安来市内にはJAなどの経営する直売所がかなりある。そうしたところへ出荷する小規模な個人農家が結構いらっしゃるらしい。直売所では価格が安いので生計を立てるには厳しいと思っていたが、農協への共撰出荷ではなく直売所主体の農家さんも最近では多くなってきている。
ここ安来での篤農家にもそんな人がいると言うことで、竹谷さんご夫妻のところへ案内してもらった。
このハウスで育てている作物がなんだかおわかりだろうか。こいつである。
熊本では「肥後グリーン」と呼ばれているメロン。アールスメロン(マスクメロンと呼ばれているやつね)に比べるとややさっぱりした甘みだが、独特の果肉の食感があって実に美味しいメロン。一本の樹に一個しか生らせない贅沢な造りで糖度と旨みを載せている。
メロンは超・元気なご主人が栽培していて、それ以外の野菜品目は奥さんがメインで取り組んでいる。JA組合員の中でも活動家として頑張っている名物おかみ。
こちらはダイコン菜。根ではなく葉を食べる。
イチゴは、本定植を前にランナーを出しているところ。
「直売をやりはじめてからねぇ、はじめて農業が楽しい!って思えるようになってきたのよ。どこに売ってるかわからない、自分で値段をつけられない、っていうのは面白くないの。10箇所の直売所に出荷してるんだけど、どうしたら売れるかを考えるのが楽しいのよ」
とニコニコ。
「おう、これなぁ、一玉1000円で売ってるメロンだけど、10日後に完熟するから食べてごらん!あんただったらいくらつける!?」
とご主人。
あとで糖度を測ったら、まだ完熟前で16度。これは佳いメロンです。
いま、日本には農家のグループやJAが営む直売所が20000カ所はある、と言われている。農家が自分で袋詰めして持ち込み、価格を決め、値札シールをつけて直売所に並べる。直売所側は手数料を10~20%程度取ったうえで販売する。売れ残りは農家自身が引き取るという仕組みだ。
農家にとっては中間手数料がかからず、消費者も地場の農家の新鮮なものが安く買えるため、全国的に拡がっている。
僕は必ずしも直売所方式「だけ」がいいとは思っていない。やはり日本全国に生鮮物を行き渡らせるためには、広域的な卸売のシステムがあった方がいいし、だいいち戦後から高度経済成長が終了するあたりまで、営々と作られてきた卸売市場というインフラがいますでにあるのだから、それを基幹的に使うのが最も社会コストが低いのである。
しかし、ここしばらくの直売所の隆盛をみると「これは産地側のレジスタンス活動なんだな」と思う。
スーパーなどの小売業者が圧倒的に力を持ち、適正価格(生産者が再生産できる価格)を全く無視して安く買いたたく。「消費者のため」と言いながら、生産者がまともなモノを作れない状況に追い込み、日本の食文化を破壊していく。
「だったら、俺たちが自分で値付けをして売ってやるよ」
という意思表示が直売所運動であり、それはある程度奏功しているように思う。何より、竹谷さん夫婦のように長らく農協での共撰出荷に携わってきていた人たち自身が
「楽しい!」
と生き生きしているのをみると、これまでの農業が辿った道を顧みざるを得ない。そんなことを考えたひとときだった。