いま、高知です。〆切地獄に陥りつつあるのだけど、先日のエントリ「「農業ビジネス」はくそくらえだ。」について、いろんなところからメールの反響をいただいた。みんな、関心あるのね。朝の原稿書きタイムに、ちょこっとだけ進めておきたい。
「付加価値の高い商品(例えば有機農産物)を作って、効率的な流通をすれば、今まで以上に魅力的な販売ができると思うんですよ」
というセンテンスに3つの間違いがあると書いたけれども、よく考えたら二つだった(笑)
まず最初の間違いは「付加価値の高い商品は売れる」というものだ。ほかの商品領域については正しいのだろうと思うけど、こと農産物はそういうものではないことが多い。重要なのは、買手が希望する流通の中にその商品がはまるかどうかということだ。
付加価値の高い農産物ってなんだろう。これは、実は全国の農業関係者の頭を悩ましている問題だ。消費者やその辺のマーケッターからすれば「有機農産物とか、、、農薬を使っていないものとか、、、」と言うだろうけれども、JASにおける有機農産物の格付け実績をみれば、H18年度でたったの0.17%である。これに、煩雑な認証を必要としない特別栽培農産物(昔に減農薬・減化学肥料と言っていたものだ)を加えてようやく農産物全体の5%になるかどうかというところではないだろうか。付加価値の高い農産物が飛ぶように売れるなら、もっとこの数字は高くなるはずではないか。
現実的には一部の消費者を除いて、スーパーや外食店等ではこうした野菜類は言われるほどに手に取られることがないのである。生産側からすれば、「農薬農薬とうるさく言うなら、農薬を使わない農産物をもっと買ってくれよ!」と叫び出したいところである。というか、もう声がかれるほどに叫びすぎて、やる気をなくしたという人が多いのが実情ではないだろうか。消費者は「うーん、安全なのはわかるけど、ちょっと高いわね」と、有機野菜の隣にある普通の野菜を買う。
何が「ちょっと高い」のか?理解しかねる。一般のコマツナが一束158円とすれば、有機のコマツナは230円程度だろうか。たかだか70円程度の差だ。野菜を10品購入したとしても、一般野菜との差額は500~700円程度だろう。4人家族で2日に一回買い物をするとしても、一ヶ月で負担額は10000円程度である。「一万円は大きいわ」という人も多いだろうが、他に削る先はあるんじゃあないの?と言いたい。総務省の家計調査をみると、家計における食費の割合、つまりエンゲル係数はたった22%である。昭和初期には50%以上だったエンゲル係数は90年代にはいり25%台に突入し、今も低い水準で推移している(今年度は穀物高騰などで若干上がるはずだが)。その食費の内訳を見ると、ずんずん上がっているのは中食分野である。つまり家で食べずに中食で使うお金が大きい。中食商品を買うよりも、野菜など原材料を買って家で調理して食べる方が確実に安く上がるはずだ。1万円程度のコスト削減は可能なのではないだろうか。つまり、有機食品が高いから買わないという話は、単なるエクスキューズだとしか思えない。
話が脱線したけど、そもそも有機農産物や特別栽培農産物は、買手がだいたい決まっている。つまり有機・特栽を求めて買いに来る客をもっている買手は、だいたいもうすでに枠がある。その枠を満たす生産者はすでに居て、契約取引を行っている。ニューカマーは重宝されるとは思うけど、有利販売をできるような状況ではないと思う。
有機農産物以外の付加価値はどうか?
ユニクロのファーストリテイリングは、エフアールフーズという会社を立ち上げ、りょくけん農法の高糖度トマトの販売を核に展開しようとしたけれども、早い段階で撤退した。スターとなりうる商材を確保したとしても、その販売収益で食べていくことはとてもできなかったわけだ。
ということで「付加価値の高い農産物は売れる」というのは、そう簡単な話ではないということを書いた時点で、ブログ書きに割いた30分が過ぎたので、原稿書きに戻ります。本日の高知は雨の予報だったが、晴れ男の努力により若干の曇りといったところ。