やまけんの出張食い倒れ日記

京都の宝物・伝統のすぐき漬けは、漬物屋さんではなくて農家さんの軒先で造るものです! 上賀茂の京野菜農家・田鶴さんご一家のすぐき漬けを観た! その1

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京都大学の農学部で教えている大石から、毎年のように「やまけんはすぐき漬け、みにこないのかぁ?」と言われていたのだ。

すぐき漬けは、「すぐき」というカブの一種を乳酸発酵させた本漬け(古漬け)である。おおむね京都でしか造られていないようで、独特の文化として根付いている、ということくらいしかわかっていなかったので、「うん、そのうちなぁ」と流してしまっていた(汗)

実を言えば、理由があった。彼が仲良くしている京野菜の農家である田鶴さんは、上賀茂地区で賀茂茄子を生産している代表的な人物だ。何が代表的かというと、田鶴家は京都府から「賀茂茄子の種採り農家」として認定されている。つまり、賀茂茄子の正当な系統を保存・育成していると認定されている農家さんなのである。

昔からブログをご覧の方はご存じの通り、僕はナス好きである(笑)そして、学生時代から大石と親しくしていた僕は当然ながら彼の大家さんである田鶴家の賀茂茄子をよくいただき、その旨さに悶絶していた。しかし、田鶴家の賀茂茄子は秋口の「これから旨くなってくるんよね~」という時期には片付けられてしまう。なんで!?といえば、それは「すぐきのため」。冬のメイン品目であるすぐきの種まきから逆算すると、賀茂茄子をかたづける時期が決まるということなのである。

なんだよ~ 賀茂茄子優先してくれよぉ~ などと不届きに思って、すぐき漬けに対するプライオリティが一段低くなっていたことは否めない。

しかし!

今回、じっくりとその過程をみせていただき、しかも仕上がってきたすぐきをたべたことで、やっぱりすぐきは京都の重要な文化であり、しかもそれは「農家の文化」であることがよーくわかった! わかりすぎるほどにわかった! ので、心を込めてこのエントリを書いていきたい。

ちなみに時点は昨年の12月6日。冬まっさかりの寒~いさむい時期のお話しである。

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京都駅から北山に移動して、大石の車にピックアップしてもらったのが3時半くらい。もう陽がかげってきてしまっている。 PC066411

「すぐきは本当は、農家が自分の家で漬けるものであって、漬物メーカーがやるようなものじゃないんだよね。この辺を走ると、市街地でもけっこう小さな畑があって、すぐきを”てんびん”で漬けてる風景がみられるよ。ほら、あの辺とかね」

と大石が言うように、上賀茂周辺の住宅街に混じって、畑にびっしりと緑の葉っぱが生い茂り、そのむこうに桶が数個、据えられている。面白いのはその桶には蓋がしてあるのだけど、その蓋の上に長い棒が渡されて、棒の先端にはコンクリのおもりがついている。つまり、てこの原理で蓋を押しているのだ。これが「てんびん」。あとで写真が出てくるので、そちらで観てもらえればいいと思う。

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そうこうしているうちに、田鶴家の畑に到着。大石が京大で創ったサークルは、この田鶴さんを始め、農家さんの作業を本格的に手伝わせてもらう活動をしている。

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すぐきは、先ほども書いたようにカブの仲間だ。地上部にはしゃもじ状の葉が盛大に生い茂る。そして土中には、正円とはほど遠い形の蕪が生っている。

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「よっしゃ、じゃあ、夜の作業が始まる頃だから、田鶴家に行ってみようか!」

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すぐきの作業は一日がかり。基本的な流れは、すぐきを収穫して皮を剥き、下漬けする。下漬けしたすぐきをてんびんでギュッと重しをかけながら、さらに塩漬けする。適切に塩漬けされたものを、こんどは室(むろ)といわれる部屋にいれ、火を焚いて温度を上げて乳酸発酵を促す、、、というものだ。これから夜の作業。下漬けしたすぐきを、塩漬けにするところである。

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上賀茂神社から近い市街地へ。ここが田鶴さんの家である。田鶴一家のお父さん、お母さんがいらっしゃったので挨拶。

「ああ、ようきてくれました、、、大石君の紹介なら、ゆっくりみてってくださいね。ちょうど漬かったのがあるから、観てください」

と、お母さんがさっそく、売り物になるくらいに漬かった樽を開けてくれた!
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おわかりだろうか、べっこう色の細いのは茎で、オリーブグリーンのが葉である。二カ所だけ白い株の部分が覗いている。圧倒的な重さで押し漬けしなければ、こんなふうに真っ平らにならないだろう。それにしても印象的なのは深い発酵色だ。乳酸発酵特有の香りがプンとむずがゆく鼻を刺激する。

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株を掘り出すと、驚くほどに白く見える。丸くない、スコップの先のような形にぷっくり膨れた形だ。

「ほら、一玉でお売りするときはこんなかんじ。」

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ちなみにすぐき漬けには、葉の部分が欠かせない。葉の部分と株の部分を合わせてすぐき漬けなのである。その理由は、後ほど述べることになる。

「さーて、圧巻のてんびん風景を観に行こうか!」

田鶴家のすぐき漬けは、本宅のはす向かいにあるはなれの作業場で行われている。実は大石は、そのはなれの家を借りて一家で住んでいるのである。何回か泊めてもらった大石家の脇に、いろいろと樽やなんやかや積み上げてある作業場があるのは知っていたが、まさかこんな風景になっているとは思わなかった!

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(以降、横位置画像はクリックすると大きくなります。)
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これが、てんびんだ!
おわかりだろうか、棒の根本は、壁に渡されたストッパー用の木に差し込まれ、すぐきを漬けた樽の上の蓋を押している。

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てんびん棒の先には、コンクリの塊が何個もつり下げられている。てこの原理によって、数十キロの重みがすぐきにかかっているのである!

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作業場ではすでに田鶴さんが、寒い中に湯気を盛大にあげながら立ち働いていた。

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下漬けされたすぐきを詰めた樽を運び、新しくつけ込む樽に棒を渡し、おもりをかけていく。

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作業場の屋根の下に入ると、どーんとでっかい樽が二つ鎮座している。もちろん、てんびんをかけた状態でだ。

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よくご覧いただくと、蓋と天秤棒の間には角材が三本入った状態。にもかかわらず、もうかなりすぐきから水分が出ている。

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野菜はその身体のほとんどが水分なのである。それがよくわかる光景だ。

外でてんびん掛けされている樽も、最初はこんな風に外にはみ出すくらいである。

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これが、てんびんによってギュウギュウと押されていくのである。

樽の前には、漬け込みを待つすぐきがうずたかく積まれている。

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ご覧の通り泥付きのままのを、一部だけ面取りしている。なぜ一部だけなのかは、明日教えてもらうことになるのだが。

「そうそうヤマケン、この風景が初めてってことは、生のすぐきを食べたことはないってことだよね」

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と大石が言って、ポケットナイフで規格外品のすぐきをしゃりしゃり切ってくれた。

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うーん、まさしくカブである。ちなみにこれは売り物にならないものなので、本当はもっと立派です。でもこの一片を囓ると、ほのかに甘く、軽くツンとした香り(アブラナ科に特有のイソチオシアネートだ)がある。

「うーん なんでこんな普通のカブが、あんなに酸っぱい漬物になるんだ?」

「ふふふ、不思議だろう~ まあ、ゆっくり解説するよ」

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大石は、田鶴家に寄宿してからずっとこのすぐき造りの手伝いをしている、いわば田鶴家の重要な戦力である。はやく「すぐき漬けの神髄」なんて本出してくれよ(笑)

さて、作業は続くが、僕たちは祇園へ食事へ。
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さてお話しはまた明日へと続くのである。

「じゃあ、朝5時においで~」

農家の朝は、早いのだ、、、

■撮影データ
使用カメラ:オリンパスE-3
使用レンズ:12-60mm、25mm、50mmマクロ