよ」
と大浴場に入ったら、その黒ずくめだったおっちゃんが居た。
「なんだ、やっぱり君がやまけん君だったか、違う方に行ってるから、違う人かと思って声かけなかったけど、悪いコトしたぁ!」
これが梅原さんとの出会いだ。翌日の彼の講演は、スゴイの一言だった。
面白いのである!しかもひとつひとつのプロダクトが、なぜそういうネーミングになったのか、なぜこのデザインになったのか、ということが明瞭にわかる。というより、梅原さんはおそらく、その商品が世の中に存在することで発生する様々な事象を頭の中で「妄想」し、それがある種の世界観として成立した瞬間に「これや!」と全てを決めていくという手法をとるのだろう。
以来、高知を訪れた際には、できる限り連絡をさしあげ、「もしお時間あればお顔を観るだけでも、、、」とお願いするようにしている。
僕は梅原さんの顔が大好きなのだ。いや、変な意味じゃないよ。
なんだか梅原さんと飲み・食べ・話しを伺っていると、「日本にもまだこんな面白いオトナがいるのだ!」とホッとするのである。40歳を間近にした僕が、こんなオトナになりたいと思ってしまう人なのだ。
さて本書はそんな梅原さんがいままで手がけてきた仕事大全である。
出版は羽鳥書店というところだが、編集デザインはやはり梅原デザイン事務所が全面的に噛んでいるだけあって、美しい!そして読みやすい!眺めやすい!
「えっ?あの商品て梅原さんのデザインだったの?」
という驚きがオンパレード。例えばいまや識らぬものの居ない(はず)、馬路村のゆずポン酢は彼のデザインである。そのストーリーも全て本書に書かれている。
この本、商品というよりは、「依頼人」との関係性についてがメインコンテンツであり、その中で産まれたコンセプトと商品のデザインがあしらいとして載っているという位置づけと考えた方がいいかもしれない。
日経BP社から、梅原さんに惚れた編集者が書いた、梅原さんの伝記(?)本も出て、そうとう売れているらしいけれども、そっちは読んでないので内容についてはなんともいえない。しかし、この「ニッポンの風景をつくりなおせ」は、第一次産業に関わっている人全てが読むべき本だと思う。