子供の頃、瀬戸内の海に面した今治出身のうちのおふくろがよく作ってくれたのが、甘辛いカレイの煮付けだった。姿のままワタだけ抜いて、身肉に十文字の切れ目をいれて煮付けたそれは、ホロホロと上品にはがれる肉や、食感が違う縁側の部分の旨さもよかったが、一番好きだったのは最後に残った煮汁をご飯にかけて食べる、しるかけご飯だった。若干身肉がちれぢれに残ったその甘辛い煮汁を、白飯にたっぷり染みこませて食べる。これほどに旨いものはなかなか無いと思っていた。
魚料理といえば、刺身が何より先に来そうだが、〆にはやはり何より煮魚の汁かけご飯が好きなのだ。
「富士酢」の飯尾醸造の飯尾君の紹介で、ある会合を持つ。場所は築地の水産部の仲卸の若旦那が営むお店。魚河岸の漫画のモデルにもなった小川さんである。
■魚河岸三代目 千秋 はなれ
http://www.3daime.jp/hanare.htm
一昨年に第一期を開催した「就農塾」というセミナーに参加してくれた飯尾彰浩君、最近は食関連の学校講師などで引っ張りだこである。
最後に金目のお頭の煮付けと、マグロの尾の身の煮物が出た。骨付き身肉をしゃぶり尽くした後は、これしかない!
このためにその前の時間があった、と言っても過言ではないのである。
この店の煮魚汁は開店以来ずっと煮詰めながら毎日使っているもので、色んな魚の旨みが溶け出しているとのこと。ギットリ濃くみえる黒々した汁だったが、舐めてみるとそれほど塩分濃度は濃くなく、魚のアミノ酸が溶け出した複雑な旨さだった。コダマさんごちそうさまでした!
帰り道、かちどき橋を渡って月島の入り口まで歩く。
築地市場はこれからが荷受けの忙しい時間を迎える。水産部の船着き場にまた一艘、船が着岸しようとしていた。