江口洋介が主役を務めるテレビドラマ「木枯らし紋次郎」が放映された。感想はまた述べるとするけど、ドラマの作り自体は非常によかったと思う。なによりもよかったのは、テーマ曲が往年と同じ、上条恒彦の謳う「だれかが風の中で」だったことだ。あのオープニングを聴くだけで、僕の心は紋次郎に夢中になった頃に向かう。
ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁふぁーん たたたったたたたたたたー
どぉ~こかで~ だぁ~れかがぁ~ きぃ~いっとまあって~ いてぇ くれる~
いや、もうたまらない。
「木枯らし紋次郎」は1972年に放映された、大ヒットテレビドラマだ。その頃ぼくはまだ1歳。従って僕が観たのはどうかんがえても再放送か再々放送だ。
暗い、映画調の画面に、どんよりした効果音。無表情の紋次郎が長い楊枝を噛みながら、
「あっしにゃ、関わりのねえことでござんす」
と言って去っていく。
トレードマークの長い楊枝をプッと吹くと、木の幹にカッと刺さったりというあり得ないシーンがかっこよく、僕も木を割いて長い楊枝(のようなもの)を造り、くわえたものだ。しかし、どうやってもプッと吹くことはできなかった。あたりまえか。
しかし、僕が紋次郎に熱中したのは、子供の頃のテレビドラマによってではない。実は、原作である笹沢佐保氏の小説「木枯らし紋次郎シリーズ」に出会ってからのことだ。
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なんと、amazonでももう新刊は出てないのか、、、
何回目の再版ものだったのかはしらないけど、僕が手に取ったのは1997年。大学院卒業後、初めて社会人になった頃だ。社会の厳しさに翻弄され、まったく歯が立たなかった。つまらないプライドをずたずたにされていた頃に、当時住んでいた日吉の書店でふとみかけ、手に取った。
「あっしには関わりのないことでござんす」
を無性に聴きたくなって買い求め、喫茶「コラージュ」(オールドブレンドの美味しいコーヒーを楽しめる名店だ)で読み始めた。あまりに面白く、コーヒーおかわりしながら3時間ほどで読み終わってしまった。読み終わり、呆然とした。今の自分に、この虚無感、やるせなさは最高のセラピーだ。そうして、毎月1冊ずつ出たこの紋次郎シリーズをすべて文庫でそろえることになったのである。当然ながらドラマも観た。
ドラマは、もちろん最高だ。なんといっても監督が市川昆なのだから。リアリズムの極地といってもいい。凝ったアングルに、殺陣のリアル感。無宿渡世の世界で、きれいな剣法などあるはずがないという考証のもと、突きやなぎ払いというような、泥臭い剣の使い方での殺陣がくりひろげられる。実にリアルなのだ。
しかしながら、ものすごいのは、ドラマはすべてオリジナルの笹沢佐保氏の原作を忠実に再現しているということだろう。だから、本を読んでいれば「あ、あのストーリーね」とわかるのである。それだけ完成度が高く、劇場的要素を含んだ原作だったのである。
僕のお薦めは、木枯し紋次郎〈12〉奥州路・七日の疾走。
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さて、そんな紋次郎だったけれども、今回の江口洋介の演じた紋次郎は、残念ながらいまひとつだった。一言でいえば、江口洋介には虚無感がないのである。中村敦夫があの当時持っていたクールさ、まったく希望を持っていないという静かな眼が、江口洋介にはない。そりゃぁそうだよな、あんなカワイイ森高千里を嫁さんにして子供と幸せに暮らしてるんだから。だから、一つ一つのシーンでどうしようもなく「希望」や「気力」がほとばしってしまう。あれでは紋次郎じゃないんだよなぁ。あと、殺陣に泥臭さがなかったのも残念。もっともっと、カメラも一緒になってドタドタと動きながらのシーンにして欲しかった。
それでもドラマは楽しめた。効果音、BGMがなんとも秀逸。前半、「パリ、テキサス」のようだったり、デヴィッド・シルビアンの「ゴーン・トゥ・アース」の後半部のような、ロバート・フリップの音実験のような雰囲気の音楽が森の中で奏でられていたのが印象的。かなり、前作を勉強した人が手がけたのだろう。
それと、秀逸だったのが渡辺いっけいの演じる源之助。あの狂気に満ちた眼がたまらない。あと、金蔵を演じる小澤征悦もまたよかった。この俳優はもっと観てみたいと思うなぁ。しかしなんといっても最高なのは、若村麻由美の演じたお市の悪女ぶり!あれは素晴らしかった!
ぜひ紋次郎シリーズはまたやっていただきたいと思う。江口洋介は、外見的にはOKなので、あとはひたすら虚無・虚無・虚無感を身につけていただきたいと思う。
ごちそうさまでした、、、