例によって例のごとく、その1のエントリから間隔があいてしまってすみません。
八女市星野村の後藤ふみこさんの体験工房にて、郷土料理をたらふく食べた、、、とおもったら!
「まだお腹いっぱいにしちゃダメよ~ これからふな焼きを作って、それから芋まんじゅうを作るんだから!」
えええええええええええええ そう来たか! そう、実はこの旅はもともと、前回来訪時に食べて感動した八女の郷土料理である「里いもまんじゅう」の作り方を教わるためのもの。それを、前回仕事の際にアテンドしてくださった農業改良普及指導員の龍さんに打診したら、「じゃあこの辺の素晴らしい作り手の人達を網羅しましょう!」なんてことになったのだ。でも時間的には半日しかないので、廻る先は限られてしまう。数ある中から選ばれたのがこの後藤ふみこさんと、大道谷の宿なのである。
で、この後藤ふみこさんの工房には、郷土料理をたらふくいただいた土間とは別に、厨房スペースがある。その前にホットプレートをおいて、準備が整っていた!
「じゃあね、ふな焼きをつくりましょう。小麦粉を溶いて焼いただけの、この辺の子供達が昔から食べてるシンプルなおやつなの。」
といいながらふみこさん、なにやら緑色の葉をちぎっている。これは積み立てのヨモギ!
「小麦を溶いて焼くだけだから、何か香りのあるものを入れると無限に味が拡がるのよ」
これを小麦粉をゆるく溶いた中に入れる。小麦粉の溶き加減は当然、家々によって違うようだ。ちなみにふみこさんのところでは、お客さんに振る舞う際に冷めても固くならないように、とある天然のものを入れる。そうするとてきめんに食感が長持ちするらしいのだけど、それは企業秘密(笑)
よーく熱したホットプレートに流す。この流れ方をみればだいたい生地の硬さがわかりますな。
ところでふな焼きの「ふな」は舟のこと。なんでかというと、まだ大きな釜などで煮炊きしていた頃は、ふな焼きを焼くのは大きな鉄鍋。この辺は茶どころだから、釜入り茶を作るための大きな釜がどこにでもあったのだ。その釜をばっちり撮った写真がないのが悔やまれるのだけど、下の写真でふみこさんが持っている蓋の左側、竹竿が載っているのが大釜だ。
底面がおおきく湾曲した大釜に油を敷いて、粉を溶いたものを焼き、半分にパタンと折れば、形はちょうど舟のような木の葉型になる。それで「ふな焼き」というのだそうだ。
蓋をしてしばし焼き、加減を見る。軽く焼き目がついたらできあがり!
半分はそのままでいただき、半分はなんと黒砂糖を巻いていただく、ご当地のおやつスタイル!
さてこのふな焼き、実に実に味わい深いのだ。粉を溶いてヨモギを入れて焼いただけですよ!それなのにヨモギのあの何とも言えない緑っぽい香油成分がばっちり溶け出して、なんとも高貴なお焼きになっている。生地もふんわりつるりとして、よい食感。これは熱々を食べるに限るね!
黒砂糖を巻いたバージョンを食べながら「おーそうそう これをガキん頃は食べよったね~」とほほえむ、朝日屋酒店の高橋君(左)と 肥料コンサルタントの富松(右)。僕が久留米・八女に行くときにはほぼ必ず同行してくれる二人だ。
スペシャルふなやきはさらに続く。星野村にきて茶を食べないわけにはいかない!
摘んできたばかりの柔らかな茶葉である!
茶葉を入れたふな焼きは、実に乙なものだ。スーパー店頭で焙じながら販売しているのをよくみかけるだろうが、ブワンブワンと香ばしい薫りがする。あれを「茶の香り」と思う人が多いようだけど、実はちょっと違う。あれは茶に火を入れることで発する「火香」というもので、つまり焼けた香りだ。ウナギの蒲焼きが香りで人の食欲を喚起するように、茶も火香で人を寄せることはある。けれどもそれはどちらかといえば茶を劣化させた香りでもあるわけだ。それに、焙じすぎると奥ゆかしい本来の香りは消え去ってしまう。最近は深蒸しのお茶ばかりが売れているようだけど、これも茶の香りが消えてしまう製法だ。
蒸し時間の短い、茶業界でいう「伸び」のお茶を低温の湯でじっくり煎れると、カツオダシのようなこっくりした旨味の茶が出る。これをいただくと、喉元から呼吸のたびになんともいえない香りが戻ってくる。これが茶葉の香りなのだ。
茶葉入りのふな焼きは、生の茶葉に小麦の生地越しに柔らかく火を通していくので、この香りが失われない。だから実に上等な味がする! けれども火香がないので、茶葉が口に入らないと味はしない。
「ちょっといま天気が悪くて収穫量が少ないから、これだけでも集めるの大変だったのよ」
とふみこさん言うとおり、至上の贅沢なのである。
ふな焼きはあまりにプレーンな料理だから、いろんな食べ方ができる。写真は鉄火味噌。これを塗って食べてもよし。
九州じゃ標準の漬物である高菜漬けを混ぜて、酸味のあるのを楽しむもよし、だ。
あーしかしお腹いっぱいどころじゃないよぉ、、、
「あら大変!これから芋まんじゅうなのに。じゃあ厨房で一緒に作りましょ」
意外に大きな厨房の中で、あらかじめ作っておいてもらった生地を使って里芋まんじゅうを仕上げる。里芋まんじゅうの生地は、小麦粉と団子粉(米粉ですな)と少々の重曹を練った生地で作る。
ご覧の通り生地にはよもぎを茹でてミンチにしたものをいれた、緑バージョンだ。
「でもねぇ、ちょっと時間がたっちゃったから、酸化して色が悪くなっちゃってるわ。ごめんねぇ」
というけれども、この時点では綺麗な翡翠色。手前にあるのが里芋を塩ゆでしたものだ。この具材である里芋を「塩ゆで」するのがポイント。普通、しょうゆとかで甘辛く煮染めてしまうでしょ?けど、塩味という淡泊な、しかしばっちり塩梅を効かせた味にするのが旨い里芋まんじゅうをつくるコツなのだ。
平らにのばした生地を周りから伸ばして包んでいく。
まるめてできあがり!
そのまま蒸し器に入れて、蒸していく。
「生地が余ってるから、おまんじゅうも作りましょ!すぐできるから!」
えーーーすぐできるって、、、 でも本当にすぐに、ホイホイと作ってしまうのがお母さんの技。
あんこを小さく丸めたのを生地で包んで、おまんじゅうのできあがり。もうひとつ、味噌を包んだ味噌まんじゅうも。ほんとにあっという間だ。
さてそうこうしているうちに、里芋まんじゅうが蒸し上がった!
おおおっ なるほど、たしかにヨモギの色が少し深くなりすぎている。
「本当はもっと綺麗なのよぉ、、、」とふみこさん悔しそう!ごめんね手間取っちゃったからね、、、でもこれでも十分だぜ!
半分に割ると、綺麗な塩ゆで里芋の断面が!このコントラストが実にいいでしょう!?
さっそくいただいてみる。ふみこさんの里芋まんじゅうは生地がネッチリモッチリしているタイプ。クニーッと歯が入っていって、そして里芋のネローンとした食感に行き着く。ツルリとした皮から、里芋に舌が到達するとほどよい塩気が味覚を楽しませてくれる。
なんとシンプルにして美味しい料理なんだろうか!
追っかけるように蒸し上がったおまんじゅうも。
こちらは重曹入りの、ふわーっとしあげたおまんじゅう。手前が味噌入りまんじゅう。
いやもういうことありません。本当にご馳走様でした、、、
実はこのあとすぐに大道谷の里へ行かなければならなかったので、いそいで辞することに。ふみこさんどうもありがとう! 「来てくれてありがとう!」と言ってくれたけれども、それはこちらの台詞です。ほんと、居てくれてありがとうございました。
もし福岡は八女に足を運ばれるなら、ふみこさんの体験工房にぜひ行って、郷土の味を習ってみることをお薦めする。僕の文章では伝わらないほどに素晴らしいよ、ホント。
むしろで遮光された茶畑をみつつ、一路 大道谷の里へと向かうのであった。