今回の二戸出張は、雑穀がらみである。岩手県二戸市は日本最大級の雑穀産地だ。雑穀とはここでは、ヒエ・アワ・イナキビ・タカキビ・アマランサスなどのことを指す。しかしこれまでは二戸周辺の地域で収穫された雑穀作物に、統一的な基準がなく販売しにくかった。
そこで、栽培基準を統一し、統一マークを定め、産地ブランドを創り上げていこうという動きに取り組んでいるのである。
これが今回発表されたブランドマークだ。
ちなみにどんな栽培基準かというと、二戸管内で生産したもので、二戸で選抜された系統の種子を用い、そしてなんとなんと無農薬で栽培されたものに限定される。化学肥料については使用を問わないが、有機質肥料等を入れて地力の向上を図ること。となっている。実は雑穀は、日本では数少ない、無農薬で造りやすい作物なのだ。
んでもって、記念講演ということで僕が話をさせていただいた。ブランドマークが決まったからといって、これは単に産地側・生産者側が勝手にやったことである。今後、このブランドが消費者レベルにまで浸透するか否かは、今後の取り組み如何にかかっているのである。
ただ、全国的な雑穀ブームの中、そろそろ「雑穀にも善し悪しってあるの?」という疑問が生まれてくる頃だろう。そうなったら、基準をきっちり定めた二戸は有利である。
さてさて小難しい話は後だ。
いつも二戸の定宿になっている二戸パークホテルにて、柴田料理長が雑穀創作料理を供してくれた。
また、農家のお母さん方の料理グループ「つたえ隊」の方々の料理も所狭しと並んでいる。
あまりにも皿数が多くて、撮しきれないうちに会食スタート!ものすごい勢いで人が皿に殺到する(笑)
実は今回、存外に旨いもんだなぁと思ったのが、名物(?)せんべい汁。
塩味の美味しい出汁にせんべいが溶けて、すいとんのようになっていた。
てな感じで会は終了。よかったよかった。
来年以降も引き続き、いろんな形でサポートさせていただくことになるかもしれないという話だった。
さて、会の終了後は一路、二戸と合併された浄法寺地区へ。もちろん、僕がオーナーとなった短角牛を見にいくのだ。案内人はもちろん、僕と同い年の短角バカ、杉澤君と、週アスのヘビー読者で、通販アスキー365でホイホイ衝動買いしまくっちゃう三浦氏である。
ごらんの通りの雪なので、夏の間あんなに緑の濃かった牧野にはもう草は生えていない。雪が降ると同時に、短角牛は放牧をやめ、畜舎に入ることになる。
僕が短角牛を所有させてもらっているオーナー制度では、この牛舎での管理も一日500円で請け負ってくれる。監守さんがきちんと世話をしてくれるのである。ただし本来は、オーナー制度といえどもたまには顔を出して、世話をするのが通常だ。二戸市に住んでいない僕の事情を鑑みて、杉澤君が肩代わりをしてくれているということだ。
この娘はまだ鼻鐶をつけたばっかりなので、縄を引いても僕の方に寄ってきてくれない。餌となる乾燥を鼻面に向けても嫌がって向こうに行ってしまう。隣の牛が「それならあたしにちょうだい~」と下を伸ばしてくるのに、、、あーあ、お父さん嫌われちゃいました。しょぼーん、、、
ちなみにこの娘のおなか、ぱんぱんに張りだしているのがわかるだろうか。おなかの中には子供がいるのである。ただただ、順調に春に産まれてくれることを望む。
「3月くらいかな、産まれるのは」
と杉ちゃんがいう。3月、できれば出産に立ち会いたいが、、、人間の都合で生んでくれるわけじゃないからなぁ。ちなみに生まれた子供をどうするか。オーナー制度では、産まれた子供を家畜市場に出荷して販売することで、投資を回収していくのが普通である。
けれども僕は、営利目的でこの短角牛のオーナーになったわけではない。産まれた子牛は信頼できる肥育農家さんに預け、太らせていただき、山長ミートに肉にしていただき、皆で食べる。牛を育て、そして屠って食べる。ヒトが意識せずに食べている食肉という世界を、見えない部分を見えるように体験するためにやっているのである。
もちろんそのときには200Kg以上の肉になるから、大オフ会でもやらないとさばけない。是非その際には読者の方々に参加していただきたいと思う。
ちなみにこれが、牧草を巻き込んでラップしたサイレージ。乳酸発酵して、甘酸っぱいにおいになっている。牛はこのにおいが大好きらしい。ごちそう食べてよく育ってくれよな。
ここ一週間、岩手も激烈に寒いという。確かに寒い!
「じゃあこれから、すんげージビエ食べに行くよ」
と連れて行ってもらう途中、三浦氏が所用でお店に入っていった。
「ここのおばあちゃんに、雑穀水飴っての作ってもらったんだよ。蕎麦を打ったり、いろいろなものを作れるおばあでね。」
お、それはおもしろいと思わず僕も入っていくと、誰もいない販売所の中、茹で蕎麦などが売っている。
おー なんか蕎麦くいたいなぁ、、、
と思っていたら!
「おー よぐ来たな、蕎麦くってけ!」(←意訳) と言うではないか!
杉ちゃん思わず「夕飯前だけどなー」と漏らすが、こういう機会にのらない僕じゃないのだ!
二階に上がると、ここが昼だけ営業している蕎麦・料理屋「田舎の家」だ。
店主である堀口京子さん。お母ちゃん、である。
「豆腐煮たの食べるかい? あたしが打った自家製の豆腐だよ。それをうんと美味しい汁で炊いたんだわ。」
おーーーーー 食べる食べる、食べないわけない!
そう、岩手の中山間地では豆腐を自家製で造る家が多い。というか、昔はそれが当然だったようだ。しかも、極めて質実剛健に堅い、幅広の竹串に刺して振っても落ちない硬度を誇るのだ。
と、鍋をのぞいてみる。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
旨そうじゃないかぁあああああああああああああああああああああ
昆布に煮干し、椎茸に根菜類とともに甘じょっぱく煮付けているんだろう。
「ヒエご飯にトロロかけて食べるかい?」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
食べる食べる食べる!
ひええええええええええええええええええ (←ヒエ飯だけに、、、)
すさまじく旨そうである!
この、ぬどーんと大きい一片が「半丁」だそうである。グダグダに煮込まれているはずだが、きっちり形を保っている。そして、その豆腐を切り分けると、、、
完全にスが入っている。しかしそのスの中に煮汁がしみこんでいるのだ!
口に運ぶと、都心で食べてる味気ない豆腐が10倍くらい凝縮された香りがして、思ったより柔らかなあっさりした味の煮汁がじゅっとにじむ。
うーむ
メシが食えるよ!
ヒエ飯にトロロをかけてすすり込むと、ヒエ飯のポソポソした食感がトロロのなめらかさで全く別物になり、独特のひなびた風味が産まれる!
そして極めつけはこのたくあんだ!
なんと美しい、、、
「それはね、米ぬかじゃなくて玄米漬けなの。」
ええ? たくあんじゃないねぇそれだと!
「そうそう、ぬかで漬けるよりもね、あっさりして美味しく漬かるんだわ。贅沢でしょ」
本当に贅沢だ! べったら漬けの5歩手前くらいの甘さ、しかし大根のシャッキリ感が残る歯ごたえ。そしてプワンと鼻に抜ける上品な香りがたまらん!この漬け物だけで6枚食べました。
そして真打ちの蕎麦だ!
辛み大根が上に乗った、暖かい蕎麦。
正直、この寒い寒い山間部では盛りそばなんて食いたくない。暖かい汁蕎麦がスタンダードである!
「おばちゃん、もしかしてこの蕎麦、何割?」
「十割だよ」
「おおおおっ あ、でもこの食感、もしかして湯ごねかな?」
「ん、少し湯ごねして、水ごねと合わせるんだよ。」
というやりとりをしながら、バキュームさながら蕎麦を吸い込みまくる。
優しくてずっしり腹にたまる、穏やかな味だ。
しかしお母ちゃん、このタイミングですごいことを言うのだ。
「あのね、松茸ご飯残ってるんだけど、食べる?」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
食べます。
食べないわけないです!
実は岩手県北は松茸の北限だ。
香りは丹波などには負けるけど、食感と味はよい。ありがたく、ありがたくいただいたのである。
「あのさ、これから鍋食うんだけどな、、、俺も思わず食い切っちゃったよ」
と杉ちゃんも茫然自失気味。
それにしても二戸・浄法寺は奥が深い。
お母ちゃんである堀口京子さんから一言。
「あのね、この店には客が来ないのよ!お客さん連れてきて!」
ちなみに店の立地は浄法寺の庁舎から歩いて1分である。好立地!とはいえ、考えてみればこうした山の食を出してくれる店は、現地の人にとっては「普通の食卓」なのかもしれない。しかし、東京から足を運ぶ僕なんかからみると、その立地、たたずまい、お母ちゃんの際だったキャラ、そして出てくる料理のかけがえのない美味しさ、たまらないくらいに佳い!
お母ちゃんごちそうさま。お客さんつれて今度また食べに行きます。
そして、まだまだ浄法寺の夜は始まったばかりなんである。