ジャガイモの食べ比べ会が終わったと思ったら、もう次回が迫ってきている。1月19日(土)は、ネギの食べ比べだ。関心のある方はぜひ日程を空けておいていただきたい。色んなネギを多角的に評価する会としたいと思っている。
それにしてもネギは東西で文化が全く違うなぁ、と思ってしまった。僕は愛媛で生まれ落ちてから、すぐに埼玉に移って育っている。母親はどちらかといえば関西の料理を出していたが、その頃青ネギは手に入らなかったのだろう、白ネギが我が家の主流であった。いわゆる万能葱を手にしたときは、「食うところの少ない葱だなぁ」などとおもったりしたものである。しかし関西では青ネギが主流。その美味しさを僕は余り理解しないままにここまで来てしまった感がある。
ということで、兵庫県西宮市にやってきた。
なんで西宮?
実は2年前、とても印象的な出会いがあったのだ。
「東京バルバリ」がまだ「ぼんぼり京橋店」という名前だった頃、カウンターでいつものように飯を食べ、会計しようとしたら、対面に居たご夫婦が声をかけてきてくれたのだ。
「やまけんさんですよね?僕、出張で出てくるときに貴方のページをみてここに来たんですよ!」
「おおおおそうなんですかぁ!」
「実は私、葱のブリーダーなんです。そしたら、今日の料理の中に僕が育種した芽葱(めねぎ)が使われてて、、、感動してたところなんですよ!」
「えええええええええええええええ 葱の育種? 今度ぜひお話を聞かせてください!」
というやりとりがあったのだ!
その後メールで数回連絡を交わし、いつか食べ比べをするときにはスーパーバイザーになって欲しいとお願いしていたわけである。その時がとうとうやってきたのだ。
西ノ宮駅から歩いて5分とかからないところに、日産種苗合資会社のビルがある。事務所一階には、様々な品種の苗がごった返していた(機密かもしれないので掲載しません)。
「これ、なんだかわかります?」
「うーん、、、全然わかりません!」
「刺身のツマですよ。」
「あ、じゃあこの紫色からすると、紅たでじゃないですか?」
「そうそう。うちで品種作ってるんですよ、、、」
なんとなんとそうだったのか!
品種の世界は非常に多様だ。かつてはそれぞれの地方で、民間育種家が土地にあった品種を創り出していた。それも、在来種を数代にわたって交配・選抜し、望みの形質・性質をもったものを選り抜くという方法だ。その後、国や都道府県の試験場が品種改良を行うようになっているわけだが、最も熾烈な戦いをしているのが民間で育種を続ける種苗会社だ。サカタのタネやタキイ種苗などの大手以外にも、大小いりみだれて種を開発する会社が存在している。
「うちなんかは本当に小さい種苗会社なんですよ」
という舟橋さん。彼のお父さんが立ち上げたこの日産種苗、「小さい」と謙遜されているが、ネギの世界ではその名を轟かすブリーダーなのである。
この証書は、九条葱の栽培品種の登録証だ。「大黒宝」という、九条葱の栽培農家の間では名品として語られているネギ品種だ。開発された品種は、このように農林水産大臣の名によって登録されることで、他人が侵すことのできないパテントになるのだ。
「やまけんさん、暗くならないうちに畑みにいきましょう!」
え、マジですか?
今日は2時間くらい座学を学んで、っていう日だと思ってました、、、
車に乗ると、東京でお会いした際にいらっしゃった奥様が運転席に。西宮から京都府の伏見までの快適なドライブが始まったのだ。
道々話しをきいていたら、本当にスケールがデカイ!
育種された品種は、大きな畑で増産して種を取らないと販売できない。その種生産の圃場はなんとチリやオーストラリアなど、地球の裏側にあるのだ!
実は先日、ヒアリングお願いの電話をかけたら、10秒くらいかかって「ヘロー?」と繋がった。
え?
とおもって「もしもし?」というと、舟橋さんが「はい、フナハシです」と仰る。なんとチリに居るときにかけてしまったのである。あのタイムラグは凄かった、、、
そんなこんなで海外も含めて色んな処に出張するため、奥様もご一緒されることが多い。そしてはんぱじゃなく色んな有名レストランを食べ歩いていらっしゃるのである。名前に挙がるのは、煌めく星付きレストランから、とっておきの秘密のレストランまで多様である。
さて伏見に着いた時にはもう真っ暗になりかけていた。
オリンパスのE-410に標準レンズをつけていると、あまり暗い時にはフォーカスが合ってくれない。
畑全景を写せなかったのは残念だが、この辺は町全体がネギを生産している地域だということだった。そろそろ冷えてきた風に乗って漂うのはもちろん、ネギの香りである。
生産者は石田さん。20年前に脱サラして兄弟で九条葱をメイン品目にしている。京都府から京野菜の九条葱農家として認定されている、正真正銘のお方だ。
ネギの栽培で面白いのは、ネギ苗は非常に生命力が強く、苗床の状態で一年おいといても大丈夫だということだ。マジ?これがセルトレイの苗床。
実はここですでに技術が発揮されている。
一つのセルの中に、一本ではなく4-5本のネギ苗が植えられている。
もうこれだけで一つの技術なのだそうだ。
この状態からどんどん伸びて立派な大きい苗になってくるわけだが、日数を持たせるためには、上に伸びてくる部分を草刈り機でバリバリ刈ってしまえばいいんだそうである。マジ?
「もうね、セルトレイの土がほとんど無くなって、根っこだけでグルグル巻いてくるんですよ。」
「このまんま上を刈っていって、適切に処理してあげると、1年でも保ちますよ。それを植えればきちんとネギが穫れるという状態で残るんですよ。」
と言って石田さんが見せてくれたこの苗が、1年モノだ。
根の上の部分が数センチ、コケむしているのがわかるだろうか?しかし根は全く健全。
これを床に植えれば立派なネギに育つのだそうである!
従って、育苗(いくびょう)をまとめてしてしまい、適切に管理しておけば、1シーズンにどんどん収穫~再度の定植をして、生産の効率化を図ることが出来るということか。面白い作物だ!
収穫した葱の土を落とし、結束する作業場。
この後、洗いにかけて梱包する。
石田ブラザーズは、品評会では入賞の常連だ。
ネギの他にも淀大根などを栽培しているそうだが、「これは自家用だけ」という。本物の淀大根、、、食いたい、、、それにしても石田ブラザーズ、実にいい顔、そしてお二人とも脱サラでこの道を継いでいるせいか、実に人とのコミュニケーション能力が高い。篤農家はこうじゃないとね!
「さてと、、、じゃあネギをたくさん、食べに行きましょう!」
「え?どこにいくんですか?」
「祇園のうどん屋さんです。」
といって、舟橋さんと石田さんがニマーっと笑う。
ただごとではない予感の中、車は一路祇園へと進むのであった。
(続く)