ドイツの片田舎であるニュルンベルグの人達は、自分たちを冗談っぽく「Bavaria(バヴァリア)」と呼ぶ。僕はこの言葉をEL&Pの曲の「バーバリアン」のイメージで、なんとなく原始人的な響きを持って受け取ってしまうけれども、かつで小国が群雄割拠していたドイツの人にとっては、その時代の意識があるらしい。
「どうぞBavaria(バヴァリア)の生活を観においで」
と自宅に招待してくれたウォルフガングとアネッテに甘えて、ご自宅訪問。これがまた、カイザーブルグのすぐ横にあるアパートメントの最上階で、実に優雅な場所であった!
実はこのウォルフガングという人は、子御ぴゅー多システムの会社に勤める人なのだけど、プライベートでは絵を描く人である。
何枚かある大きな絵の一枚。
タイのビーチでこの二人と出会ってお話しをするようになったとき、音楽の趣味や美術に関する興味がかなりマッチしたことで、夫婦同士のつきあいをするようになったわけだ。それにしても彼の絵は初めて見たわけだけど、実に素晴らしい、、、
「これを君たちに」
と、小さな絵をもらった。そこには二つのボタンが描かれている。「この二つのボタンは君たち二人だよ」ということだ。額装して飾らねば、、、
僕たちからは、日本茶と急須・湯飲みのセット。
茶器も茶も、信頼する静岡の錦園 石部商店さんにセレクトしてもらった。モノクロームな色彩を好む彼らにぴったりだったかと思う。お茶の煎れ方のデモンストレーションもきっちりやったので、これからも楽しんでもらえれば。ちなみにドイツでも日本茶は好まれていて、薬局やティーショップに置いてあるようだ。
僕はいつも、佳い茶は60℃程度のぬるい温度で2分程度出して、鰹だしのような味にする。でも彼らとしては、「それもいいけど、二煎目のお茶もいいね」ということだった。うーむ複雑! 高めの温度でサッと出して、香りが強くなっているのが好まれるのだろうか。次回また、違う煎れ方でトライしてみたいと思う。石部さん、どうもありがとう!
彼らには、とにかくシンプルに郷土の味を楽しみたいとリクエストしていた。最初に連れて行ってもらったディナーは、豚肉料理が有名な店。ただし残念なことに、名物の骨付き肩肉をロースとしたものは売り切れていた!
でも、やっぱり豚肉を味わうということにおいて、ドイツ人の巧さは光っている。
前菜に選んだのは、もちろん血のソーセージ!
ハンバーグみたいに見えるのが、豚の血のソーセージを輪切りにしたものを焼いたのだ。こちらでは暖めて食べるらしい。サラダの野菜はマーシュ。ヨーロッパで広く食べられているもので、本当に美味しい。横須賀の長島農園の勝美君は作っているけど、日本ではこれを一般的に食べられないのが残念。本当に旨いのにね。
暖めた血のソーセージにリンゴのソースをたっぷり塗りつけてパンと一緒に。
す、す、素晴らしい! ネットリした食感に複雑な旨味、りんごの酸味と甘さがアクセントになって、食欲をそそるのだ。
そしてこちらがメイン。
名物料理が品切れということもあって、羊の足の煮込み。僕はどうもこの手の皿を奨められる傾向がある、、、(笑)まあ、美味しいからいいんだけどね。
でも、嫁さんが頼んだこちらの皿が絶品だった!
豚の肩ロースの厚切りの上にオニオンのみじん切りとマスタードを混ぜたものを塗り、オーブンでカリカリに焼いたもの。これに右上に写っているハーブバターを塗って食べると、強烈に旨い!
うーむドイツの肉料理は、醤油などの発酵調味料由来のアミノ酸の力を借りずとも美味しく食べることができる。さすがだ、、、
もち、ビールも堪能。酵母タイプのビールが美味しくて、ついつい呑んでしまう。
さて翌日は、ニュルンベルグ・ミュージアムへ。モダンアートの美術館で、ドイツのアーチストを中心にジュリアン・オーピーやナム・ジュン・パイクなども収集しているようだ。
考える人が自分自身を見つめて考えているというのか、それとも考えてる振りをしながら自分を自意識過剰に見つめているだけなのか。ナムジュンパイク作品。面白い。
それにしてもドイツの国民的写真家の写真作品がよかった。歴史的建造物なのかわからないけど、四角いマンションのような建物を撮っただけの作品があった。大判カメラのアオリを使ってゆがみが出ないように撮影されたものだったが、なぜか胸にぐっとくる写真だった。もうちょっと時間をとってゆっくり廻っても佳いな。
「いまは冬だからねぇ、いい時期じゃないんだよ」
とウォルフガングは言うけど、僕らはたっぷりニュルンベルグの風情を楽しんだ。一言で言えば町が美しい。人々もとても礼儀正しく優しい。ご飯も美味しいし、高くない(日本と同じくらい?)。非常に過ごしやすいと思う。
今回のドイツ最後の夜、やはり地元料理の店へ。
「ぜったいにこれにチャレンジするべきだ!」
とウォルフガングが言う「スモークビール」を試してみる。
あ、本当にスモークの香りがする!これは不思議だ、、、スモークの香りをどうやってつけたのだろうか。 単体で呑むには個性が強いが、豚肉料理に実に合う。
皮付き豚肉の煮込みと白いソーセージ、そして血のソーセージ。もうこれ以上はないというニュルンベルグ名物ばかりだ。
ここの血のソーセージは、がっちり茹でることで血の部分がすこしボソッとしたテクスチャだ。より濃い血の味が、スモークビールの強い味とがっちり四つに組み合う。
白いソーセージはマイルドな味。やはり豚肉の味がそのまま拡張されていて、人工的な味がまったくしない。旨い!
アネッテはヴィーナーシュニッツェル、ウォルフガングは骨付き豚肉のローストだ。
ローストの方にはやはり皮がついていて、これをカリカリにしたのが実に美味しい。ちなみに付け合わせはポテトを団子にしたもので、茹でたのか、もっちりしている。
ドイツのど真ん中とはいえないニュルンベルグに行ったわけだが、実に楽しかった!誇り高き地元料理のオンパレードに大満足。そして、ウォルフガングとアネッテのバーバリアン的優雅な生活にもとても感化された。彼らの家には一切のエレクトリックノイズがなかったのが、心地よかった。静かな街、静かな暮らし。こういう人生もまた、佳いものだ。
ウォルフガング&アネッテ、どうもありがとう!