「素材にこだわる」というのは、飲食店で力を入れる最もわかりやすい部分だ。そのこだわり方にもいろんなレベルがあって、たとえば農家から直接野菜を宅配で仕入れていたり、養豚業者さんに頼んで、特別な餌をやって通常よりも肥育期間を長くして、などなど、思い思いのこだわりを反映していると思う。
当然のことだけど、素材に最も肉薄できるのは生産者自身だ。そうなると生産者がレストランをやればいい、ということになりそうだが、まず当たり前のことだけど生産者が固定されてしまう。全部の素材を高いレベルで生産できる人ならいいけど、そんなスーパー生産者は、残念ながらそうはいない。
実は、生産者に限りなく近い立場で流通をしている人が店をやるというのが、現実的な解だと僕は思う。複数産地を持っているわけだから、それぞれの素材で技術の高い生産者のものを揃えられるし、だいいち食材を卸値で仕入れることができるからだ。
そういう言う意味では、広尾駅から歩いて7分のところに位置する「山藤」はかなりいいスタンスを持っていた。なにせ、日本最大クラスの有機・特別栽培農産物や畜産物・海産物・調味料などを取り扱う「大地を守る会」の直営店だからだ。
過去数回この店のことを書いたが、それは首都圏で安定して短角牛を食べることができる数少ない店だからだ。そういや昨年実施された「日本一高い牛丼の会」で出た牛丼、あれは忘れることができない旨さだ、、、
で、前置きが長くなったけど、その山藤二号店が生まれた。オープン前の内輪の試食会に呼ばれたので行ってきた時の素材と料理があまりによかったので、すでにオープンしたけど書いておきたい。なので、このエントリに掲載する写真は、すべて正式メニューの決まる前のものです。正式メニューにも載っているものが多いとは思うけど、そのまんま出るとは限らないので、その辺よろしくお願いします。
有機和食 「山藤」 広尾店
住所 東京都渋谷区広尾5-4-11 ベルナハイツA棟2F
※東京メトロ日比谷線広尾駅2番出口より徒歩30秒
電話 03-5795-2683
営業時間 18:00~25:00 (ラストオーダー24:00)
休 日曜・祝日
店の位置は、なんと山藤の一号店と目と鼻の先、地下鉄広尾駅前である。ていうか何というか、立地的には一号店よりも全然人通りが多いところにあるので、こっちの方がいいじゃん。店の構えも和風居酒屋というコンセプトにしては現代的でかっこいい。かつ、おちつくしつらえだ。
こちらの広尾店には我らが梅さんが板長として移動。彼こそ、岩手県山形村に3年間出向し、村内の食生活指導など様々な遊び(?)をしながら、山形村の郷土料理文化をすべて吸収してきた人間である。
厨房をみるとわかるように、焼き物用の焼き台がどかんと据えられている。手前にはでかい羽釜もある。
「料理法としてはシンプルに、「焼く」ってのをメインにしたいんですよ」
ということだ。いいんじゃないだろうか。
気になる素材だが、大地を守る会の宅配で採用されている食材がベースで、鶏肉は「北浦シャモ」、豚肉は「仙台黒豚」、牛肉はもちろん山形村の短角和牛だ。
野菜はもちろん、大地の生産者会員さんのものだ。
突き出しに出てくる青菜の煮浸しですでに旨い、、、使っている出汁が実に味わい深い。一番だしを惜しげなく使ってるんだろうか。
季節柄、カブラ蒸しが実に旨かった。
アブラナ科植物であるカブが持つ辛み成分がプンと一瞬だけほのかに鼻を刺すのが心地よい。
さて待望の「焼き」である。
のっけからビビッたのが、官能的な北浦シャモのレバーである。
みよ、このセクシーショットを!
照り照りと妖しく輝く表面、そして歯を立てると、生暖かくうま味が活性化した、しかしトロトロとろける加減の、ぎりぎりの火の通しだ。一発でKOをくらってしまった、、、
「オープンしてから一般のお客様に出すときには、お嫌いな方もいらっしゃるといけないので火をキッチリ通すことになるとおもいますが」
ということだったので、レアが食べたい人はあらかじめ伝えておいた方がいいだろう。
お次は砂肝。
でかい!そして色が実に綺麗。
ズリン!
と強い食感で歯が突き通っていく。いやな風味皆無の潔い味だ。
正肉の前に、趣向を変えてなんとウナギ。
これ、実は四万十川で養殖されたウナギだ。大地を守る会は水産物とくに養殖に力を入れていて、餌や投薬などの厳密な基準を生産者に課している。というのはどうでもよくて、このウナギは実に清廉な落ち着いた味がするのである。
仙台黒豚の串焼き。間に挟んでいるのは大葉。
仙台黒豚、旨いのだ。鹿児島の黒豚とは別系統のバークシャー種を使っていたと思うのだけど、バーク特有の濃厚な味わいが楽しめる。この串焼きの大葉は、濃厚な豚の脂を緩和させるためだと思うのだけど、ちょっと蛇足だと思ったのでない方がいいと思うよ、と言っておいた。オープン後どうなってるだろうか。先日言ったときにはどかーんとでかい肉塊を焼いたのが切り分けられていたが、その方がいいだろうな。
さて北浦シャモの正肉。
「あのね、北浦シャモの正肉は、旨いけど結構ふつう。やっぱりこいつは内臓が最高だね!」
ということだったが、確かに正肉は、美味しいけど際だつものではないかも。でも食わないとちょっと落ち着かないんだけど、しかし内臓肉のような感動はなかった。人間とはなんとも贅沢な生き物だ。
でも、手羽は実に清々しいおいしさが発揮されていた!
いつもやるんだけど、手羽の骨をかみ割って、なかの髄を味わう。
ブロイラーのはドス黒くなっていたり濁った味がするのだけど、餌も肥育期間も、環境もよく丁寧に育てられた鶏の髄はなんとも清潔な味なのだ。
そうそう店内はこんな感じ。落ち着いていて、居酒屋というよりはカウンター・テーブル割烹という感じだ。
帰ってから原稿を書かないといけなかったので、酒は飲まずに炭酸水。
これ、なんとも美しい、ごくごく微発泡の天然炭酸水なのだそうだ。しかも国産。
デリケートで非常に淡い、おいしい炭酸水だった。
さてメインディッシュは、、、岩手県久慈市山形町の短角牛だ。 これまで山形村と書いていたが、実はさきごろ、久慈市と合併して「久慈市山形町」という名称が正式になってしまった。なんか残念だけど、生産者はみな元気に短角牛生産を続けておられる。
短角牛の旨さについてはもう何度も書いていることだから、ここではあまり触れない。
ただ一点、触れておかねばならないのは、山形村の短角は、国産飼料のみを投入して生産されている。輸入穀物飼料は一切使っていない。それが大地基準なのである。だから、二戸市の短角牛とはちょっと味の傾向が違っていて、よりマイルドな感じがする。この辺は、並べて食べてみないとわかりにくい。いずれ実験してみたいと思う。
野菜は小金井の生産農家さんの圃場から、山藤の店長である前田さんがいつも摘んでくるそうだ。
その日はいった野菜でいろいろリクエストに応えてくれる。
にんじんやゴボウ、カブといった今が一番旨い野菜を、シンプルに焼いてオイルと塩だけ振って、というのが実に旨い。これこそ素材の味が一番わかるので、試してみるといいだろう。
さて、
短角牛の味噌煮込みとご飯で〆だ。
と思ったけど、まだ食えるのでちりめん山椒でお代わり。
これで〆、と思ったら、梅さんが「ヤマケンさん、豚丼試してみたいから、食べて」というのでもういっぱい。
この豚丼、焼き鳥のタレでさっと焼いただけなのだけど、豚肉が薄切り過ぎるので仙台黒豚の旨さがようわからん。ということを進言しておいたので、メニューにはもう少し厚切りで掲載される、、、と思う。
いやー食った食った。
この日の後、オープン後の店に足を運んだら、もう店が予約客でいっぱい。
あとからフリで来たお客さんを断っていたから、相当に入っているようだ。よかったよかった、、、
それにしても
歓迎すべき店の登場だ。注文をつけるとすれば、店のなかに生産者の顔やら情報やらをもっと掲示してもいいのではないか。僕がみたいのは、僕が口に運んでいるその食材の素性、なのだから。
前田さん梅さん、オープンおめでとうございます。
これからが勝負ですね、がんばっていいものを出してください!
また食べによらせていただきます。
ところで、
このエントリの写真、自分でも快心と思えるほど色っぽく撮れていると思うんだけど、E-3はこの時点では試用もしていなかったので、オリンパスのE-410で撮影している。クリップオンストロボを三脚につけて横から光りをあてて撮影しているのだけど、それにしてもやはりE-410はすばらしいカメラなのだ。E-3を持ってからE-410を持つと、あまりの軽さに笑ってしまう。しかもレンズは標準の、プラスチックマウントの、入門機用のものである。オリンパスさん、この超軽量・高画質路線は絶対にキープしてくださいね、、、