相変わらず低温傾向が続いている。各産地の農産物の生育が非常に遅れていて、野菜の価格が高騰している。でも、問題はそんなもんじゃない。この春先の異常低温は、夏秋冬に収穫できる農産物にも大きな影響をもたらす。今年度は果樹に関しては莫大な損害が出るかもしれない。
どんなに技術が進歩しても、中・長期的に天気をコントロールすることはできない。気温が低ければ暖房を焚けばいいじゃないか、というけど、屋外の露地栽培では無理だし、ハウス内では「加温機」という機械を使って火を入れることで調整できるが、非常に高いコストがかかってしまう。そのコストを乗せた価格を、ただでさえ野菜が高いという消費者がちゃんと払うのだろうか?
野菜が高い!と言うが、これまでずっと野菜の価格は安かったのだ。90年代後半から野菜の価格はほとんど変わらず、それどころか右肩下がりなのだ。それが、すこし高騰したからといって「高い」「買えない」というのはちょっと不自然だ。「買えない」という言葉はすくなくとも、生産と流通の現場からみればちょっとのみにくい。
固定電話を家族で共有していた時代から、携帯電話の時代になり、世帯当たりの通信費用は数倍になった。それは「仕方がない」としながら、日々の身体を作ってくれる食べ物の価格が50円値上がりしたくらいで「買えない」というのはあまりにオーバーな話だ。
消費者さえよければいい、という発想が、この国の製品・サービスをますます低いものにしてしまうと思う。
さて、先日の記事への反応。ある県の農林部の職員さんだ。
さて、
ブログ読ませていただいております。野菜価格の高騰は、東京だけでなく○○県でもすごいものですが、
ここ○○○では離島と言うこともあってさらにひどい状態です。キャベツが高いからもやしが人気などという話を聞くと
無理にキャベツ食べなくても死にはせんし、
昔なら漬け物でも食ってしのいだに違いないと思ってしまします。保存の利く野菜はともかく、ナスやピーマンは今の時期のものじゃないし、
やたらと旬でない食べ物まで高いとか騒いで、国内外から余るほど仕入れて、価格を抑えておいて
足らなくなると上がるのが経済の大原則なのに
一々騒ぐことは、滑稽ですらあります。こういう機会に自然の恵みである食物に感謝することを考えるべきです。
マスコミは、そういうことを国民に伝える視点が必要ではないでしょうか?なんて、言っておりますが、アイスランドの火山灰が成層圏にまで上がると
今度は、局所的被害ですまなくなるのではないかと
冷夏や日照不足が起こらないとも限りません。自然の力の前に無力な人間ですが、いざそういう事態になれば、
農業技術者として対応できるようにしておかなければなりません。少し脱線しましたが、
生産を安定させ、天候不順の時でも対応できる生産体制を築くためには、
生産者の経費に見合う価格で仕入、販売するような仕組み作りが必要です。やはり、日本の食は安すぎるのですね・・・
こちらはとある仲卸さんからのものだ。
最近のやまけんさんのブログでも何回か取り上げられていますが、
今回の野菜相場の高騰に対する農水省や量販店の対応は、
あまりに酷いですね・・・。
今日の農業新聞にも、農水大臣がイオンの店舗を視察して、
さらなる規格外野菜の販売推進を要請したとの記事が出ていますが、
どういった問題が起こっているのか、本当に理解されているのか、甚だ疑問です。胡瓜が良い例なんですが、最近、量販店や生協では、
曲がり胡瓜や不揃い胡瓜と称して、優品や良品を販売されているのですが、
今の胡瓜は秀品率が約90%です。
その為、当然大口の出荷要請には優品や良品で出荷できるわけがなく、
優品や良品の使用を前提とした納品価格で、
赤字を出して秀品を我々流通業者が納品しているのが現状です。さらに、優品や良品を出荷しても、品質検査の名の元に、
曲がり方が酷い胡瓜に関しては、不良品として返品されるという、
???な対応をする量販店もあります。また、大手量販店が揃って、野菜の緊急値下げ等を実施していますが、
これも自社の努力で実施している会社もあるでしょうが、
納入業者に負担を強いている会社も多数あります。こういった現状を知らないで、選挙対策の為か、
その場だけの一般受けの良い対応に終始する今の政治には、
本当に疑問を感じます。
これを機会に、やまけんさんが言われているように、
国民一人一人が、食べ物の価値を、もう一度考え直してくれると良いのですが・・・。
専門用語が出てくるので解説しよう。
規格外野菜の販売推進というのは、通常ならスーパー等には出回らない、曲がりが酷かったり見た目の悪い野菜も、この高騰時は取引するようにという提言を農水大臣がしたということだ。
規格外野菜のことはこれまでもよく採り上げられているが、マスメディアも含め、誤解している人が多い。というのは、多くの論調が「これまで捨てられていた規格外野菜を有効活用する」という言い方をしていて、消費者も「ああ、規格外野菜を買って上げると農家が喜ぶのね」という意識で受け入れている。これは大間違いだ。
規格外の商品も、基本的には市場に出荷され、さまざまな取引先へ格安で販売される。例えば100円ショップとかね。ただし、仲卸さんの文中に「秀品率が90%」とあるように、最近の野菜生産技術は高度化しているので、曲がりのないもの、見た目のよいものが90%以上になっている。つまり、規格外の野菜なんて、市場流通の中ではそんなに出てこないのだ。
しかし、スーパーでは目玉企画として規格外品販売をしたい。そこで、「規格外品を50ケース!」というような買い方をしようとする。しかし、規格外品ばかりそんなに都合よく集まるはずがない。その場合、仲卸としては高く売るべき規格品を規格外品として販売するのである。
「そんなことしなければいいのに」
というのは、今日の取引における力関係を知らない人だ。昔とは違い、いまはスーパーや外食と言った購買側企業が全てのパワーを把握している。スーパーが「この単価でこれだけ持ってこい」といえば、あらがうことは出来ない。もし「無理です」「欠品します」ということになったら、なんと「欠品下分、売上を補償しろ」と言われかねない。欠品補償とは、つまり「売れたかもしれない分、お前が支払え」ということだ。
無ければ無いでいいじゃないか
そういう自然が通用しないのが今の取引なのである。
そして最近、イオンやイトーヨーカドーが揃って値下げをしているけれども、上で仲卸さんが書いているように、スーパー側の利益を減らすのではなく、取引先を叩いて値下げを実現していることもある。
とそういうワケなんだけど、「いいんだよ消費者が安ければ!」とか、「これまでさんざん税金で優遇されてきたんだから、生産者は守らなくていい」とかいう輩はまだまだ居る。とくに最近、山下一仁さんとか、自給率について書いている浅川さんなどの論客が活躍しているので、「農業は保護しないでいいんじゃん」と早とちりしている連中も多いはずだ。
けどね、農業を巡る論壇にも右と左が居る。どちらもバランスよく情報を摂取した上で判断してくれないと困る。極左の意見をもって「これが正しいんでしょ?」といわれても、、、という感じだ。
でも右でも左でもなく、ひとつの真実がある。それは先にも書いたとおり
「自然には逆らえない」
ということである。そして農業は、自然と寄り添うものだ。
高い野菜が嫌だと言う人は、自然環境が悪化する要因を身の回りで探してみよう。その要因が、自分が生み出したものであるかどうかを考えてみよう。もし、自分もその悪化に荷担していると感じたなら、ぜひ自分が自然環境が正常化するために何を出来るだろうかということを考えるところから始めてみよう。それがひいては安定した価格での食料供給に繋がるのだから。
いまさっき宮崎に着きました。水曜日までフル回転です。