よく、食関連のコーディネータや編集者の人達と話をしていると、「農業の業界にも、○○大賞」みたいなのをつくって、広く世間に優秀な農家さんの事例をアピールすればいいのに」と言われることがある。
うーむしかし、、、そんなアウォードは、農業界にも腐るほど一杯存在するのである。と言う話をすると向こうもあっけにとられて「ええっそうなの?でも私たちに全くきこえてこないわ、、、」と言われてしまう。確かに、一般消費者には伝わってないよな。
これは、多分にメディアの性質によるものだろう。グラミー賞やアカデミー賞の受賞者はニュースになりやすいけれども、農業関連のアウォードは、そんなにマスコミ取材を受けるような性質ではない。ちなみに、農業や畜産業の業界内ではかなり○○賞というのは著名なのだけど、業界から一歩出てしまうと状況が変わってしまうのだ。
ちなみに、ちょうど先頃、日本農業賞というのが発表された。農協の全国組織であるJA全中が主催する賞で、個別経営の部の大賞は三つの主体が受賞。そのうちの一つは、、、
なんと昨年、北海道の岩見沢にて小麦の取材をした後に一緒に酒を呑んだ片岡さんのお父様が受賞されている!
【個別経営の部】
(大賞)
▽片岡弘正さん、八重子さん(北海道江別市・JA道央)
春播き小麦「ハルユタカ」を積雪前の初冬に播く技術を確立し、道内同規模経営の1.5倍の農業所得を確保している。
片岡さんが確立したのは、通常は春先に播く小麦品種を、積雪前に播いてしまうことで越冬させ、作業効率や収量を向上させるものだ。作業しにくい梅雨を避けて作業・収穫ができるという。こうした技術は通常、農業試験場などが取り組むものだけども、片岡さんはご自身で技術を確立された。民間育種という言葉があるけれども、民間技術改良とでもいうのだろうか。素晴らしい業績だ。
そして昨日、僕は虎ノ門パストラルの鳳凰の間にて、畜産大賞というアウォードの発表 会に参加した。実はこの賞の選考委員として任命されていたからだ。畜産大賞の受賞者とその経営内容は下記の通りだ。
■畜産大賞
研究開発部門:
インフルエンザウイルスの生態解明とライブラリーの構築
北海道大学大学院獣医学研究科 動物疾病制御学講座 微生物学教室
■最優秀賞
経営部門:
暖地方牧草を活用した林間放牧と採草利用による肉用牛繁殖経営
沖縄県石垣市 多宇 司・多宇 明子地域振興部門:
「こめ育ち豚」で拡げる水田農業と消費の輪」
山形県飽海郡遊佐町 飼料用米プロジェクト
大賞は、広く世界的な業績が選ばれた。それはそうとして、今回の畜産大賞では、僕が書籍などで訴えている、畜産における国内自給飼料の活用事例がかなり盛り込まれていた。経営部門の多宇さんの事例は、石垣島での黒毛和牛の繁殖を、放牧でしている事例だ。そしてもう一つの「こめ育ち豚」は、飼料米を豚の配合飼料に10%給餌することで、コーン主体の飼料とは全く味や肉質の違う豚を作り上げ、消費者との輪を作ったという事例である。どちらも素晴らしい!
昨日、TBSラジオを17時15分につけていた人は、「荒川恭啓のデイキャッチ」という番組で僕が喋るのを聞いてくれただろう。その時喋ったのがこの「こめ育ち豚」。有名な平田牧場(ヒラボク)が取り組んでいるこの豚肉は、塩を振って焼くだけで実に美味しい。もともとここのひらぼく三元豚というブランドは強固だし肉質にも定評があったけど、飼料米を配合することで、今までにはない味を作り出した。米を与えた豚は、脂肪酸にオレイン酸含量が飛躍的に増え、脂の融点が低くなるという結果が出ている。番組中、ソテーしたロース厚切りを荒川さんに食べてもらったけれども、「これ、本当に塩しかしてないの!?なんでこんな味になるの?」と驚いておられた。あれは演技じゃない。
というわけで、実は農業の世界でもこんなアウォードがあって、いろいろと受賞者の名前は出ているのである。問題は、マスコミがそれをニュースにしないことであり、また消費者も調べようともしていないことだ。つまり結局は関心がないと言うことか。
しかしですなぁ。その割には、いろんな雑誌が農業がらみの話題が「旬だ!」と思っているようで、いろいろ書くわけですよ。例えばブルータスの今出てる号の特集タイトルが「みんなで農業。」というものだ。表紙にはデザイナーの佐藤可士和さんが、千葉県の貸し農場で収穫している風景。その他、ナガオカケンメイさんや国分太一さんが農作業をしているところが、前半部に掲載されている。また、それぞれのスタイルで新規就農した若い人達が掲載されている。「カタチ」からはいる農業というページがあるくらいで、このブルータスの号自体が、農業という生き方をなんとなく「カタチ」的に格好良く見せている感じ。
で、正直な話、非常に大きな違和感を覚えてしまった。一言で言えば「農業」と「農作業」と「農」を一緒くたにしてしまっていることに違和感というか、気持ち悪さを感じてしまう。ブルータスのこの号ではきちんと意識して分別されているが、多くのメディアが無分別に使ってしまっていることがある。それは農業と言う言葉だ。「農業」とは「農」を「生業(なりわい)」にしている人のみが行いうることだ。つまり、貸し農園を借りて自宅用の野菜を作ったり、ベランダでガーデニングすることは、農業とは言えず、単に「農作業」であると考える。農業と言ってよいのは、作物を換金することで、家計のある程度をそれでまかなっている人だけであるはずだ。それなのに、多くのメディアが、芸能人や一般人がたまに畑を耕しているのを「農業」と言っている。そんなの、プロの農家に対して失礼だと思うけどね。僕自身、大学時代から6年間、小さく畑を借りていたけれども、「農業やってます」とは言わず、「畑やってます」と言ってきた。農家の師匠に恥ずかしくて、農業なんてとても言えたもんじゃないからだ。
ブルータスの今回の号の救いは、天皇杯受賞者とか、プロ農家の中でも篤農家とよばれる人達を掲載していることだろうか。けれども、紙幅は少ない。その人達をメインにするよりも、見栄えのいい、若手就農者のほうが絵になるからだろう。でもなぁ、、、それは社会に対するメッセージとしては適切でないように思うけどね。
■注
とこんな風に書いて帰宅後、もう一回読んでみると、ブルータスの記事では、前半の非農家の人たちの記事中では「農作業」ときちんと分けて書いていた。。。申し訳ない。ブルータス編集部はきちんと認識して書いているのでした。ということで表現を変えています。失礼、失礼、、、
先に挙げた日本農業賞にしても、畜産大賞にしても、おそらく一般の人がその受賞タイトルを見ても「で、これがなんで偉いの?」という疑問を持つだろう。農業に関わるテーマは非常に裾野が広く、多様だ。だから、「日本で最も美味しい豚肉!」とか「今までとれなかった○○を日本でも栽培できるようになりました!」とか、わかりやすいコピーを作りにくい。従ってニュースバリューが低く、一般にも浸透しないということなのだろう。
でも、それは仕方がないことだ。逆に一般人向けにキャッチーなネタのアウォードをしても、それは逆に農業界では「あんなの選んでも意味無いじゃん」というネタばかりということになるような気がする。
結論としては、、、一般マスコミももっと農業の深みまで浸かっていただきたい、、、そのためには、例えば新聞などでは農業関連を担当する部署の人間がコロコロ変わらないようにしていただきたいものだ。農業のニュースは、2年3年じゃぁ理解が難しいものだらけなのだから。
ともあれ 農業関連のアウォードに関心があれば、こちらをみていただければ網羅できる。僕がコンサルしている農業関連ウェブサイトで、情報内容は公的なものばかりなので信頼していい。
■みんなの農業広場 農業関連コンクールの情報
http://www.jeinou.com/contest/