高知市内の夜は熱い。「ひろめ市場」という、かつおのタタキから寿司、中華料理、はては怪しげなインドカレーまでがならぶ屋台村で下地を作って、飲み屋に流れていくというのがスタンダード。
その飲み屋が密集している小さな通りに55番街というのがあって、そこは一癖もふたくせもある店が並ぶ、新宿ゴールデン街のような場所だったらしい。
そこに、バリムーンという店があった。僕は、かなり昔に親友の野崎に連れて行ってもらったことがある。バリという名の通りちょっとエキゾチックなバー。マスターの風貌もなんだかちょっとバリっぽい(笑)
そして、その店内でカウンターで呑んでいる人と野崎が「おっ」とばかりに挨拶をしている人がいた。それが、僕を土佐あかうしプロジェクトに招いてくれた立役者となった、ひまわり乳業社長の吉澤文治郎さんなのだが、その時はまさかこんな展開になるとは思っていなかった。バリムーンは、高知周辺の実力者・面白い人たちが夜な夜な集まる社交場だということだったが、本当に雰囲気のある店で、一度しか訪れていないのに妙に記憶に残っていた。
その後、あの懐かしのバリムーンは55番街から姿を消した。あー、なんだ、、、あの雰囲気がないのは残念だ。
で一昨年、確か週刊アスキーの撮影で高知編をやるぞ、と言うときに、カメラマンの八木澤さんが実は吉澤ブンさんの同級生だったということが判明し、感動の再会を果たしたことは以前書いた。
その際に前述のひろめ市場で呑んだのだけど、そこで驚きの再会があった。ひろめ市場の中央のいい場所にあるインドカレーの屋台の前のテーブルに、賑やかな一群が座っていた。地元の名士である文さんにみな「おーうう!」と声をかける。その中に、バリムーンのマスターが居たのだ!
その時は「むかーしむかし、野崎に連れられて行きました!」とだけ声をかけたのだが、その時バリムーンはもうないものと思いこんでいた。マスター、店はなくなっても夜の社交場にはずっといらっしゃるんだなぁ、と。
しかしそれは違った!
先日の高知出張、ついてすぐのランチ。
「今日の昼飯は、どこにいくかまず内緒です」
と山崎さん公文さんが言う。
そして車が高知市内の九段田小径にさしかかり、、、
「あれ?なんだあの店! バリムーンって書いてるぞ!」
驚愕!これってあのバリムーン? 東京新宿カレーってなんだよ!?(笑)
そう、バリムーンは閉店じゃなく移転していたのだ!知らなかったのは俺だけである(涙)
しかもですよ、10数年前からマスターは土佐あかうしに惚れ込んだらしく、看板に「土佐れいほく牛」(←土佐あかうしのことです)と書かれている!
カレーの価格は実にリーズナブル。普通のカレーは500円で食べられてしまう。けど、ここはやはり土佐れいほく牛カレーでしょう。さて満を持して店内に入る。
間違いなくバリムーンのマスターだぁあああああ! いやー 嬉しいものである。
きけば、ご自宅がここ高知市の九反田地区にあるそうで、ここでカレー中心の業態として開店したそうだ。
「けどね、夜は飲み屋よ。カレー屋だけじゃなくて、いろいろ出すから、飲みに来てね」
そう、カレー屋さんだけではなく夜は「九反田バー」となるのである。
「れいほくのあか牛はね、本当にいい食材なんだよ。けど、訳のわかってない人には「高いなぁ」って言われちゃう。いや、安売り牛肉よりはそりゃ高いけど、味が違うのよ、ってのをきちんと言ってかないとね。」
というこのバリムーンでは土佐あかうし料理をいろいろ楽しめる。例えば土佐あかうしの串焼き。
オーダーを受けてからその場で焼く!これ、100%土佐あかうしの串である。この串に刺した状態で、土佐あかうし専門の精肉卸であるれいほく畜産が販売しているのだ。
インドネシアの串焼き料理サテーのような甘辛い、エキゾチックな味のタレをつけたあかうし串。
「おっ 旨い!」と、あかうしは食べ慣れているはずの公文さんが声を上げる。うん、これは旨いね。赤身の部位を使っているから、肉の風味ときれいに揃った繊維の食感がきっちり伝わってくる。
自家製スモークも、土佐あかうしの肉100%!レバー、タン、ハツのスモーク、ビールが呑みたくなる味だ。
さて、そろそろ本番。もちろんれいほく牛カレー!
実は、独立したメニューで「あか牛のカレー煮」のようなメニューがあって、それを通常のカレールーに添える形。ダブルルーということだ。これ、なんかお得感満載ですな。
逆サイドから。通常ルーの下に、おそらくスネ肉をホロホロになるまで煮込んだのがしかれている。
いきなり結論から言うけど、この店にきたらこのれいほく牛カレーを頼まなきゃダメ!だって、あかうし肉のルーの部分がやたらめっぽう旨いのだもの!通常ルーもスタンダードなカレーで美味しいけど、あかうしカレーはココナッツ風味のインドネシア料理の感覚が入った、魅惑的な味。これをスタンダードルーに混ぜて食べると最高なのである!
いやー 書いててまた喰いたくなってきた。やっぱりカレーには弱いんだ、俺。
それにしてもバリムーンのマスター、相変わらず夜の高知文化のフィクサーぶりを発揮しておられる。
「ともだちのデザイナーと一緒にな、新しい高知マップみたいなのつくったんよ。」
うーん、、、、、、、、、これ、ほんと自分たちで勝手に造ってるらしい。そういうことをする人なのである。店内には、自主企画のコンサートチラシやら何やらで一杯。
ぼくも全国廻っているけれども、なにか動きがある地域には必ずこういう、地域のトリックスター的な人がいるものなのだ。
ともあれ、バリムーンが続いていたことに喜びを感じ、そしてカレーの旨さで悦びにひたった一時間であった。マスター、美味しかったです!