いやもうノックアウトです。
3月中、福岡県の八女市にて講演を仰せつかって来たとき、普及員の龍さんが僕を「ぜひお連れしたい農家民宿がある」ということで、「大道谷の里」に連れて行ってくれた。そこで出会ったのはなんとも心が豊かに温かくなる食事で、中でも感動したのが「里芋まんじゅう」という、この地域特有の料理だ。
里芋を塩で茹でたのを、小麦粉と米粉を混ぜてこねた生地で包み、蒸しただけ。それが八女の郷土食・里芋まんじゅうだ。里芋が無くなる時期には、入れ替わりで出てくるジャガイモを甘辛く醤油で煮たのを具にする。これはじゃがいもまんじゅう。
福岡は小麦の大産地。実は粉もの文化がかなり古くから栄えているのをこの目で見た、という感じだ。これはぜひ再訪して、じっくりこの芋まんじゅうシリーズを味わいたいと思っていたのだが、割とすぐにその機会が巡ってきた。
龍さんと、八女で朝日屋酒店を営む高橋君にコーディネートを依頼したところ、むちゃくちゃに密度の濃いコースを組んでくれたのである。
「今日は二カ所だけど、かなり離れた地域を力業で廻りますよぉ」
と最初に向かったのが、玉露で有名な星野村だ。僕は茶の関係の仕事もいくつかやってきたので、静岡、鹿児島、熊本についてはいろいろ産地を巡ったけれども、実は八女茶についてはまだ未踏だったんだよなぁ、と感慨がこみ上げてくる。けど今回はお茶ではなくて、郷土食なんだけどね。
かなり有名な棚田、あいにくの雨だけれどもいい風景だ。そして画面下のムシロがかかっているのが茶畑だ。
この、茶畑に囲まれた星野村の中に、手作り工房「ふみこ」がある。
■手作り工房 ふみこ
福岡県八女市星野村4540
0943-52-2204
後藤ふみこさんは、八女の農村部の郷土の味を伝える活動を積極的に展開している、地元の有名人だ。龍さんから高橋君へ「まず後藤さんのところにいかないと!」という強いプッシュがあったそうである。その意味はよーくわかった!
「あらー いらっしゃい! いろいろ用意しておきましたからね!」
と通された、古い農家の土間にはドドドドッと皿が並んでいる!
まだ自己紹介も十分にできないままに、すぐさま飯タイムになだれ込んだのである!
旬のタケノコに、、、
これがなけりゃ福岡といえない!の「ガメ煮」。
清流から摘んできたクレソンの白和えに、ワラビの酢の物。
そしておもしろかったのが、下の写真の一番手前に見える天ぷら。
これ、なんと、、、
「それはね、ガメ煮にした里芋とタケノコを天ぷらにしたの。正月にどさっとガメ煮を作ると、最後の法には煮物に飽きてくるでしょ?そうしたら衣をつけて天ぷらにするとね、とっても美味しいのよ。」
いやー 全くの別物! 油と衣の美味しさのパワーで、白飯がぐいぐい進むのである!
ふみこさんが炊いた飯がまた旨い。きけば餅米を少し混ぜているそうだ。なるほどもちもち感が強いはずである。
そしてこれに、その辺から抜いてきたセリを刻んで塩もみした「だけ」のものをまぶして食べると、、、
これが絶品・絶妙なんだよぉ、、、、、、、セリの鮮烈な香りの成分が、みじん切りにすることでご飯に転々と染みだして、ただでさえ連接な印象がよりヴィビッドになるのだ!
ふみこさんのトークは留まることなく、そして次から次へと必殺技が繰り出されてくる。
「そうそう サバ寿司、みなさんに一切れずつだけど食べていただきましょうねぇ」
鯖寿司? この山の中で?
という疑問に驚くような解答が示されたのである!
みよこの分厚い切り身!
それにしても、サバの断面がしっかりと白くなっているのがお分かりだろうか?最初僕は、よほど強く酢で 長期間〆たのかと思った。しかし、違ったのだ、、、
「あれ?このサバの切り身、、、」
「うん、それはね、塩鯖なのよ! この辺は山だから、お茶を出荷した車に塩鯖を運んで帰ってきてもらって、それを寿司にするの。本当は尾頭付きの一本寿司なんだけど、ゴメンね!」
あああああああああああああああああああああああああああああああ
そういうことかぁ! なんと塩鯖の押し寿司、、、 これが実に、実に、本当に一本まるごと食べたくなるほどの美味しさなのだ。 生サバの〆サバでは味わうことができないであろう深みのある味わいがプラスされている! いま、焼きサバ寿司がいろんなところで人気を呼んでいるけれども、正直いうとこちらのほうが旨いのではないか、、、塩をして置いていることで深く熟れているから、、、という気がするくらいに美味しいものであった!
コシアブラとタラの芽の天ぷらには、お茶どころ必殺の「茶塩」を振りかけていただいた。
そう、お茶と言えば、、、
この会食で一番心に残った、ふみこさんの料理がこれだ。
なんと、星野村のお茶の佃煮!
生茶葉ではなく、そして通常の煎茶でもなく、お茶がら、それも玉露のものや上煎茶ばかりを衛生面に配慮した手順を踏んで集めて、佃煮にしたものだ。
正直、このてづくりの味には感じ入った。久しぶりにこんなにに綺麗な味に出会ったと思う。
ご飯と共に口に運び噛みしめると、甘辛い醤油の汁にかすかなほろ苦さを感じ、そしてその後、驚くほどに高貴なお茶の香りが喉奥から戻り香としてフワッと立つ(写真の分量は、茶葉が多すぎだ。もっと少量でも十分に香る)。
美しい、、、 なんて美しい食べ物なんだろう!
ふみこさんは写真をみればおわかりのとおり、きゃっきゃっと可愛らしくしゃべりまくるお母さんだけど、彼女が作りだしたこの佃煮、一瞬にして目の前に静謐さが満ちるような、そんな料理なのだ。
小さな瓶に入って500円。これ、安いです。こんな贅沢な体験、なかなかできないよ!3瓶買って帰りました。
それにしても味のある古民家。ここはこの仕事を始める際に買ったもので、昔ここには八女に始めて銀行を興した方が住んでおられたそうだ。
裏庭に出ると、そこには美しき小宇宙が拡がっていた。
「さあて、それじゃあ向こうの作業場で、星野村が誇る郷土食”ふなやき”を作りましょうね!」
ああっと そうそうこれからが本番なのであった!
(続く)