柿木君の牛舎を出て、すぐ近所にある新井谷家へ。
新井谷のおじちゃん家は、この辺の人たちを囲炉裏部屋で温かくもてなす、人と人のネットワークを支えてくれる大切なハブとなっている。すぐ近所には役場に勤め、全国の中学生を修学旅行で山形村に受け入れる事業をしてきたトモちゃんや、猟師のウチマギさん、豆腐作り名人のフミさん、そして短角牛農家の面々など素晴らしい人たちが居る。この人達が、何か客人がいると集うのが、新井谷家の囲炉裏部屋なのだ。
この人が、新井谷のおじちゃんです。手に持っているのは、本シメジを干したモノ。
これだけで数万円する高級品だ!山を知り尽くし、誰もわからない路を縦横無尽に動いて山の恵みをいただく、山の守人だ。
おじちゃんの得意技は釣り。ヤマメとアユをいやというほど釣り上げて、瞬間冷凍しておく。そいつを焼くのだ。
焼き上がったヤマメには、 ハラにたっぷりとギョウジャニンニクの醤油漬けを詰めてがぶりとやる。
これがもう堪らない!
岩手の山の中では、しんみりとした食べ物ばかりだろうと思っている人たちに食べさせてあげたいダイナミックな味なのだ。
「ほら、落ち鮎の子持ちだよ。最高に旨いよ。」
うおおおおおっと ホックリホクホクした卵とアユ独特の香りがなんとも素晴らしい。
この繊細な味は、ギョウジャニンニクではなく塩だけで十分。
「ちょっと珍しいのがあるんだよ。」と、おばちゃんが出してくれたのが、黒キノコの味噌漬け。
本当に黒い!
「ちょっとクセがあるけどね」というが、その独特のクセが味噌の香りとつなぎ合わさると実に素敵。
かんぴょうのクルミ和え。かんぴょうをこんな風にして食べるなんて、あまり考えたことがなかった。たいていは海苔巻きの具としてしか使わないもんね。クルミはもちろんこの辺りのオニグルミを拾ってきたモノだ。これ、美味しい料理!幅広のかんぴょうを薄味で煮含めたものに、クルミと味噌と摺ったあえごろもと合わせただけだと思うけれども、かんぴょうの何とも言えない歯触りとクルミの甘さがとっても美味しいのだ。
安家地大根(あっかじだいこん)の漬物。安家地大根とは、山形村の隣にある岩泉町安家地区の伝統野菜で、表皮が真っ赤な大根だ。独特の癖と辛みがあり、まさに東北系の在来大根という味。ざくざくした食感も北方系を感じさせる。
この辺での祭事にはかかせない「麦餅」。岩手県北部ではお餅は餅米ではなく麦をこねて作るのだ。独特の食感、でももちーっとしたその食感はお餅を感じる。麦の香りがまた佳いものなのだ。この餅にも、ギョウジャニンニク味噌やエゴマ味噌などが塗られるが、この日はさっきも出てきたクルミ味噌。
実は、このあたりでは「美味しい」ということを「クルミ味がする」という慣用句があるのだ。つまり油脂が乏しかった昔は、油気を含んだクルミは美味しいモノの代表だったということだ。
さてこの辺りで、木こりで猟師でもあるウチマギさんが登場!
シャイなウチマギさんは、初対面から3回目くらいまでは目を見て話をしてくれなかったし、話しかけても無視されたものだ(笑)
が、ある日突然その壁が崩れて普通に話してくれるようになった(笑)。この人自身が森の熊を思わせる人なのである。
3年前にウチマギさんが、しとめた熊を解体するところを見せてくれたのを今でも忘れない。ナイフ一本で大きなツキノワグマを、仲間のマタギと一緒にするすると解体していくのだ。万能薬として重宝される熊の胆嚢をキュッとたこ糸で縛って干すところまでみることができた。
その解体の後、肉を焼いて食べた。 熊の肉は臭いと言う人が多いけど、それはよほど年の行ったオスか、血抜きが下手だったかだろう。一切の臭みなし、適度に柔らかで、家畜では生まれ得ないほどに濃厚で芳醇な肉の香り。家畜の肉の数十倍の複雑な旨みに、僕は心底驚いた。
「ほれ、これ干した熊肉」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
やったぁああああああああああああああああ
これがまた素晴らしき味! 脂のついた部分と肉肉した部分で食感が違う。肉っぽい部分はずーっと噛んでいるとジュクジュクと濃ゆい旨みがいつまでも染み出てくる。酒や醤油に浸して干したのだろうか、人工的な味が全くしない、素晴らしいジャーキーである。
そして脂のある部分は、柔らかくてシクーっとした食感の脂の歯ごたえが堪らない。いや、絶品だ。売ったらいいのに、と思うが売るほどないのであった。残念だ、、、
さてしばらく山形に来ていないうちに、凄腕の料理人が棲み着いておられた。
村の第三セクターとして稼働している総合農舎山形村という食品加工業者のアドバイザーとして就任した大塚さん。フレンチが専門で、ホテルの総料理長などを務めた後、大地を守る会の商品開発をしてきた人だ。
「短角牛を使っていろいろ試作してきたんですよ!」
と、ものすごい料理を並べてくれる!
短角牛のオックステールシチュー! う、う、うんまぁ~い! 本物のシチューだ、、、しばらく置いておくと、ゼラチン質がぴっとりねっとり固まってくる。俺はこれを白飯にかけて食いたいよ!
短角牛のポトフ仕立て。短角と鶏でコンソメをとって、山形村の原木椎茸や野菜と煮たものだ。あまりに美しいコンソメ。椎茸の香りがまるで柑橘のような爽やかさを感じさせる。
このとき使ったのはモモだということだが、短角の部位によって味も変わるそうだ。そうだろうなぁ。すね肉のを食べてみたい!
おっと時間だ、続きはまた後ほど。(続く)