今回の口蹄疫発生・伝播を巡って、いろんなところで取りざたされているけれども、本当に腹立たしいと思うのは政治的な駆け引きの道具にも使われているようだということだ。
しかし、この先だれが政権を取ったとしても、口蹄疫の罹患国であるということは国際貿易の中で非常にマイナスになることであることを忘れてはならない。政治や経済やもろもろのことをおいてでも、とにかく早く収束させなければ国益を大きく損ねる話なのである。威勢よく「日本が誇る和牛を輸出しましょう!」などと言っていた人たちもいるが、それができなくなりますよ。
昨日、僕のブログを読んでくれたTさんからこんなメールがあった。ご本人の了解をいただいて引用する。
今回の宮崎の口蹄疫の件、発生が報道されてから、注意をして報道を見ておりました。数年前、韓国において口蹄疫が発生した際、私、韓国ではないですがフィリピンへ出張しておりました。その帰途、成田空港にて「韓国における口蹄疫発生のため、韓国からの肉製品(豚肉と記憶していました)の持込は一切禁止いたします。入管の際申告してください」との掲示を見ました。(全て没収だったはずです。)
もしかすると、今、世界中でこれと同じことが、日本を対象に行われているのでしょうか?
日本といえども、高級和牛などを輸出する農家・業者があると聞きます。肉製品を輸出する業者なども打撃を受けているのではないかと危惧しております。
関係者の心労も如何ばかりかと思います。私達にできることは、いたずらに騒がず、宮崎県、国の方々の行うことを応援(バックアップすること)なのでしょう。それしかできないことがもどかしい気もします。言葉は悪いですが、何とか宮崎県の中で済むよう、これが九州、そして、本州へと拡がらないことを関係者の努力に願うばかりです。
そして、関係者、処分に関わった方々の心のケアも忘れずに行って欲しいと思います。今日、口蹄疫に関するブログをよみ、思わずこのメールを書いてしまいました。突然のメール、また、乱筆乱文失礼いたしました。
はい、そういう心配があるわけです。本当に世の中というものはシナリオ通りに回ってはくれない。どんな事態が起こるかわからない。だから、日本という最小の単位の中で、せめて食べ物が自給できるようにしておくことは必要だということが、よくわかるわけです。
こんな話をしている最中に、塚原牧場の塚原昇社長からメールがあった。塚原牧場とは、あの梅山豚(めいしゃんとん)を飼育する日本で唯一の養豚業者さんである。
公蹄疫のブログも読ませていただきました。「いつ書くのかな~」と思っていました。やまけんさんも生産者の一人ですから、生産者の気持ちを分かっていただいて嬉しいです。しかし、本当に大変な事になりました。宮崎だけの問題ではありません。おっしゃるとおり、和牛は全国に向けた子牛供給基地ですし、豚は第2位の生産県です。
鹿児島と並ぶ畜産大国ですから、屠畜場や食肉業者や設備業者、運送業者や飲食や弁当業者に至るまで畜産業界で生活している人は沢山いるんですよね。畜産業者だけでなく、困っている人は多いでしょう。
うちも口蹄疫用の消毒薬もやっと手に入れました(品薄で入手できませんでした)。豚肉相場も上がってきました。が、しかしこれも口蹄疫の影響かと思うと嬉しくありません。兎に角、自分の衛生対策をレベルアップし、終息を祈るばかりです。
何か私にできる事ってあるんでしょうか?
あまりの被害ですし、私もアクションを起こさなければ という気になります。なんかブログを拝見し、いてもたってもいられない気持ちで、支離滅裂なメールになってしまいました。
このメールをいただいてすぐに電話して、こう話した。いま、口蹄疫がどうなっているというニュースがいろいろ流れているけれども、その被害がどんなものなのか、一般の人にはそのつらさがわからないと思う。それはひとえに日本の畜産業という仕事がどんなものなのかが伝わっていないからだ。だから、養豚とはどんな仕事で、どんな損失があるものなのかを、養豚家の眼からお話しいただけないか?ということだ。
塚原さん、真夜中に僕から出した質問に対話文を書いてくださった。養豚という仕事がどんなものなのかを理解して、今回の口蹄疫により被災した方々か今後どのような状況になってしまうのかをきちんと「想像」していただきたい。
塚原さん、全国で養豚に携わっている経営体は、農水省の統計によればH19年度で6,450戸。これは増えているのでしょうか、減っているのでしょうか?もし減っているとすればなぜでしょう?
ご想像通り、養豚の経営体はものすごいペースで減少しています。
日本養豚協会の最新の養豚経営動向調査によると、平成21年8月1日現在の養豚経営農家戸数は5272戸と、前年に比べ11%(651戸)も減少しています。毎年10%減少すると、5年で41%も減少する計算です。
ものすごい減少率ですね!
次に、全国の豚の飼養頭数は9,258,000頭。一戸あたり飼養頭数は平均で1,453頭ということになるそうです。この規模が大きいかどうかと言うことなのですが、たとえば肉牛と比較することにしましょう。和牛肥育農家の一戸あたり飼養頭数は93頭。豚とは10倍以上も規模が違います。そうなると、口蹄疫の疑似患畜が出たら、被害額はむしろ和牛経営よりも甚大だと思うのですが、いかがでしょうか?
和牛肥育農家は、通常子牛を購入して2年以上育てて出荷します。飼養頭数の約半分がその年に出荷されますので、年平均出荷数は47頭と推定されます。金額は仕上がり(格付け)によってばらつきますが、例えば平均80万円の場合、37百万円が年収(利益ではなく売上)となります。
養豚農家は、一般に自分で種豚を交配して肉豚を生産しています。平均的には100頭の種豚を保持していると、半年で約1200頭の肉豚にする子豚が生産されます。約半年で肉豚は出荷されますので、年間2400頭の出荷となります。
金額は和牛同様仕上がりによって格付けされますが、その金額は和牛のようには1頭あたりの差がありません。1頭当たり平均2万8千円、年収67百万円というのが平均でしょうか。
およそ養豚は和牛に比べて2倍の規模と言えます。さらに近年、養豚は規模の大型化が進んでいます。
うーむ
養豚農家の規模の大きさは一般の人にはちょっとわかりにくい。なぜならいま、町中に養豚場があるケースが少なくなっているからだ。牧歌的な、家の近くに小さな養豚場があった風景はどんどん無くなり、一件あたり数千頭という大規模な養豚場が、山の中に建っているというのが最近の光景だ。
それにしても驚きませんでしたか? 豚って一頭あたり平均でたったの2万8千円でしか売れないのだということに!そう、豚って本当に安いのだ。
母豚100頭もっていれば、年収6700万円程度という数字だけを観ると「すげーリッチじゃん!」と思われるかもしれないが、それは「売上」である。えさ代などのランニングコストを抜くと、平均農業所得は848万円(H19)。それでもサラリーマンよりいいじゃん、と思うだろうか?でも畜産って、お休みがないのですよ!?
さて、そんな養豚業を始める際にはどれくらいの初期投資がかかり、そして日々どんなランニングコストがかかるのでしょうか?また、そうした資金を養豚農家はどのようにして調達しているのでしょうか?補助金等はあるのでしょうか?
平均的な100頭の種豚を有して養豚を行う場合は以下のようになると思われます。
設備費として、
①主豚舎:約1000万円 (母豚が住むところ)
②分娩舎:約1000万円 (母豚が子豚を産むところ)
③離乳舎:約700万円 (子豚を母豚から離して、一定期間住ませるところ)
④肥育舎:約1300万円 (子豚を出荷可能な肉豚に育てるところ)
さらに、出てくる糞尿を処理する堆肥舎や飼料タンク、餌や糞を移動させたりする重機や備品に約1000万円は必要です。
つまり初期投資が計5000万円程度。
ランニングコストとしては、
①飼料費:種豚に年500万円、肥育に年5000万円が必要でしょう。
②衛生費:ワクチンや消毒に、年500万円程度かかると言われています。
③堆肥処理費:様々ですが年400万円程度は必要です。
④燃料費:分娩舎の暖房や、重機の燃料など年間200万円はかかります。
⑤人件費:家族経営では必要ないというのは間違いです 家族3人で働いて550万円は必要です。
⑥その他:保険・車検・税金など少なくとも150万円は必要です。
以上、ランニングコスト計6800万円
よって、年2400頭の出荷では1頭あたり28333円、さきの平均的な販売金額が28000円程度ですから、このコストでは赤字になります。
資金は、肥育豚を販売することで上記ランニングコストを支払っています。基本的に補助金などは全農家分はありません。販売先が全農の場合、飼料も全農から、薬品や燃料も全農から購入しています。資金も全農から借りることができます。しかし、全て全農取引となると独立性もなく、そこからはなかなか抜け出せませんね。
養豚の平均的な頭数である母豚100頭規模の経営だと、一頭あたりの平均販売額が28000円なのに、コストが一頭あたり28333円かかってしまう!完全な赤字。だから、大規模化せざるを得ないわけです。でも、大規模化すればするほど、ランニングコストは膨大な金額になります。何かが起こって出荷ができなくなった瞬間に、膨大な損失が出てしまう、、、
では自分の豚舎から口蹄疫などの疾病(しっぺい)が出てしまった場合、どのような損失があるのでしょうか?殺処分をした後に、彼らは再起できるのでしょうか?
口蹄疫がでたら全頭殺処分です。
そして、政府保証があるまで、それまでの飼料費や衛生費や燃料費を支払う必要があります。 政府保証も飼育していた豚に対して行われるでしょうが、種豚を資産として肥育を行う経営は、交配から出産まで約4ヶ月、出産後出荷まで6ヶ月という10ヶ月から約1年の期間が必要です。畜産は時間のかかる仕事なのです そうしたことから、再起は非常に難しいと言えるでしょう。
現場の情報が知りたいというマスコミが多いようですが、豚は衛生状態に非常にデリケートな動物なのですよね。立ち入りなどはもってのほかと思いますが、一般市民が知っておくべきこととして、詳しく教えていただけますか?
口蹄疫に代表されるウイルスは、人の動きとともに広がるといわれています。農場内に入場する車両、例えば飼料運搬車、燃料給油車、薬品の運搬車などは、停車位置で充分消毒後入場となります。
別の農場からの直入場はできません。
人は、基本シャワーを浴びてから 入場着からパンツまでこちらでご用意しています。別の農場に行った経歴がある人は、1週間は入場を控えさせていただいています。厳重なようですが、目に見えないウイルスと戦うための方策です。
僕もこれまでいろんな養豚経営と出会ったが、大規模になるほどに衛生管理は徹底している。電話口で「中に入って見学していいですか?」と尋ねると、だいたい一拍おいて「うーん、、、ちょっと検討させてください」と言われる。運良く入れてもらえるということになったとしても、「ではシャワーを浴びてください」と言われ、初めての時は本当に驚いた。全身を石けん・シャンプーで洗い、出て先方が用意してくれていた衣服を着用してやっと中にいれてくれる。出るときにはまた再度風呂に入る。
今でも忘れられないが、山形県で高品質豚を生産する農場に行ったとき、「入らせてもらうことはできるんでしょうか」と尋ねると、すかさず「一億円もらってもダメです。」と言われたことがある。その眼は真剣だった。
だから再度書くが、マスコミはぜーーーーーったいに勝手に畜産農家の敷地内に無断で入らないように! 取り返しのつかないことになるんだぞ。
さて、今後、口蹄疫などを発生させないためには、ウイルスが付着している恐れのあるものをシャットアウトしなければならないはずです。今回の口蹄疫発生の原因の可能性も言われていますが、稻わらや餌なども疑われていますね。現状、養豚で使われている餌にどのようなものがあり、それらがどこから来ているのか、そして理想的にはどこで作られたどんな餌が必要と思われるか、教えていただけますか?
養豚の餌は、半分がコーン、約10%が大豆粕です。残りの40%に何を食べさせたか?で「○○豚」という名前をつけられたりしています。たとえば飼料米を食べさせたら「おこめ豚」みたいな感じです。ただし、日本の養豚の餌は約95%が輸入です。特にアメリカから、、、
円安や、中国などの新興国需要で、世界的に飼料穀物の価格がまたもや高騰する危険性が言われています。
理想的には、飼料をできるだけ国で自給することが大切と思っています。現実、稲わらは日本の田んぼに沢山捨てられているのに、海外から稲わらを輸入してもいます。もっと国産飼料の検討をしていくべきと考えています。
豚肉は55%程度が輸入と言われています。デフレのあおりもあり、割高な国内産が売れていないようです。また、円高で輸入豚肉単価も下落しています。できれば、国産豚肉を買っていただきたいと思います。需要の増加が生産者を元気にします。
国産豚肉を買う。それが一番、養豚業者への応援になる。
「でも、どこに買いに行っても国産豚肉ばかりじゃない。」と誤解している人も多いだろう。たしかにスーパーなど小売店で豚肉を買おうとすると、国産のものが並んでいる。しかし、ハムやベーコン、ソーセージなどの加工品や、外食・弁当を買った場合、その中に入っているトンカツ等に使われているのはほぼ外国からの輸入豚肉だ。だって、おかしいと思わないですか?カレーに乗っているカツがなんであんなに安くできるのか、、、
つまり、国産豚肉の応援をというのは、「生の豚肉を買って家庭で料理して食べること」なのである。みなさん、今晩は豚汁と豚のしょうが焼きを食べましょう。そして肉屋さんで「宮崎県産の豚肉はないの?買って応援したいんだけど」と言いましょう。それが最大の応援だ。
ということで、、、塚原さん、本当にありがとうございました。
どうだろうか?養豚という仕事の抱える大きなリスクと、それにあまり見合ってるとはいいにくい収益構造の一端を少しはご理解いただけただろうか。
長くなったので、ひとまずはここで投稿します。