やまけんの出張食い倒れ日記

和歌山県の北山村にて、必殺の希少柑橘「じゃばら」に舌鼓を打ちつつ、地域・地方・山村の将来に思いをはせた一日! その2

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和歌山県北山村のオリジナル柑橘である「じゃばら」。先週書いた前編のあと、いろんな人から「アレってどういう味なの?」という反応をいただいた。(一名、オリンパスのレンズ買ったという人も(笑))

僕を北山村にいざなった農工大の福井先生いわく、「じゃばらはオトナの柑橘」である。果汁やポン酢をいろんなものにかけて楽しむと、口に入れた一発目に本当に個性の強い、苦み走った香りがブアッと拡がる。酸味のキレは以上によく、口の中には香りの余韻が残っていく。まさにオトナの味である。

北山村では、このじゃばらが広まってから地元の人たちの日常的な料理に、普通に使うようになっている。例えば和歌山県の山村ではサンマ寿司という姿寿司がよく食べられるが、北山村ではサンマを酢で〆る際にこのじゃばらの果汁を使う。柑橘果汁を寿司につかうのは、徳島のスダチや大分のカボスなど、どこでもみられることだ。北山村の周辺でもユズが獲れるので、ユズ酢で〆るというのが普通らしいが、北山村の人たちに言わせると、「じゃばらを使うとサンマがギュッと締まり過ぎないから、旨い」という。

ちなみに、和歌山で寿司といえば、鯖をご飯と一緒にアセの葉で包んで半年くらい醗酵させた「なれずし」が有名だ。北山村でも作るらしいが、「みんながみんな喜んで食べる」という感じでもないようである。

さて、その北山村のじゃばらをふんだんに使った料理を楽しめる店が、「おくとろ温泉」という宿泊施設の横にある「かからの店」である。ちなみに「おくとろ温泉」は、北山村で唯一といっていい大型宿泊施設なのだが、食事内容が実にひどい。夕食はあらかじめこのかからの店に予約することをお薦めしたい。

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「かから」とは「かあちゃん」の意味である。店にはいると二人のかからが迎えてくれた。数年前から村長が北山らしい食を村外から来た人たちに食べて欲しいというのを、彼女たちが支えてきているということだった。

彼女の前にある大きな火鉢には炭火がおこり、すでに鮎が焼けていた!

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「こ、これ天然ですか?」

「あたりまえでしょうがぁ!」

北山村は川と峡谷が有名なところなのである。新鮮な川魚には事欠かない環境なのであった!

「じゃ、まずはじゃばら水で喉を潤してください」

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ちなみに北山村の水道水は、濾過フィルターだけ通して最低限の塩素しか加えていないそうで、実に実に実に実に実に旨い! 宿泊施設の部屋で蛇口を捻れば、ミネラルウォーターが出てくる!というくらいに旨いのである。びっくりしてしまった。

この水にじゃばらをパシュっと切って放り込めば、薫り高いじゃばら水の完成。
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写真中央が福井先生である。カンパーイ!
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前菜三種。一番奥が、地物の栗の渋皮煮。手前のゴマ和えは、北山村の人たちが愛する天然キノコ、「ネズミの手」と青菜だ。コリッとした食感に旨味のある味。むむ、これが生えているところを、我が心の師匠と勝手に思っている「KINOKO WEB」のように撮りたい!

真ん中がくだんのサンマ寿司。じゃばら果汁を混ぜた酢で〆ているという。なにもつけずほおばってみると、サンマが確かに柔らかい!そして、生のじゃばら果汁に感じる苦みばしったオトナ感は消え失せ、実にしっとりした香りと味わいになるのである。じゃばらで魚を〆るという技法、実に佳い!

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食前酒は「じゃばら酒」。実はこれ、日本酒とじゃばら果汁を加えたリキュールで、爽やかに甘く美味しい。この手のリキュールは甘ったるいものが多くて閉口することが多いけど、これはそのまま、氷を落として呑んでも美味しい。
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じゃばらは10月後半~12月くらいで獲りきってしまう。その間が最も香りが強く出る時期なのだそうだ。だから、それ以外の期間は、あらかじめ絞っておいた果汁を瓶や一斗缶に詰めたものを各家庭で使っている。僕が行ったときは、まだ未成熟だけど香りは出ているのをもいでくれていた。

「やまけんさんね、このじゃばら果汁を焼酎に合わせると、安い焼酎でも旨くなっちゃうんですよ!これ試してください。」

と福井さんが、焼酎割りを勧めてくださる。
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この黒潮という焼酎は、どちらかというと呑んだとたんにガッと焼酎臭が鼻をつくものだったが、じゃばら果汁と合わせると、そのクセをじゃばらの香りが押さえ、ほのかな苦みが落ち着きを感じさせ、そして果汁に含まれる穏やかなアミノ酸が旨さに変容する、実に美味しい飲み物となった。

「こんなに素晴らしい果汁ですから、美味しい焼酎と合わせて『おとなの焼酎セット』なんてのを販売しようと思っているんですよ!」

おお、いいなそれ、俺も買います。なんといってもこの果汁瓶が実に佳い!じゃばらのクセの強さは、料理や飲み物のじゃまをしそうに思ったけれども、そんなことはなくて非常にいろんなものの味を佳くするクセなのかもしれない。

さて、鮎が焼けた!
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当然、実をがばっと開いてじゃばらを絞りかけ、かぶりつく。じゃばらの個性が鮎の端麗な実をまた違う味に変えている。

「はいこれ、じゃばらの皮でつくった、ユズ胡椒ならぬじゃばら胡椒。」
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おおおおおおおおおおおおおおお!
じゃばらの皮と青唐辛子で仕込んだじゃばら胡椒! これも製品化に向けて動いているというものだ。いただいた試作品、若干塩気が強いような気がしたが、ビリッと効く辛さにじゃばらの香りがマッチして旨い。鮎の実につけて食べると、柔らかい鮎の個性がいきなり濃く変化した気がする。
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うおっとでた! 僕が、さっきのサンマ寿司を喰いたい喰いたいと言っていたら、鯖寿司とサンマ寿司の競演である。もちろんじゃばらを絞っていただく。あまめの酢飯にじゃばらの強い酸が効いて、旨くなる!

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それにしても北山村の郷土料理は実に旨い。
「普通のものしかないよ」
というところほど、その「普通のもの」のレベルが異様に高く、珍しいものに彩られていることが多い。北山村はその典型だといえる。これだから、地方巡りは辞められないのである。

さあて、お母ちゃんがにこにこしながらワゴンを押してくる。なんだなんだ?
メインディッシュである。
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パン包み焼き?何じゃらほい?
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なんと鹿肉のパイ包み香草焼きである。こいつぁ驚いた大技だ!
塩をたっぷり使った小麦生地でローズマリーなどの香草と肉を包み、蒸し焼きにする。実は後日、埼玉の実家に戻ってオフクロが買っていた「きょうの料理」のバックナンバーを観たら、牛肉を使ったこの料理が載っていた!お母ちゃん、さてはアレですな、、、
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ご存じの方も多いだろうが、山間地の農業は鹿やイノシシなどの鳥獣害にやられてしまい、全国的に危機的状況である。収穫間際に、全てを食い尽くしていくのだ。鹿を打ち、その肉を食べるということをもっと恒常的に行わなければならないと思う。
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タマネギの代わりにらっきょうを使ったという母ちゃん特製タルタルソースにじゃばら胡椒を載せ、じゃばらを絞っていただく。ジビエというより、郷土的な鹿肉の味になる。旨い!

しかし真のメインディッシュはこの後に運ばれてきたのだ。

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この地方の名物、めはり寿司である。

ああ、もうホテルのチェックアウト時間だ!(いま、札幌にいます)


このめはり寿司の旨さはもう一回書く!