大分県の観光地と言えば、昔は別府が中心だったろうが、いまは由布院というのが相場だろう。
「いやでもね、ヤマケンさんにぜひ遊びに行って欲しい場所があるんですよ!由布院の奥にある高原地帯なんですけどね!」
と仰るのが、大分県の漁港である佐伯市蒲江編をやったときにお世話になった、県の職員であるT甲さんだ。
「最近の僕のイチオシなんですよね、、、」
T甲さんは観光に関する課に在籍している、いわば大分県内の観光のスペシャリストである。その彼が「イチオシ」というのだから、それは絶対的に期待できるではないか!ということで大分2日目は朝から高速に乗り、由布院方面に走り急いだのである。
由布院のインターから町並みをみながら、たしかに奥の方へと走り、山をグワッと迂回しながら登っていく。雄大な由布岳をのぞみながら、どんどん空気が涼やかに変わり、まわりの植生が変化していく。軽井沢にでもきたような涼しさだ。
「この辺は、以前から住んでいた人と、新しく移り住んできた人達が交ざり合っている地域です。新しく来た人たちは、ペンションやレストラン、パン屋などを始めていて、その新しい文化運動というのか、交流が面白いことになっているんですよ!その中心人物を拾ってから廻りましょう!」
レストランのほほん、はこの日休みだったのだけど、そこで塚原の観光協会長さんである藤澤さんにお会いする。彼女自身も「いろはにほへ陶」というギャラリーを営んでいるのだが、塚原をもっとよくしたいという気持ちから、ギャラリーそっちのけでこの仕事をしているという。
「週に一度は、塚原のキーパーソンが集まって飲みながら『どうやって塚原を面白くしようか』と話しているそうですよ」
「それはオーバーだけど、、、」
という会話を聞いていると、この塚原という地域は、本当に新しい動きというか胎動が起こっている最中なんだな、と思う。
車を乗り換える際に、この道の横にある空き地をみると、もうそこだけで綺麗に花が咲き乱れている。
すぐ近くなのにも関わらず、由布院の温かなイメージとはまた違い、冷涼な空気がみせるしんとした自然が展開されている。
「ヤマケンさんが午後の飛行機で帰られるというので、4件ばかしいそいそ味見してもらう店をセットしましたから、手早く行きましょう!」
んんんんんんんんんんんんんんんんんんんん 4件ハシゴか! 受けて立とうではないか。
「まずは、今日は残念ながら定休日なんですけど、この辺じゃかなり評判のパン屋さん『オニパン』を覗くだけ覗きましょう!」
かなり綺麗なしつらえのベーカリーカフェ。天然酵母でパンを焼いているそうだ。クリームパンは絶品らしい(ジュルッ)。でも定休日!お店を覗くと、ご主人がいらっしゃった。
いやーーーー 写真じゃ伝わらないけど、すっごくぶっきらぼう! それが実にナイス!休業日に行ったんだから当たり前だけど、全然愛想無し!
「接客は奥様が頑張っておられるんですよ。うーん やっぱり今日は定休日だからなぁ、、、」
ちょっと藤澤さん! 美味しいというパンも食べられないのに連れてこられても、不満がつのるだけですがな!
「大丈夫!つぎはすぐに美味しい店に行きますから、、、」
と、オニパンカフェから30メートルほどの場所にあるお店へ。
この忘路軒、中にはいると民芸調のギャラリーショップで、陶器や小物を販売しているところ、というように「見える」。
しつらえは実に最高にシック。お茶を一服しながらゆったり座っているだけで、気分よくなってしまいそうな豊かな調度だ。 しかし、、、
「やまけんさん、実はね、ここの奥さんが造る料理は絶品なの! 表向きには看板はあげてないんだけど、完全に予約制でお料理もだしてくれるんだけどね、由布院の料理屋さんがプライベートでくつろぎに来るような本格的なお味の店なのよ!」
なぬうううううううううううううううううう
そして怒濤の摘み草料理コースが始まったのである。
「使ってるお野菜とか、ぜーんぶこの窓から見える範囲で摘んできたものなんですのよ」
とこともなげに仰るように、広い庭はすべて菜園化されていて、それも畝が整然としているのではなく、思いっきり混植のばらまき型の畑になっているようだ。ご主人がそこから食べ頃の作物を積んでくるのだという。
そしてどれもこれも、お味がよろしい! 由布院の料理人が来るくらいだからと思ったけれども、この方の味付けのセンスはただものではない。
特に感動してしまったのがこのスープ。いや、和風の趣もあるので「スウプ」なんて書いた方が伝わるかも知れない。お出しのような、コンソメのような、でも出汁だ!という不思議なお味。
椀ものもう一つ。サトイモの揚げ団子が入ったものだ。
最低限度にして必要十分な味付けしかしない、ギリギリの境目を突いている。
この調子でいくとお肉は出ないのかなと思っていたら、鴨肉が!
しかし彼女のセンスが爆裂するのはむしろ一緒についてきた吸い物。
しみじみ佳いお味なのである、、、
これがまた絶品、女将特製の青唐辛子味噌をなめながら白飯をいただく。おかわりしてしまった、、、
まさに隠れ家である。それ以外に形容できる言葉がない。
「あまりお客さんがこられると、困っちゃいますので、、、」
とほんとに困ったげなおかみさん。もちろん、食事は完全予約だし、出来ない日もあるようなので、もし関心のある人は連絡を。
塚原のことや連絡先などはこれをご参照のこと。
「さあ、まだ始まったばかりですよ、次のお店に行きましょう!」
と藤澤さんにかりたてられ、次へと向かうのである。
(つづく)